第31話 道標ない旅-最終話

 試験最終日の土曜日の午後、五十六は美弥と由貴子に、メール会話の経過を報告した。記録されてるメールの経過の全てを見せず、適当に説明しただけだったが、美弥も由貴子も静かに五十六の話を聞いていた。五十六は、ひと通り説明し終わると、ごめんと頭を下げた。

「どうしたの、五十六」美弥

「だって、せっかく協力してくれるって約束したのに、内緒で進めたから」五十六

「いいのよ、そんなこと。ね、ユッコ」美弥

「うん。五十六さんに全部任せてありますから」由貴子

「でも、相手は女の子だから、二人のどっちかに助けてもらったほうがよかったかなってね、本当に後悔したんだよ」五十六

「でも、月曜日、ちゃんとメールが届いてた、ありがとうって」由貴子

「ほっとしたよ」五十六

「でも…それから、なんにもないの?」美弥

「テストだしね。今日あたり来るんじゃないかなって思ってるんだけど」五十六

「それにしても、その子もすごいわね。ちょっと聞いただけだけど、もしかしたらすごいファンタジーの世界を持ってるかもしれないわね」美弥

「ベルってどんなのだろ?」由貴子

「ゆっくり話を聞いてみたいわね」美弥

「“Dream is my friend.”、夢が友達、か」五十六

「そうね、本当に、友達ね」美弥

「それに、自分でもある」五十六

「自分で考えるから?」美弥

「その通り。たいしたもんだ」五十六

「ほんとね」美弥

「でも、ドリフレっていうのはな、ペンネームにしちゃ、変だよ」五十六

「そんなこと言わないの」美弥

「いっそのこと、漢字で夢友とかさ」五十六

「なんて読むのよ、それ」美弥

「む、む、ムニュウぅ、なんて」五十六

「それを言うなら、ムユウでしょう」美弥

「あ、それ、かわいい」由貴子

「いっそのこと、夢野友子とかでもいいんじゃないの。夢見友美とか」美弥

「そんなヤツはおらん」五十六

「あっ、冷たいやつ!自分が先に言っておきながら」美弥

「おらんおらん。そんな変な名前のヤツはおらん」五十六

食ってかかる美弥をあしらうように五十六は首を振って横を向いた。

「あ」由貴子が声を上げた。「そう言えば」由貴子

「どうしたの、ユッコ?」美弥

「そういう名前の子がいるんです。わたしのクラスに」由貴子

「えぇ?」五十六

「どんな子?」美弥

「おとなしくって、ほとんど誰とも話さないような、本当におとなしい子」由貴子


 トントンとノックする音が聞こえた。三人が虚ろなまま振り返ると、開かれた扉に半分身を隠すかのように小柄な女の子が立っていた。あ、と言いながら由貴子が指さした。少女は、小さく躊躇いながら、一歩前へ出た。そして上目づかいに、3人を見ながら言った。

「あ…あたし、1年A組の、友野夢見といいます。…コンピューター研究会に、入れてください」


 ウェルカム!、の絶叫が視聴覚室から飛び出して廊下まで響いた。廊下の端まで来ていた健太郎は何事かと駆け出した。部屋に飛び込んで健太郎が見たのは、美弥に引っぱたかれて文句を言う五十六と、真っ正面で口論する美弥と、笑いこけてる由貴子と、そして戸惑っておろおろしている夢見だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

グリーンスクール - 道標ない旅 辻澤 あきら @AkiLaTsuJi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