異変
異変に気が付いたのは、私が十七歳になって数か月が経った後のことである。
高校生活最大の行事といってもいい、修学旅行の一夜目、宿舎の一室には、静まり返った外の環境とは裏腹に、私たちの話声が響いていた。当然部屋には私たちを除いて誰もおらず、またその部屋が周りの部屋から離れていたこともあって、誰も私たちを止める者はいなかった。
クラスの人気者の話、部活の話、明日の旅行計画についての話、好きな人の話、そんなことをずっと話続けていた私たちは、不意にある話をし始めた。
そう、怪談話だ。
だが、私に自身が体験した明確な霊体験などなかった。かといって、怪談話として語れるほどの物語も記憶には残っていなかった。
どうしたものかと悩むうちに、私の出番が回ってきた。仕方がないからなにか適当に話を作るかと思ったその時に、ふと私の頭をあの出来事が過ぎった。
…そうだ、あの三途の川の話をしよう。あの時、ちょうど私はその出来事を整理してノートにまとめている。これなら、辻褄を合わせてしっかりと話すことができそうだ。
私は開きかけた口を一旦閉じて、あの時のことを思い出す。今思えば、死神など馬鹿馬鹿しい話だが、この高揚感にあてられた雰囲気でなら、充分怖い話になると思った。
「そう、あれは小学六年生の時…。」
…初夏の暑い日、体育の授業の最後、運動場の真ん中に集められて。
「それで、立ち上がった瞬間意識が遠のいて…。」
…そう、恐らく脱水症状か熱中症で。
「次目覚めるまで、自分の家のベッドで寝ているような感覚になってさ。」
…あれは、今までに感じたことのない心地の良さだった。
「それで起きたら周りには誰もいなくて、地面が目の前にあって、あー俺倒れたんだって。」
…そして頬に傷ができていて。
「だけど、そのまま普通に一人で教室戻ったんだよね。普通に三時間目にも間に合ったし。」
…そう、担任に心配されながら。
おおよそこんな感じだったはず。よし、ここから、例の死神の話を。
…ん?
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