3 彼女の名前

  俺は第二生徒談話室から出て演劇ホールに向かっていた。演劇ホールの裏には道具や衣装をしまう部屋が数部屋あり、文化祭で貸し出した道具や衣装を片付けなければいけないので演劇部の裏方はまだまだ仕事が残っている。俳優をしている部員なんかも手伝って片付けを行うが場所やしまいかたがわからないことも多々あり裏方の仕事が多いことに変わりはないのだ。

 演劇ホールの裏口から入ると数名の部員が片付け作業を行っていた。

「悪い悪い、遅れた」

「本条先輩お疲れ様です」

 後輩の佐伯だ。この部活では珍しく最初から裏方に志願して配属になった数少ない部員だ。最初から志望していただけはあり仕事に前のめりで助かる。ただ少し不器用で道具の作成や裁縫には向いていない。

「災難でしたね本条先輩」

 後ろから声をかけてくれたのは後輩の穂波だった。彼女は女優志望だったがスランプになってしまったらしく少し前から裏方をメインに部活動をしてもらっている。手先が器用で裁縫や小道具の作成などを行なってもらっている。

「はははは 恥ずかしいところを見せちゃったな」

「そんなことないですよ。学校側がおかしいんですから、わざわざ本条先輩を選ぶなんて倫理観が欠けてるんですよ!」

「いや、そこまでのことは思っていないんだがな」

「先輩がいい辛かったら私が直訴しに行ってもいいですよ?」

「そんなに本条先輩を問い詰めてもしょうがないよ穂波さん」

「だってこんなのあんまりじゃない」

「大丈夫だよ穂波」

「本条先輩?」

「そんなに心配しなくても何とかするから」 

「何か考えがあるんですか?」

「まあ特にはないんだが」

「もうそんなことだ

「さーなーちゃん これってどこに置けばいいのー?」

 羽田がいろんなものがガチャガチャに入った段ボールを持ったまま入ってきた。その様子を見た穂波は俺への言葉を飲み込み羽田が持ってきた段ボールを見に行った。

「いろんな物が一緒になってるからこの2着の衣装をハンガーにかけて衣装室に持って行って、他はこっちで片付けておくから」

「えーそれだけ?俺も六人劇のメンバーになったんだからさー。あの人みたいに気遣ってくれてもいいじゃん」

「はあ、うるさいからあっち行って」

「冷たいなー」

 そう言って羽田は衣装を持って衣装室に向かった。

「悪い、俺羽田と話したいから一緒に行ってくるからここは頼む」

 そう言い残し2人の後輩を残し羽田を追った。扉を開けるとすぐに羽田は居た。

「羽田、少し話いいか?」

「なんすか?」

「六人劇の話し合いをしたんだろ?どんな話をしたんだ?」

「特段何も話してないすよ」

「何か変わったことはなかったか?」

「有間先輩が速攻で帰りましたね。やる気ないからとか言って」

「有馬先輩ってあの?」

「そうっすね」

 有馬 陽子はこの高校では知らない人がいないくらい有名だ。髪を金髪にしピアス穴、気に入らない授業は無断欠席、その間どこに行ったかわからなくなるなんて話も聞く。そんな素行のため不良だと言われている。

「もういいっすか?」

「ああ 教えてもらって助かった」

「ういっす」

 羽田と別れ、自分の仕事に戻った。その後文化祭の片付けも終わり帰宅した。

 この世界は理不尽だ。1回のミスで俺の学園生活はどん底まで落ちて行った。俺の行った奇行を知るものは嘲笑い《あざわらい》見下す、そんな中でも俺を慕ってくれる後輩達との部活は楽しい。何より2人とも楽しそうに裏方の仕事をしてくれるのも嬉しい。彼らは俺が失敗しても優しく接してくれるだろう。ただ、それに俺は耐えられない。だから俺は六人劇を失敗させるわけにはいかない。

 いろいろ考えてみたが有間先輩を六人劇に積極的にさせる方法が思いつかなかった。まず彼女との面識がない以上、どういう人物なのかもわからないし、なぜ参加したくないのかもわからない。単純にめんどくさいだけなら策の練りようもあるが、違うなら来週の1週間でどうにかしようがあるのかも分からない。こんな時あの人ならどうするか考えてしまう。去年の冬、突然転校してしまった安斎先輩ならどうするのかと…電話番号も分かるし、聞くことは可能だが

 やめた。先輩はやりたい事をするために転校した。今の俺の状況を聞いて先輩をわずらわせるのは申し訳ない、それにあの人は興味のないことには関心を一切示さない。聞いて関心を持ってもらえないのは余計に傷を作る。まず休みが明けたら有間先輩に直接話に行こう。






 

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