幕引き

 あの時、必ず運動場には多くの人間がいたはずだ。そして、心配してくれる担任も、気遣ってくれる友人も、私の周りには確かに存在したはずだ。いや、もしそれが全て幻想だったとしても、運動場の真ん中で、頬に怪我をするほどの勢いで顔面から人が倒れているというのに、それを見てみぬふりできる人間がどれだけいるというのだろうか。


 あの十分間、私が三途の川を彷徨った空白の時間、現世に生きる人間たちは、気絶した私にどのような印象を持ち何を思ったのか、そして一体どんな行動をとった、或いはとろうとしていたのか、それはもう、私にはわからない。ただ、気を失ったあの瞬間から十分後、私が多くの人間が存在する運動場の中心で、なぜかたった一人で目を覚ました、という事実は揺るがない。


 私は言葉に詰まった。話そうと思っていた死神の話など疾うに頭から離れ、私の脳は、無意識的にこのあまりに不可解な状況の答えを探し始めた。それでも、思考から適当な返答は帰ってこない。


 そんな私を察してか、話には周りから適当な結末が添えられ、楽しいはずの怪談話は、早々の幕引きとなった。

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