8. 最後の一人
ライブハウスで有間先輩の演奏を聞いた次の日。学校の屋上に彼女と二人で俺は居た。
「今日はなんのよう?」
「有間先輩には舞台に立つ上での基礎を練習してもらいます」
「えーなんだよそれ」
「と言っても大した時間は無いので付け焼き刃になるかとは思いますが、全くやらないよりは断然いい演技ができるはずです」
「私が舞台に立つのは決定なの?」
「基本的に六人劇のメンバーは全員が演者になる必要があります。なので有間先輩も演技をするようになると思います」
「そうだったっけ?まあしょうがないからやるか」
「それでは少なくともこの3つをできるだけ練習してください」
そう言って俺が彼女に提示した基礎は姿勢、発声、演じる役の理解この3つの練習をしてもらうようにした。
姿勢はハイヒールを履いて姿勢を正し、まっす歩くトレーニングを、発声は放課後に屋上で腹から声を出せるように声出しをした。役への理解はまだ台本が無いので漫画やアニメの心理描写の少ないキャラクターになりきって自分ならどうするかなどを考えるようにしてもらった。
そうこうしていると木曜日になっていた。俺は有間先輩と1時間ほど練習をした後部活へ向かっていた。廊下で生徒会長にあった。
「本条君調子はどうだい?」
「ぼちぼちですかね」
「それなら良かった。だけどもう少し視野を広げたほうがいいんじゃ無いかな?」
「どういうことですか?」
「まあ、明日になればわかるんじゃ無いかな?」
そう言うと俺の返事も待たずに行ってしまった。悶々としながら俺は部活に向かった。
次の日。何事もなく授業が終わりホームルーム終わった後、彼女が話しかけて来た。
「覚えていると思うけど今日は学劇祭の話し合いの日だね」
佐倉
「覚えてるよ。第二生徒談話室でいいんだろ」
俺から視線を逸らし見えないような角度で彼女は小さく深呼吸をして話し出した。
「ふう そうそう覚えていたならいいんだけどね。リーダーを決める話も忘れてもらっちゃ困るよ」
「覚えてるに決まってるだろ。ちゃんと有間先輩は六人劇に協力的になってくれたから君がリーダーになるって事でいいんだろ」
「まだだよ?」
背筋が凍るような気がした。なぜその可能性を考えなかったのか自分が憎いほどだ。その先に彼女が言おうとしていることがわかってしまった。
「一年生の
俺はこの1週間、有間先輩と打ち解けることしか考えていなかった。その結果一年生の女子の存在を知ろうともしていなかった。
「それは君がどうにかするべきなんじゃ無いか」
感情的に俺は言った。
「別に私が彼女の元に行ってもいいけど君は六人劇のリーダーとして全責任をおうことになるけれどいいのかな?」
「なんで今まで黙っていたんだよ」
「フフフ、私だって面倒くさいことはしたく無いからに決まっているじゃないか。そして君は私と先週約束をしてしまった以上、君のできることはリーダーを受け入れて私に夏目さんの説得を任せるか、君が夏目さんをやる気にさせるかの二択になったわけだけど、君はどうするんだい?」
彼女はイタズラするような笑みでこちらを覗いてきた。
「わかったよ。行ってくるよ」
項垂れるように答えた。
「そうかい、そうかい、それは良かった。なら職員室に行って竹本先生から夏目さんの住所を聞いてくるといいよ」
「はぁ 親切にどうも」
「どういたしまして。フフフ それじゃあ健闘を祈ってるよ」
そういうと彼女は見送るように手を振っていた。
教室を出て職員室に向かった。職員室に入り、竹本先生のところへ向かった。
「あなたが六人劇の生徒ね。本来はご時世柄、生徒の住所を勝手に伝えるのはいけないことだけれど、親御さんへの確認も済んでるし、先週のうちから生徒会の方からも打診があったから今回は特別に教えてあげる」
「ありがとうございます」
住所が書いてあるメモ紙を差し出されたので受け取ろうとすると竹本先生は話し出した。
「私では彼女の心を動かすことができなかった。だけど彼女にはまだこれからの学園生活があるの、だから君に頑張ってもらいたい」
先生は申し訳なさそうにこちらを見ていた。竹本先生は若い女教師でこの学園に来て数年たち初めて任されたクラスが一年三組であった。そんなこともあり夏目人華の家へ行き話したこともあったが彼女が学園に来ることはなかった。そんな事情を知らない本条奏太は竹本教師の期待の眼差しを誤魔化すように言った。
「善処します」
住所の書いてある紙を受け取りすぐに竹本教師に背中を向けた。
「ごめんなさい。プレッシャーをかけるようなことを言ってしまって…実は私もここの演劇部に所属していたの、そして私は去年のあなたの演技良かったと思っているわ」
ぱん
軽く本条の背中を叩き竹本教師は言った。
「大丈夫だよ。君は素晴らしい物を持ってる」
振り向いた本条に対して竹本教師は親指を上げ笑顔を向けていた。本条は頭を下げ職員室を後にした。
竹本教師は深呼吸をして呟いた。
「ふう これで良かったのかな」
職員室を後にした本条奏太は考えながら歩いていた。
夏目人華、俺は彼女について詳しいことを知らない。ただ彼女が小説家として活動しているという噂話を耳にしたことがある。その噂が聞こえるようになったあたりから彼女が不登校であるという話も聞いていた。考えるに、そこに彼女の不登校の原因がある。そして現在も不登校であることから
考え事をしながら歩いていると校門まで来ていた。そこで声をかけてくる男子生徒がいた。
「なんか手伝えって言われたんで来たんですけど何するんすか?」
羽田は嫌そうに言ってきた。こいつに会ったことで思いついたことがありニヤリと笑い俺は言った。
「寝坊したヒロインを助けに行くんだよ」
「はあ?六人劇で白雪姫でもするんすか?」
ツッコミを入れてきた羽田を無視して俺は彼女の家に向かい歩き出した。
「おい、無視すんなよ!」
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