機械の歌姫の目から見る世界

 事故死した歌姫のコピーとして作られたアンドロイドが、冷凍睡眠中の富豪を目覚めさせるために歌う物語。

 主人公であるアンドロイド、十一号(エルフ)の主観視点で綴られたSFです。
 一人称体の文章、そこかしこに見える「機械としての自覚」がSF的で楽しく、しかしその文体ががっつり口語体してるのがもう面白いです。
 文章そのものが示す人柄や性格。翻って、文体そのものが「この主人公はそういう機微を持ち得る存在である」と示していること。

 そも「すでに死亡した人間を機械的に再現する」という行為も含め、設定や雰囲気はしっかりSFでありながら、でも描かれている内容そのものはどこまで行っても人間の愛憎や情念であるという、そのギャップのようなものが最高でした。

 満足感と納得感のある結末が心地よく、でも同時に想像の余地があるところが大好き。がっつり内面に食い込んだ主観視点ならではの、ある種の危うさや不確定度合いのようなもの。
 気づかぬうちに想像力を刺激される、非常に細やかに練り上げられた佳作でした。

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