心を覆う帳を裁ち、月食が繋ぐ想いの糸で、二つの運命を縫い合わせろ!

異世界転移ファンタジーは数多くあれど、主人公の特技がミシンという物語は他にないのではないでしょうか。

自らのルーツに疑問を抱きながら生きていた男子高生・リキトは、ひょんなことから幼馴染の実久と共に見知らぬ世界へと転移してしまいます。
好きだった縫製の道に躓きを感じていたリキトは、新しい世界で両親を探す旅を始めますが——

リキトの持つ縫製技術が、異世界で起きていた大きな問題の解決のキーになっています。
剣や魔法のような強い力ではなく、「衣装を作る」ことが突破口になる展開にオリジナリティがあり、見事でした。

メインストーリーとなる激動の運命は、ともすれば暗く重くなってもおかしくないのですが、実久の破天荒なまでの突き抜けた無邪気さが全体のトーンを明るく照らしています。
実久はきっと現代日本では少し生きづらかったんじゃないかなとも思えるのですが、そんな彼女が周りの人々に笑顔をもたらす姿に、元気をもらいました。

何かを好きだと思う気持ちが、困難に立ち向かう勇気をくれること。
はみ出しがちな個性も、輝ける場所があるのだということ。
時流を捉えた力強いメッセージ性を感じました。

真っ直ぐな想いが時を越え、世代や世界をも越えて繋がっていく、遥かな希望を感じる温かな読後感も素晴らしかったです!

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