「勝ったらうれしい」戦いの動機はそれでいい。

 今までも「言葉」や「文字」は感情に作用するプログラムだと思っていました。
 悲しい物語に涙する。
 楽しい物語に笑う。
 理不尽な状況に怒り。
 美味しそうな物語に飢餓を覚える。

 インプットされた文字が、読み手の言語野に作用し、心と体にアウトプットされる。
 誰しもそんな経験をしたことがあると思います。

 それがまさか、熱を生む物語が存在するとは……。

 催眠術などで「焼きゴテを当てる」イメージだけで火傷を負うなんて聞いたことあると思います。
 つまり、人間の持つ想像力は物理法則に作用するのです。
 少なくとも、自分の心身をコントロールする力があります。


 本作は「熱かった」のです。

 全編を通してうだるような暑さを感じますが、それは闘いのインフレーションと共に更なる高熱を生む。

 特にクライマックス。
 熱はもちろんのこと、暴風を、雷撃を、流しそうめんの清涼を、体全体で感じることができました。

 また一つ、文字だけで紡がれた「物語」の可能性を垣間見た気がします。


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