鳥小屋
高黄森哉
むむっ、あれは、
僕の目覚めは特殊だった。トムとジェリーでアヒルの雛がフライパンの上で踊る、そんな一コマが少年である僕には強烈で、その話を視聴して以来、僕は鳥類の雛に対して自己投影マゾキスズム、言い換えるとサディズムを覚える体になってしまった。そんな僕はもうリーマン。立派な三十歳である。患って三十年。
どうして、人気の少ないが賑やかなこの通りの端っこで、節操もなくエッチな回想を始めたか、それは目の前の奇妙な看板に書かれたピカピカ、風俗・鳥娘が、妙にサイケデリックに誘っていたからだ。もしこの暗闇が深い海ならば、この怪しげな看板はチョウチンアンコウの提灯なんだろうが、しかしここは地上であって、そんな化物は寡聞に聞かず。危険はないだろう、そう判断した僕は、カラーひよこ色とまぁ、サイケな雑居ビル、その地下へ通じる階段を降りていった。
一段一段上下する視界は酩酊で完全に歪んでいた。僕は二次会の帰りなんだ~、と陽気に庵点をつけて唄いあげると、そのリズムの中でうすら寒さににた後悔、三十二なっても進展がない我が人生に対する諦めを発見した。
カウンターに姉ちゃんが佇んでいる。
「どうも。一名様ですか?」
「えっと、ほ~い」
脳みその物質制限を突破したアルコーウ、アルコーウ、アルコー、……………… ルがおしゃべりの邪魔をする。ウワハハハ、これは愉快だ。失礼、まったく節操もない、あ、いや、滅相もない、ん? うむ。
「特上! うん、特上。僕、一番のぉ、一つぅ」
「畏まりました。では、最上の一羽をお送りしますね」
案内されて個室である。羽毛布団の掛けられた天蓋付きのベッドがまんあか、真ん中にあるこひつ。鳥要素はこれだけかよう、これだけかよう。コッコッコッコ、コケーっと、俺はベッドで入眠にはいる。今日あった出来事、上司に呆れられたこと、清掃の奴に笑われたこと、水たまりに片足を突っ込んだこと、とかが、鮮明に頭上を飛び回った。
「どうも、お仕事お疲れ様です」
僕は、入ってきた女の子を一瞥すると、ばっと羽を広げるような擬音語を出して布団を部屋の向こうへ跳ね飛ばした。ついでに酔いもさめた。だって、底には下半身が鳥の少女が立っていたからである。
「君は一体、」
「深くは聞かないでください」
マナーに弱い日本人として、ここは引き下がるを得ないが。
鳥人間は実在した。アマゾンの奥地でもなく、ここにだ。なんとユートピア。僕は攻撃性に変わられ、一人称も自然と俺になるようだ。
「俺と今夜はトゥナイト」
か細い肩を抱き寄せ布団に押し倒すと、俺達を包み込むように羽毛が舞った。
◇
三時間後である。
鳥は口から微量に出血し、ちょっと脅かしたハムスターがするように、思考を停止させていた。ちょっとと乱暴をしすぎたようだ。俺は俺を俺たらしめる俺のパーツを引き抜く。妙なことに、ゴムの外側に精液が付着していた。
破れたかなぁ。
つまみ上げて、顔の目の前で注意深く確認するが、それらしき傷や穴は確認できなかった。納得がいかなくて洗面所に走る。
洗面台の蛇口に、ゴムの口をツッコみ捻ると、風船のように膨張し内部の白色の液は薄まっていく。それは水を通すような穴はないという証拠であって、つまり僕は外側に付着した体液の出所について、別の考察を余儀なくされた。
僕の頭に一つよぎる単語は、総排泄腔だった。鳥たちはオスもメスも性器、尿道、肛門を一緒くたにしている。だから外見上の差異は素人には認められないのである。
そうか、わかったぞ。こいつはオスなのだ。
「あっ、お兄さん。ハァ、ハァ」
お相手が目覚めた。僕は決意を固めて、男を示したくなった。
「あと二時間、延長で」
鳥小屋 高黄森哉 @kamikawa2001
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