概要
可愛さ余って憎さ百億千万倍
ハーフエルフのスリーヴァは獣人について一つだけ信頼できる部分があると考えていた。いつの日か必ず人類に牙を剥くであろうその獰猛さへの信頼である。人類はきっと彼らに蹂躙されるに違いない。もはや確信であった。獣人の国『ケモンガルド』との停戦条約により、弾圧の対象であった彼らが王国内での暫定市民権を得て三十余年、よくぞ今日まで内乱も起きず平和に過ごしてきたものだと不思議な気さえしているのである。獣人はヒトに非ず、すなわちケダモノである。素手で野生動物を狩り、場合によっては魔物を殺してその血肉をむさぼり喰らうというではないか。さもありなんとスリーヴァはひとり睥睨する。見よ、あの通りに佇む獣人の唇の端に覗く鋭い牙を。あの禍々しさ、人間ではない。今はあのように道具屋の前で無垢をよそおい、獣の耳がついている