1 本条《ほんじょう》 奏太《そうた》

 文化祭の閉会式の後、学劇祭で行われる各学年から男女1人づつ計6人で取り組む劇。「六人劇」そのメンバー発表で自分の名前が呼ばれ俺は気が遠くなりその場で気絶しまたしまった。そしてその最中俺は一年前の学劇祭のことを走馬灯そうまとうのように思い出していた。


 その日は雲一つない晴天だった…

 


         ー回想ー



 学劇祭で行われる特別演目が二つある。我が校が誇る演劇部の素晴らしい劇、その対として行われるのが六人劇という学校側から生徒への無茶振りだ。そしてその無茶振りを超えたものは躍進すると言われている。

 俺は演劇部に入り周りの皆と同じく役者を目指していた。だが役者よりも裏方の方が手際が良かったらしく、なし崩し的に道具係になっていった。そのことに俺は納得していなかった。

 学劇祭は各クラスで一つの演目を行う。クラスの全員が一つになり行動しないと演劇は完成しない。例外は六人劇に選ばれた者くらいだろう。

 俺のクラスでは演劇部が2人しか居なかった。俺は裏方てもう1人は役者志望、その差は分かりやすく学劇祭の演目はもう1人が中心で進んでいった。『俺は元々役者志望で入部したが仕方なく裏方をやっている』そう言う気持ちが残ったまま学劇祭の準備は進んで行った。

 一年生は既存のストーリーを行うのがセオリーとなっている。俺のクラスが選んだのは定番の中の定番「ロミオとジュリエット」だった。俺じゃない方の演劇部員は当然ながらロミオ役を演じていた。クラスに演技に自信がある者が少なかったこともあり配役が回ってきた。それがロミオの決闘相手ティパルトだった。中学から演劇部で演技経験もあり元々役者志望だったことをもう1人の演劇部員が知っていたらしくそういう流れになった。殺陣たてと言えるほど立派なものではないが立ち合いの練習も行っていた。


 学劇祭当日


 開幕式の後六人劇が始まった。まるで劇の世界の中に、観客までもが飲み込まれるような素晴らしい劇だった。その後の舞台は2箇所に分けられ演劇ホールと体育館と別々のところで劇を行うこととなる。六人劇に刺激され興奮が冷めやらぬまま俺は舞台に立っていた。

 俺のクラスの劇は体育館の方で行われていた。目立ったミスもなく大した面白みがないロミオとジュリエットがそこにはあった。そんな中、数回の出番の後俺と演劇部員との殺陣が始まった。

「なぜマキューシオを殺したんだティパルト」

「お前も聞いていただろあいつは俺の家もお前の家も貶めてたんだぞ」

「それは俺のことを思って言っていたことだ」

「そんな欺瞞で私は騙せないぞ」

 セリフを言いながら俺たちは剣を交えていた。俺たちの殺陣は拮抗していた。そして観客からは劇を邪魔しないように歓声が上がっていた。それに気づいた俺は夢中になり剣を早めていった。

 カキンッ   グサッ

 殺陣が終わりあらかじめ用意していた音がスピーカーから流れる。ただそれは意図せぬ形だった。ティパルトがロミオを刺してしまっていた。会場も壇上も空気が凍りついたような静寂が過ぎた。後悔と焦りで頭が真っ白になった。静寂のまま壇上は暗転し幕が閉まった。その後のことはよく覚えていない。それから俺はこの学校の嫌われ者になってしまった。



         ー現在ー



 自分の部屋ではない天井、カーテンがすぐ隣にあり保健室で寝ていたことに気づいた。なんでここに居たのかを思い返すと気が重くなった。

 保健室の先生に起きたことを申告し、頭のあたりを少し見てもらい大丈夫との診断をもらった。第二生徒談話室に行くように言われ保健室を後にした。第二生徒談話室にはいい思い出がない。去年の学劇祭でやらかした後、担任教師に説教を受けたのがその部屋だったからである。さらに職員室の目と鼻の先ということでますます行きたくなくなる。重い足取りの中、第二生徒談話室の前まで着いてしまった。うっすら空いたドアから夕陽がさしていた。

  はぁ

 一息ついた後重い手をあげノックした。

 コン  コン

「どうぞ」

 そこにいたのは1人の女生徒だった。彼女の後ろから夕陽が差し込み幻想的だった。

「やあ本条君遅い出勤だねー 体の方は大丈夫だったかい?」

 そんな幻想的に感じた彼女は茶化すように俺に聞いてきた。彼女の言い方に少しの苛立ちとネクタイの色から同学年であることがわかり、少し荒い言葉で返した。

「体は大丈夫だ。ただ少し気を失っていただけだ」

「そうだったんだね。大事がなくて良かったよ。それでね?聞いてるかもしれないけど私たちは六人劇のメンバーな訳だけどね?わかってるよね?」

 はぁ

 その言葉をきくだけで気が重くなった。

「知ってるよ」

 作ったような笑顔で彼女は言った。

「フフフ まぁ皆災難だったと言うことで、劇を完成させなければいけないわけでね?」

 さっきから回りくどい言い方をしてくる彼女に嫌な予感がした。

「さっきまで君以外の六人劇のメンバーで話し合った結果君がリーダーをすることになりました」

「なんでだよ!なんでそんことになるんだよ!知ってるだろ?俺が去年やらかしたのを…」

「まあね ただ六人劇のリーダーは2年生がなるのがルールだし、私が君の方がいいと思ったのと後は多数決をとった結果かな?」

「なんでだよ…」

 落ち込む俺を見てまた彼女は作ったような笑顔で言った。

「なら条件を出そう」

 顔をあげ夕日であまり見えない彼女の方を向いて話した。

「なんだよ」

「今回の六人劇で参加に非協力的な女子生徒がいます。その女子生徒に協力的に今回の六人劇に参加させてくれれば私がリーダーを変わってあげましょう」

「俺に女子の先輩だか後輩だかを説得しろってことかよ!」

「そうだよ?それができなければ君がリーダーで六人劇は進むし、できれば私がリーダーを変わってあげよう」

「なんで君にそんなに上からい言われなくちゃいけないんだ!」

「それは君が運悪く倒れて六人劇の他の人達と話せなかったせいだよ。 フフフ」

「う…」

 言い返す言葉が出てこなかった。

「それじゃ異論はないようだね。後、リーダー云々の話は来週の金曜日までには決めなくてはいけないから、それまでには答えを出して置いてね」

 彼女はそう言うと俺をこの部屋から出るように促し、彼女は第二生徒談話室に残った。

 ふと今日が文化祭の後だったことに気づき、部活に行くことにした。





 








 

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