7.有間陽子のしたいこと
有馬先輩に言われ、学園外で待ち合わせすることになった。あまりきたことがない所で不安になりながら待ち合わせの店に向かった。喫茶店のようだ。おしゃれな雰囲気に気後れし、店内に入れずにいると後ろから声をかけられた。
「何やってんだ?」
後ろを振り向くと他校の制服にギターケースを背負った学生が立っていた。
「待ち合わせしてるんだけど中で待ってた方いいのか外で待ってたほうがいいのか迷ってて」
「いや、店言われたら中に入って待ってろってことだろ?」
「そりゃそうだよね」
意を決して扉に手をかけ店内に入った。
カラン カラン
扉を開くと鈴の音が店内にこだました。
「いらっしゃいませ」
男性の店員さんが言った。俺は待ち合わせできたことを言おうとすると
「沢さんこんにちは、なんか待ち合わせでここにきたらしいよこの人」
一緒に店内に入ってきた、さっきの学生が店員さんに言ってくれた。
「そうなんですね。じゃあ入り口から見えるこの辺に座ってください。
とても気さくな店員さんに言われるがままに座り、とりあえずコーヒーを頼んだ。
少しすると有馬先輩がやってきた。
カラン カラン
「沢さんこんにちは!」
「いらっしゃい」
店員さんに挨拶をして有間先輩は俺の近くの席に座った。店員さんが水の入ったコップを出してくれた。
「待たせたね」
「いや全然そんなことないです。それでわざわざ学校の外で話したいことってなんですか?」
「その話の前にちょっと待って」
そういうと有間先輩は席を離れて俺と一緒に店内に入ってきた学生のところまで行き、引っ張りながら連れてきた。
「こいつ私の弟の輝よろしくね。ほら」
「よろしく」
輝君はそういうと俺の方に軽く頭を下げた。
「さっきはありがとう。本条です。こちらこそよろしく」
席を立ち、返すように言った。
「なんかあったの?まぁいっか 沢さんスタジオ貸してもらえます?」
「陽子が使いたいって言ってたから開けといたよ」
「ありがとうございます」
店員さんが荷物をまとめ出した。有間先輩は水を飲み干していた。合わせるように自分のコーヒーを飲み干した。
店員さんの準備が終わったようで店から出た。それに合わせて2人も動き出す。俺が立ちすくんでいると
「行くよ」
有間先輩に言われ、ついて行った。
ついて行った先はライブハウスだった。
「ステージ使っていいんですか?」
「まだライブは始まらないから大丈夫だよ。いいところ見せたいんじゃないの?」
「そういう相手じゃないですよ!」
裏から楽器を運び出しながら2人が何やら話していた。2人はドラムとキーボードの準備をしていた。輝君は持ってきていたギターをカバーから出し準備ができていた。
セッティングが終わり各自で音の確認などをしている。
シーン
音の確認が終わり静寂が訪れた。3人は顔を見合わせ、有間先輩が弾きはじめた。有間先輩がソロで少し引いた後、2人が演奏に入り曲が始まった。聞いたことがない曲だったがとても楽しくかっこいい演奏だった。
演奏が終わり有間先輩が言った。
「私はこれがしたいんだ!」
とてもいい演奏だった。生で見たからというのもあるかもしれないが、ただ聞いていただけの俺ですら心音が高鳴っているのがわかった。
「わかりました!やりましょう!ただあくまで舞台がメインになるのでそれに合わせた演奏をしてもらう必要があります。それは大丈夫ですか?」
「まだどんな演目するか決まってないんだし、私のしたい音楽に合わせられないの?」
「それだと有間先輩に主役もしてもらわなくちゃいけないかもしれませんよ?」
「んー、それはやだな」
「ちょっといい?」
カフェ店員だと思われる沢さんが言った。
「どうかしました?」
「学劇祭の舞台で演奏したいってことなんでしょ?」
「そうですね」
「たぶん陽子はある程度なんでも弾けるし大丈夫だと思うけど、音楽にも幅があった方がいいよね?」
「そうですね。選択肢は多いほうが助かります」
「だったら
「別に必要ないでしょ。なんなら沢さんにバイオリン弾いて貰えばいいじゃん」
「俺はそんなに暇じゃないよ。学劇祭の時だって輝のバンドに入ってもらうことになると思う」
「そんな…」
「そろそろ、ごめんなさいが言えるようにならないといけない時期なんだと思いな」
「うん…今度話してみるよ」
「本条君だっけ?話はまとまったから陽子をよろしくね」
「なんで私があいつに面倒見てもらわなきゃ行けないんだよ!」
「わかりました。有間先輩がやりたいことができるように頑張ります!」
俺は沢さんの目を見て言った。沢さんは軽く頷き言った。
「ありがとう。それじゃあまだ時間もあるし、もう少しだけやろっか」
そう言って今度は沢さんのドラムから演奏が始まった。それは夜にライブをする人たちが来るまで続いた。
セッティングした楽器の片付けとライブをする人達の手伝いを沢さんと有間先輩がしているところを手伝いに行ったほうがいいのか迷っていると輝君が近づいてきた。
「ちょっと話そうぜ」
「うん、わかった」
観客席を出て通路に移動した。
「姉貴って学校で大丈夫そうか?」
輝君の言葉に少し躊躇ってしまった。取り繕っても仕方がないと思い言った。
「正直一人であることが多く感じるけど友達もいて不満だけではないみたいだよ」
オブラートに包んだ結果フワフワしたことを伝えてしまった。
「まあそんな感じだよな。俺は姉貴の言うことだし、沢さんも協力的だから手伝ってやるけど別にお前を認めたわけじゃないから馴れ馴れしくすんなよ」
「ありがとう。学劇祭が終わったら輝君にも有間先輩にも極力関わらないようにするよ」
「そうじゃない。姉貴とはちゃんと関われよ。たぶん相当気に入らないと此処に連れてきたりしねえから」
「わかった。学劇祭の後も有間先輩には連絡を入れるよ」
「よし、それなら俺がバンドメンバーと舞台の音楽をやってやる」
「ありがとう。後さっき言ってた
「ああ、それは前に姉貴がコンクールとかで一緒に演奏してたバイオリンの人だったかな?」
「仲が悪いの?」
「俺も詳しくは知らねえけど姉貴が急にコンクールにでなくなってそれで喧嘩したとかなんじゃね?」
「そっか、その解決は俺にできることがあるかな?」
「知らねえよ。ただなんでも首突っ込めばいいってもんでもねえんじゃねえの?」
「それもそうだね。それじゃこれから学劇祭までよろしく!」
輝君は目線は逸らしながら拳を突き出してきた。俺はその拳に自分の拳を軽くぶつけた。
「おう!」
沢さんと有間先輩が戻ってこないのでライブハウスの方を覗きに戻るとセッティングが終わり俺達を探していたらしい2人が近づいてきた。
「勝手にどっか行くんじゃねえ!」
「姉ちゃんギブ ギブ 決まってるから!」
輝君が有間先輩に首をきめられ飛びそうになっていた。その様子を沢さんが呆れてみていた。
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