第1話 出会い

 広島県福山市、岡山県と広島県の県境に位置したその街は、発展した街というには少し物足りず、ドがつくほどの田舎と言われればそういうわけでもない。どうにもパッとしない街である。


 唯一あるものといえば、バラ公園と福山城くらいだろう。福山城に至っては、戦争で焼けなければ日本で最後に作られた城としてとても有名になれたかもしれない城である。


 そんなパッとしない街で悠真と和成は出会った。


 二人の出会いは中学校の部活。二人は同じ学校のバスケ部に所属していた。当時のバスケ部は全国大会3年連続出場を成し遂げた、全国常連の強豪校である。


 当時の二人はというと一言で表せば『主役と裏方』


 強豪校というだけであり、部員数は100を超えその中でユニフォームをもらえるのはたった15人。試合に出られるのは5人しかいない。


 そんな環境の中、悠真は1年生にしてユニフォームをもらい試合にも出場していた。さすがにスタメンというわけにはいかなかったが、それでも1年生にしてユニフォームをもらえることだけでも光栄なことである。


 一方、和成はというとユニフォームをもらえたのは3年生になってから、試合に出ることもあったが5分も出れたらいい方で実力も特別うまいわけでもない。はたから見れば『普通』。部活の終わった後家に帰り、自主練習にも励んだが実力はその程度どまり。


 人間性においても悠真の周りには男女問わず人が集まる、良くも悪くも嫌いになる人はいない。誰からも嫌われる人ではなかった。


 和成も友達がいないわけではないが、第一印象が悪かったのだろう。誰もが仲良くしたいと思えるような人間ではなかった。


 そんな人間性も隠れた才能も正反対の二人は、高校生になっても関係は続き、お互いに何でも話せるような『親友』と呼べるほどの中になっていた。


 そんな二人も高校3年生になり、その年の夏。


「今年の文化祭どうするよ」


 和成がハンバーガーを一口食べたところで悠真がしゃべりだす。


「去年は二曲だけだったけか? 今年は三曲いきたいな」


「あと二ヶ月だもんな~、なんか面白いことしたくね?」


「面白いこと?」


「確か出演時間は決められてなかったよな?」


「細かいところはな、大きく変えるなら会長に直談判になるが」


「そこは副会長の権力で」


「そんな簡単にいくかよ」


 悠真は軽音部の部長、和成は生徒会副会長けん軽音部部員という立ち位置にいる。普段の学校生活は雑な悠真だが、自分の好きなバンド活動はまじめにしているのである。



 そして次の日の放課後、和成は先日悠真と話し合った内容を伝えるべく生徒会室の前まで来ていた。


 コンコンとドアをノックすると中から『どうぞ~』と一言だけ聞こえてくる。


「失礼します。大変そうだね、会長」


「各クラスの出し物集計、予算改定、本番のスケジュール調整、スリリングすぎて気を失いたいくらいだよ」


「あはは……相当ですね」


 会長は笑いながら言っているが目の下にはひどい熊があり、その目は今にも闇落ちしてしまいそうなほどよどんだ瞳をしている。


「それで? 君の所属しているあの問題の部はどうなったんだい?」


「あ〜、えーっとですね……」


「焦らされるのは好きじゃないんだ、手短に済ませてくれないかな?」


 なんとも煮え切らない反応をする和成に、流石に温厚な会長も痺れを切らしたようで、先ほどの冗談めいた空気とは一変した。


「すみませんでした……」


 和成と悠真の話し合いで出た可決案はこうだ。


 うちの学校の文化祭の日程は、文化祭1日目に文化部や有志の出し物、2日目の昼間にクラスの出し物、そして夜にはグラウンドに大きなキャンプファイヤー(後夜祭)をするのが伝統となっている。


 悠真曰く、後夜祭はぶっちゃけキャンプファイヤーだけで特にやることもないので、軽音部が1日目と後夜祭の時に外でライブをする。ということらしい。


「はぁぁぁ……」


和成の話を聞いた会長は音聞くため息をつき頭を抱えた。


「なんかごめんなさい、うちのバカが」


「いや、大丈夫だよ。どうせいつものことだからね……あはは」


 顔は笑っているのに何故だろう、視線が怖い。今にも暴れ出しそうな暗い目をしている。


 その眼差しに耐えきれなくなった和成は「では俺はここで失礼します」とだけ伝えそそくさと生徒会室から出て行った。


 後日会長が和成の教室まで来て、先日の謝罪と会長の健康な生活を害したということで、廊下で土下座させられるのだけど、今の和成には知る由もない。



 そして月日は流れ、文化祭1日目。

 

 軽音部の演奏も残すところ悠真率いるバンドの演奏を残すだけとなっていた。


「みんな今日まで俺のわがままに付き合ってくれてありがとな」


「まったくだよ、この日のために俺がどんだけ動かされたことか」


「カズには本当に感謝してるよ。それにみんなにもな」

 

「何お前、明日死ぬの?」


「なんでそうなるんだよ!?」


 らしくない発言をする悠真を横目に、しっかりと和成がみんなの笑いを取りにに行く。さっきまで緊張で強張っていた雰囲気も今までの和やかな空気に変わるのを感じた。


『それでは、本日最後の演奏者です』


「それじゃ文化祭初日、最高に盛り上げに行きますか!! wats Time?」


『it's Shaw Time!!』


 気合入れをして、体育館のステージへと歩いていく。


 カーテンを潜り、ステージ正面に立つと学校の生徒、保護者、学校関係者から盛大な拍手で迎えられる。


「文化祭初日、みんな盛り上がってますか??」


 悠真がマイクに向かって喋り出すと、先ほどまで静かだった会場がより一層歓喜に包まれていく。


「他の出し物では、立ち歩きとかダメだったらしいけど、俺たちの出番でそんなことしないよなみんな! 席立ち上がってもっと前に来てくれよ!!」


 ベースの音の調節をする途中に先生方の方を見るとは明らかに慌てているのがわかった。


「後で文句言われるのは俺なんだよな〜」とか思っていると、体育館の電気が消えライトがステージだけを照らす。


 一呼吸置き、ドラムとバックに流れるシンセサイズがリズムの良い音を奏でる。


「10」「9」とリズムに合わせカウントダウンがされ、生徒も掛け声を上げる。


 そして、曲の終盤ベースのみでの演奏をする部分がある。そこでは普段あまり注視されることのないベースが前に出て、頭の中に響いてくるような低音に観客全員が沈黙で聞き入っていた。


 

 2日目の夜。クラスでの出し物を終え、生徒は皆キャンプファイヤーに火がつくのを今か今かと待ち遠しいにしているなか、和成たちはキャンプファイヤーの近くに設置されている仮設ステージに集まって音響などの最終チェックをしていた。


 やがて組み木に火がつけられ、悠真たちも演奏を開始する。


「文化祭最終日にも演奏してくどいようだけど、この日のために作った曲があるから聞いてくれ!!」


『残響ノイズ』


 この曲は悠真と和成が初めて一から作った曲である。とタイトルについてはいるものの、その言葉に反して曲調は穏やかで、ギターやドラムではなくピアノを全面に押し出したバラードとなっている。


 『楽しいことも、いつかは終わりが来る』という思いを込めて歌詞が書かれている。


 雰囲気とマッチしたのだろうか、キャンプファイヤーの周りでは楽しく踊っているものや、文化祭の思い出に浸っているものから様々である。


「ありがとうございました」


 キャンプファイヤーも演奏も終わり、こうして高校3年生の最後の文化祭が終わったのである。

 


 


 

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