第14話 新大陸からの侵略者
イベリア地方の最大の港、リスボンは異常な好景気に沸いていた。遠くの大陸からはるばる空飛ぶ船でやって来たマヤ人の使節団は、大量の金銀を持っていた。彼らは、それを代価に、イベリア諸国家と貿易をしたいというのだ。その申し出を受けない理由はない。正式な貿易協定が結ばれる前だというのに、既に大量の品物が金や銀と交換されて飛行船へと積まれていた。
その中に武器や魔導書のような軍事技術に関わる物が含まれている事を気にする者はいなかった。マヤ人は皆、友好的に接してきたからだ。西イベリアの王は、富を運んで来てくれた新しい友人たちの為に屋敷まで与えていた。
そして今日、わずかな仲間だけを残して、2隻の飛行船は、故郷の大陸に帰ろうとしていた。飛行船の下には、手を振る民衆達がいる。
「相当、懐かれたな。白い異邦人共に」
マヤの男は、外の民衆達に愛想良く手を振り返す。
「随分、気前よく金をばら撒いたものね。おかげで大量の情報を実物で持ち帰れるわけだけどね。少しプレゼントをやり過ぎたと思わないかしら? あの白い異教徒共が喜んでいると、虫唾が走るのはなぜかしら? ただの生理現象よね? 機関銃を振り回したくなって仕方がないわ」
年若い別大陸人の女は、飛行船が上昇し出すと作り笑いをやめた。
「まあまあ、金や銀なら、いくらでもくれてやれば良いのさ。その金も銀もいずれ取り戻せるからな。土地ごと、命ごと、丸ごと。馬鹿な連中だ。この飛行船をあいつらは、何て言っていると思う?」
「空飛ぶ魔法の船ですって、どれだけ科学に無知なのかしら。同じ人間ではないのね、きっと。あいつらになら、裸を見られても恥ずかしくないわ。猿と一緒よ」
マヤの男は、顔を赤くして咳払いをした。
「だが、東の果てにあるヤマト国、コークリ、キタイ、カラ国では蒸気機関が国中に広まっているらしい。その周辺国も進んだ技術が広がっていて、気球程度なら実用化されているようだ。まあ、少なくともリスボンの愚民達よりは、はるかに賢い。我らの脅威は東の国だ。ところで中々、似合っているぞ。その腰に差しているロングソードとかいうガラクタ。ピサロとかいう貴族から送られたそうじゃないか。どこへ行っても、ポカホンタス姫は美人で通るらしい」
「冗談は止して欲しいわ。今まで我慢して、腰に差していたのよ。消毒してね。本当に白い男は、汚らわしい獣ばかり、私の部族の一番下品な男でも、もっとマシな臭いがするわ」
ポカホンタスは、剣を床に投げ捨てた。地上の異教徒達は、もう豆粒にしか見えなかった。
「国に帰ったら、こんなものは分解して、炉で溶かしてやる。それで溶かした鉄で弾を作って、白人の脳天にぶち込んでやる。それできっと清々するわ」
「まあまあ、落ちつけ。我々に取って、脅威になりそうな火器はこの回転式のピストルとライフルぐらいだ。だが、この武器だって、イベリア地方にはほとんどない。ここは世界で最も遅れた文明程度の低い野蛮な国だからな。この2挺だって、ここより西にある国の亡命兵士が売りつけてきた品だ。情報を仕入れるには、無理をしてでも太平洋側からアジアに向かうべきだったかもしれない」
マヤの男はこの造りが少々、甘いライフルとピストルを丁寧に箱に閉まった。剣と違い、持ち帰り、性能を分析せねばならないからだ。性能次第では、これから計画されているイベリア侵攻作戦を大きく妨げるかもしれないのだ。
「でも武器を得体の知れない我らに武器を売るなんて、愛国心のない兵士よね。馬鹿というか、間抜けというか」
「だから、亡命するのだろう」
「ははっ、そりゃそうだわ」
「笑ってやるなよ。自分から祖国で最新型の銃だと教えてくれた優しい奴だ。こちらが聞く前に軍事情報を話してくれるのは、あり難いバカだ」
マヤ人は手で十字を切り、神に祈った。
「我らを導く我らが神、アドナイよ。あなたを捨てた冒涜者共に、まもなく我らが裁きを与えます。エイメン」
「男は殺し、女は辱めて殺し、生まれてきた子は奴隷とし、この大陸全土をあなた様にお返しします。エイメン」
マヤ人とポカホンタスは、復讐の祈りを神に捧げた。神の御心を直接、伺う事はできないが、かつて海を箱船で越えてきた預言者は2人の天使と共にアドナイの教えを説いた。
主の復讐を助ける者には、知恵の実が与えられると、神の為に戦う者には永遠の生命の実が与えられると説いた。
最初に知恵の実を与えられた聖人が羅針盤と火薬を発明してから、100年でマヤ人は空を飛べるようになり、蒸気の力を扱えるようになった。そう2人に説いてくれたのは、生命の実を天使から賜ったという浅黒い肌の男、海を越えて教えを説きに来た預言者本人だった。2人にとって、50年も昔の事だった。
やがて始まるレコンキスタにおいて、神と共に戦った者の中から、完璧な知恵の実と永遠の生命の実の両方を神より賜る者が現れるだろうと預言者は言い残して、天へと昇っていった。それが今から10年前の事だった。
アドナイの復讐戦争がまもなく始まろうとしていた。
追放魔術師の子は何度でも転生する みあ @0910
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