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ムカデを買ってきた


 昔から生き物を買うのが好き。即売会に赴いたとき、つい、ムカデを買ってしまった。なんでも、もう採集してはいけない島からやってきたムカデらしい。まだ採集していいときに、採ってきたそうだ。ハブムカデというみたい。名前はつけない。昔からペットに名前を付けない主義だから。というか、人を呼ぶときもなるべく名前を呼ばない。なんとなく億劫だ。

 もう十月。十月だからと言って特に何かあるわけではない。一人暮らしに慣れてしまって、退屈がまた押し寄せてきた。換気のために開け放たれた四階の窓から、飛行機の音が聞こえる。部屋の電気を消すと、外がうすぼんやりと輝いている。雲がちな空、住宅街は影に落ちている。まるで、今日みたいな日ばかりだ。この日を未来に思い出すことを予感して、目の前が思い出めいて感ぜられる。今ここにいるのに、ここには、もう戻れないと思える。

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