第6話 二つのおまけエピローグ

 ~おまけ 真昼サイド~


 ユキちゃんと岡田くん、今ごろどうしてるかな。

 やったことと言ったら、ただ一言可愛いと言っただけ。だけど長年片思いをしておきながら何もできなかったことを思うと、例え小さくても、間違いなく前に進めた一歩だと思う。


「けどよく考えたら、私達がしたことと言ったら、岡田くんとユキちゃんを強制的に二人きりにしただけなんだよね。これじゃ、キューピッドなんて言えないかも」

「確かに……」


 私の言葉に、沖くんも苦笑いしながらうなずく。

 もしも次にこんな機会があった、もっとちゃんとサポートできるようにしたいな。


 そんな反省をしていると、持っていたスマホが鳴って、メッセージを受信したことを告げた。


 差出人は、ユキちゃんだ。なんだろうと思ってメッセージを開くと、そこにはこう書かれていた。


『ずいぶん時間かかってるけど、かき氷はもう買えた?』

「あっ……」


 そうだった。わたしも沖くんも、元々かき氷を買いに行くって言ってユキちゃん達と別れたんだ。いくらなんでも、そろそろ戻らないとまずいよね。


 せっかく二人きりにしたけど、それももうおしまいか。そう思ったけど、そこでさらに、新しいメッセージがやって来た。


『真昼ちゃん。もしかして、沖くんと一緒にお祭り回りたかったりする? もしそうなら、しばらく時間つくるよ』


 うん? これはどういうことだろう?


 どうしてユキちゃんがこんなことを聞いてきたのかわからなくて、頭の中に『?』が浮かぶ。


 だけど、そこで思った。

 わたしと沖くんが二人で回ることになったら、その間、ユキちゃんと岡田くんだって二人きりになれるじゃない。

 これをみすみす逃す手はないと思うけど、沖くんはどうだろう。


「ねえ沖くん。ユキちゃんから、わたし達二人で回ったらどうかなって言われたんだけど、どうしよう」

「二人でって、俺と芹沢がか?」

「うん。それとも、みんな一緒がいい?」


 わたしとしては、そうすることでユキちゃんと岡田くんに二人の時間を作ってあげたいけど、もしも沖くんが嫌なら仕方ない。

 だけど沖くんは言った。


「いや、俺はできれば、このまま芹沢と一緒に回りたい。もちろん、芹沢が嫌じゃなければだけど」

「ほんと? それじゃ、決まりだね」


 さっそくそれをメッセージにしてユキちゃんに送ると、それならしばらくの間別行動にして、また後で合流しようと返事が届く。

 それともうひとつ、こんなメッセージも一緒に届いた。


『沖くんと一緒に楽しんでね♡』


 なんでハートマーク?

 またもや頭に『?』が浮かぶけど、それを深く考える前に、沖くんが声をかけてくる。


「それじゃ、とりあえずどこに行く?」

「うーん、どこがいいかな。沖くんは、どこか行きたい場所ってある?」


 ちょっと考えるけど、すぐにはこれってのが浮かばない。

 思えばキューピッド作戦にばかり夢中で、自分がこのお祭りでどこに行きたいかなんて、よく考えてなかったよ。

 ここは、沖くんの意見を聞いてみよう。


「そうだな。かき氷はもう食べたから、次は、わたがしと、りんごアメと、イカ焼きと、チョコバナナ。って言っても、それ全部食べるのは無理だから、その中のいくつかだな。あとは、金魚すくいに射的かな」

