その時間が大切だ。

一色 サラ

素敵な時間を

 コインランドリーの洗濯機がグルグルと洋服を回している。それをひたすらソファに深く腰を掛けて見つめていた。回るだけで汚れが洗い流せるなんて羨ましい。私の心に汚れは取る方法が分からない。

 こびへつらい器用に生きることができない人生。虚しさが渦巻いていく。出口のない迷路に迷い込んだようで、答えが見つからない。何をしても空回りして、容量の悪い人間が形成されていく。ああ、何をしていてもモヤモヤとした心は晴れることはない。

 ピーピーと音が鳴って、私の洗濯物は乾燥まで仕上がった。リュックサックに荷物を詰め込んでいく。

 「もう、帰るの?」

 営業スマイル全開の葉月さんだ。相変わらず、男性の用のハーフパンツに、ヨレヨレのTシャツ姿だ。葉月さんは私より5つ年上の35歳だ。サバサバしていて、少し落ち込んでいた気持ちが明るくなった。

「帰ろうかと」

「ちょっと、付き合って」

缶ビールを鞄から出してきた。

「わかりました」

 ソファに座って、鞄に入れた仕上がったばかりの洗濯を隣に置いた。葉月さんは洗濯機に服を入れている。葉月さんとは、コインランドリーでしか会うことはなかった。

「ねえ、美月ちゃん、私は明日からオーストラリアに行くことになっただよね。だから、今日でお別れだね」

葉月さんが洗濯機から、私の元に歩きながら言った。

「はい?!」

「面白い顔だね」

葉月さんはじっと、私を見つめている。歩きながら、私の隣に座った。

「頑張って、生きるよ!! カンパーイ!」

訳が分からない。本当に、オーストラリアに行くのだろうか。あまり、深堀することはなかった。最近、行ったお店の話や、最近出会った仕事先の人の話す葉月さん。私は聞いているだけで、楽しかった。ピーピーと洗濯が終わる音が鳴った。夢中になって聞いていて、時間はアッという間に過ぎた。帰るつもりが最後まで付き合っていた。

「じゃあ、帰ろうか!!」

「はい」

 深夜の11時の歩道は、街灯の光だけが照らしていた。道路には1台も車が走ってこない場所にあるコインランドリー。葉月さんと道の角で「元気でね」と言われて別れた。その日以来、葉月さんに会うことはなかった。コインランドリーに行くたびに、葉月さんを待ってしまった。ぽっかり空いた心がさらに、モヤモヤがさらに拡大している気がする。

 話をするって、やっぱり素敵だなとコインランドリーに行くたびに思ってしまう。

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その時間が大切だ。 一色 サラ @Saku89make

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