臨時ニュースです

@HasumiChouji

臨時ニュースです

「え〜、では臨時ニュースです」

 二〇二一年の八月最初の休みの日、好きなラジオ番組で、その一言が流れた途端、俺は、当然の如くSNSに思っていた事を書き込んだ。

『あのさあ、何で、わざわざ、こんな事を臨時ニュースで流さないといけないんだ? オリンピックでウチの国の選手がメダルを取るって、災害か何かかよ?』

「はい、その通りです、長野ちょうの弘隆さん」

 えっ?

 いや、このラジオ番組にメールを送った事は有るけど……本名は出してない筈……。

「日本政府は、メダルと引き換えに、SNSに反日的な事を書き込んでいた国民の命を我々に捧げる契約をしてたんです。貴方の番が回ってきました」

 ラジオから流れる声は……毎週、この曜日のこの時間にこの番組に出ているアナウンサーのものだった。

 しかし……言っている事は……理解出来ない……。日本語としての単語や文章の意味は判る。しかし……そこから先については、俺の脳は完全に「理解」を拒絶していた。

「だから、長野ちょうのさん、貴方ですよ。福岡県小郡おごおり市出身。千葉でも外れの方の最寄り駅までバスで二〇分以上の家賃月三万五千円のアパートに住んでるIT企業勤務。そろそろ四十代後半なのに、係長にもなれずに、若い頃に散々『かわいがった』3つ年下の課長にいつも怒られている男。貴方に言ってるんです」

 あ……あ……あ……ま……待ってく……れ……。そ……その……。

「あのねぇ、貴方自身が『小説家をはじめよう』に投稿した短編小説で散々書いてたネタでしょ。そうです。その通りです。オリンピックとはで、貴方は、そのなんですよ」

 な……なにを……?

「まだ、気付いてないんですか? あのアイデアは、貴方自身が思い付いたモノじゃなくて、我々が、貴方への情けとして、それとなく教えてあげてたんですよ。……ああ、もう、完全に思考停止してますね。では、貴方の国の政府との契約通り、貴方の命を頂きます。御安心下さい。このままなら、十年以内には、貴方の国の人口の九〇%が冥府に墮ちますから、少しも寂しくありませんよ」

 たしかに……俺が好きな女子アナの声でしゃべっている「それ」の言う通り、俺は、完全に思考停止していたのだろう。

 ただ、これだけは理解出来た。

 俺が人生の最期に聞いた音は……落雷らしき轟音で……最期に見たモノは……無数の「黒い電撃」としか呼べぬ「何か」だった。

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