6.生徒会長

 俺は有馬先輩に連れられ生徒会長室の前に連れて来られていた。作業中の道具は屋上の謎スペースにしまってきた。

 ドンッ

 生徒会長室の扉を有馬先輩が開いた。

「舞香これはどういうこと!」

 生徒会長の姫野舞香ひめのまいか先輩に詰め寄りながら言い放った。

「思ってたより長かったね。随分と楽しんでたのかな?」

 煽るように生徒会長が有馬先輩に言った。それに対し、有馬先輩は済ました顔で言った。

「まあまあ楽しめたかな」

「いや、何もしてませんから!」

 俺は2人の会話に割って入って訂正した。口を挟んだ俺の方を面白がるように2人が見てきた。それで気付いた。俺がからかわれていたことに。

「まあ冗談はさて置きどうやら陽子の説得に成功したようだね。本条君」

 先ほどと一変しその話し方は凛と佇み、一つしか歳が変わらないとは思えないほどの凄みを感じた。

「ありがとうございます。ただ有馬先輩に近づくことができたのは親切な先輩がアドバイスをくれたからなんです」

「ん?」

 会長は少しの間を空けて言った。

「あー、気付いてなかったんだね?」

 そういうと髪留めのゴムと帽子を引き出しから出し、髪をポニーテールにし帽子を被って見せた。

「あれは私だよ」

 着ている服装は違うがその容姿は俺にアドバイスをくれたその人だった。

「え?なんでわざわざ変装してたんですか?」

 会長は帽子と髪型を直しながら言った。

「君の人となりを見たかったからさ。私が生徒会長だと分かったら君は私を無条件に信用してしまうでしょ?」

「俺のことを試した上で合格だったからヒントをくれたってことですか?」

「まあそんなところかな。そして私が言ったことを忘れていないよね」

 俺は有馬先輩を説得する方法を聞くのと同時に条件を出されていた。


         ー回想ー


(下駄箱でテニス部のような姿をした会長と話している場面)

「本条 奏太君。作戦会議を始めよう。まず君には転校していった安斎君の演技をしてもらいます」

「何故ですか?」

「私が知る限り彼女が1番話しやすい異性だからです」

 どこから出したのか、グルグルで見えているのか分からないようなメガネを出しクイッとさせて彼女はそう言った。

「わかりました。先生」

 気分を損ねないように彼女に合わせた。

「それでは次に今回の文化祭で壊れた背景の道具を持って屋上に向かうのです」

「先生、それは何故ですか?」

「あの背景の作成に彼女が関わっていて彼女の興味を引くことができると思われるからです」

「え?そうなんですか!?」

「君も知らされていなかったんだね」

「そうですね。分かりました。後何かありますか?」

 ふざけた眼鏡を取り、彼女はふざけた口調を変え、真面目に言った。

「これは絶対条件だよ」

「はい」

「彼女を楽しませること」

「…」

 俺は目線を下げてしまいすぐに返答することができなかった。単純に自信がないのと彼女の説得に成功すれば俺はなるべく目立つつもりがなかったからだ。そんな後ろ暗いことを考え、ふと名も知らない先輩のほうを見た。

 表情は見えないが真剣な空気は伝わってくる。意を決して口を開く。

「絶対とは言えませんが有馬先輩が楽しめるように頑張ります」

「そう。まぁ今はそれでいいかな。六人劇が終わったら答え合わせだからね」

 俺に話しかけながら内履きから外履きに履き替えていた名前もわからない先輩は言い終わると走って外に行ってしまった。


        ー現在ー


 そんなやり取りを俺は思い出していた。

「はい。覚えています」

「そう。ならいいんだ。彼女は多才で優秀だ。けれど気分屋でやりたいことしかやりたがらないからちゃんと向き合って話してあげてね」

「本人がいる前で変なこと言うな」

 コツンッ

 有馬先輩が会長の頭をこづいた。

「殴ることないじゃん。陽子ちゃんが素直になれるのは安斎君にだけなんじゃないの?ずっと本条君に演技してもらうの?」

「私がいない時にすればいいだろ!この話を」

「ええー、それじゃ恥ずかしがる陽子ちゃんが見れないじゃん」

「やっぱり狙ってやってたんだな!後、本条の前で陽子ちゃんって呼ぶな!」

 先輩達はとても楽しそうに談笑していた。疑っていたわけじゃないが、問題児の有馬先輩と優等生である生徒会長が楽しそうに話している光景は想像できなかったからだ。

 有馬先輩との会話が終わり会長が俺の方に向き直り、言った。

「それじゃ、後は2人で話してね」

 バタンッ

 俺と有馬先輩は生徒会長室から出た。

「やっぱり演技して安斎の真似してたの?」

 会長室から出るなり有馬先輩が聞いてきた。

「いちよう安斎先輩の様には振る舞いましたけど、特段性格や人格が変わるほどの演技はしてないですよ」

「ふーん、まぁいっか。後、舞香を信じすぎるなよ?」

「え?どう言うことですか?」

「私も知らないけど、まだ何かありそうだと思ったからさ」

 そう言う彼女はとても真面目な面持ちだった。俺を心配してくれているのが伝わった。

「わかりました。気をつけます」

「後、明日の放課後ちょっと付きあって欲しいところがあるんだけど?大丈夫?」

 今度は明るい調子で聞いてきた。

「あーはい、大丈夫ですけど連絡先って交換してもらってもいいですか?」

「まあ、いいよ」

 携帯を出し合い連絡先を交換した。

「それじゃ、明日よろしく」

 俺は有馬先輩と別れ、部活へと向かった。




 

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