「そんなに──って、それってわたしがキューピッド作戦で提案したやつばっかりじゃない」


 前に、学校で話をした時に挙げた、お祭りでやってみたいことの一覧だ。


「ああ。どうせ行くなら、楽しいって思うところの方がいいだろ。それとも、他に行きたい所があるのか?」

「ううん、それでいい。と言うか、それがいい」


 元々、自分がやりたいと思って並べたものだから、いいに決まってる。


「それにしても、あれ全部覚えてたの? 一回しか見たことなかったよね」

「一応、念のため覚えておいた方がいいって思ったんだ」


 岡田くんからは役に立たないって言われて、わたしだって半分忘れてたのに。沖くんすごい。


 それじゃ、行き先も決まったことだし、さっそく出発。そう思ったけど、なぜかそこで沖くんは足を止める。


「芹沢──」

「なに?」


 つられてわたしも足を止めると、沖くんは、何か言いたそうに口を開いて、だけどなかなか声が出てこない。


「沖くん?」


 いったいどうしたの? そう聞こうと思ったけど、そこでようやく、沖くんは言う。


「今日のその浴衣、可愛いから」

「えっ?」


 言った瞬間、沖くんの顔が赤くなっていくのがわかる。そういえばさっき、はっきり可愛いって言うのはハードルが高いって言ってたっけ。


 だけどもしかしたら、わたしだって同じように赤くなってるかもしれない。


「な、なんで急に、そんなこと言うの?」

「芹沢が、自分で言ってただろ。たくさん考えてオシャレしたんだから、それを褒められると嬉しいって」


 そりゃ言ったし、たけどまさか、こんなタイミングで褒められるなんて思わなかったよ。


「もしかして、嬉しくなかったか?」

「ううん、そんなことない。絶対に、ないから!」


 とってもビックリしたけど、こうまでハッキリ可愛いって言われるのは、思っていた以上に嬉しかった。

 それに、ドキドキした。


「そっか、よかった。えっと……それじゃ、そろそろ行こうか」

「う、うん」


 歩き出した沖くんの後をついていこうとするけど、そこで沖くんは、スッと右手を差し出してきた。


「ふぇっ?」

「あ、あいつらみたいに、はぐれるといけないからな。手、繋いでた方がいいんじゃないか」

「そ、そうだね」


 言われて、沖くんの手を握る。重なったその手は、なんだかとっても熱いような気がした。


 手を引かれながら、さっき言われた言葉を、心の中で繰り返す。


『可愛いから』


 沖くん、わたしが喜ぶなんて言ったから、わざわざ言ってくれたのかな?


 そういえば、その話をしていた時に、なんだか沖くんに恋の予感がしたような気がしたけど、それってもしかして……なんて思うのは、自意識過剰?

 それとも……


 これから沖くんと二人、まずはおいしいものを食べて腹ごしらえをするつもりだけど、この調子で、ちゃんと味なんてわかるかな?





 ~おまけ ユキちゃんサイド~


「真昼ちゃん、しばらくの間、沖くんと一緒に回るって」

「そっか。あいつら、もしかして俺に気を使って……」

「ん? どうかした?」

「な、なんでもねーよ」


 変な感じにどもった岡田くん。いったいどうしたんだろう?

 それはそうと、真昼ちゃんに、もうひとつメッセージを送る。


『沖くんと一緒に楽しんでね♡』


 最後にハートマークをつけたのは、ちょっとした遊び心から。


 沖くん、普段はクールなイメージがあるけど、時々真昼ちゃんに、熱~い視線を送ってるような気がするんだよね。だけど、当の真昼ちゃんはそれに全然気づいてないみたいだから、このことはわたしと、あと涼子ちゃんだけの秘密。


 だけどもしこの予想が当たっているなら、できれば応援してあげたいな。前からそんな風に思ってたけど、夏祭りっていういかにもなシチュエーションで、二人きりにできるチャンスかやってきた。これは、お膳立てをしてあげないと。


 今日のわたしは、恋を取り持つキューピッドになった気分だ。


「それじゃ、岡田くん。行こうか」

「ああ、そうだな」


 私も、岡田くんと一緒に歩き出して、それからふと思う。

 私もそんな風に、誰かを好きになったりするのかな?

 例えば、さっき岡田くんから可愛いって言われた時はドキッとしたし嬉しかったけど、それがそういう好きになるかどうかはわからない。

 だけどなんだか、今はもっと、岡田くんのそばにいたいと思った。


「ねえ、岡田くん──」


 呼ばれて、あしを止める岡田くん。いきなりこんなこと言ったら、ビックリするかな?

 そう思いながら、それでも私は、右手を差し出し、言ってみる。


「手、繋いでみない?」

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夏祭りのキューピッド 無月兄 @tukuyomimutuki

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