加奈の家に行くのです・いち!

 ここは男子禁制の天如学園。そこには女装男子だけのクラスが存在する。







 「困ったことになったわ」


 「どうしたの加奈ちゃん」


 朝のショートルームが終わると加奈は深刻そうな顔で由実と権十郎を集めた。


 「何がお困りなのよ」とゴンちゃん。


 「それがね、うちのママが『一か月経ったんだしお友達は出来たんでしょう』って。だから『家に今度招待なさい』っていうのよ」


 「それの何が困ることあるってのよ」


 「……ここだけの話なんだけどね。うちの家族って言うか家計がそうっていうか、変にプライド所があって、自分たちは他と違って敷居が高いんだって思ってるのよ。それでね、何かと変な先入観がひどくって」


 加奈は由実とゴンちゃんを見て息を飲むようにため息をついた。


 「だからどうしたってのよ」


 「大丈夫? 加奈ちゃん」


 「いえね、私は大丈夫なんだけど」と加奈は二人を申し訳なさそうな目で見た。


 「私の親はね、心は女とか心は男とかそういうの嫌うタイプなのよね。だから特に女装とか男装とか特に嫌っていて……あ、もちろん私はそういうのはないわよ」


 「なるほどね、確かにそれじゃあ私の恰好はまずくなるわね」


 「うぅ、なんかごめんね」


 「なんで由実が謝るのよ、由実は何も悪くはないでしょ」


 「結構時代遅れな考えなのね、加奈の家族は」


 「そ、だから困ってるのよ。それに私の親って決めたことは絶対主義でね。近いうち絶対連れてきてね、みたいな感じなのよ、もう最悪よ」


 「……なら他の人を連れてったらどうなのよ。私たちは構わないわよ、ね由実」


 「うん、私も大丈夫だよ」


 「いやよ!」加奈は机を叩いた。


 「私はあなた達を連れて行くって決めたのよ。ってか第一あなた達以外にそこまで仲いい人いないわよ。なぜか他の皆よそよそしいのよね」


 (それはあんたが暴力的だから)という言葉をゴンちゃんは飲み込む。


 「加奈ちゃん、ありがとぅ」


 由実は由実で少し感動している。そんな由実を加奈はじっと見つめた。


 「……多分由実は何も言わなければ大丈夫そうね」


 「そうね、由実はどっからどう見ても女の子にしか見えないもの」


 「え、えっ? ありがとう?」


 困惑する由実。


 「とにかく! 問題はゴンちゃんね。ごめんだけどちょっとそのままだと入れないわね」


 「あー、それなんだけどね。私にいい考えがあるわ」


 「本当?」


 「ええ、確か加奈の親は女装が嫌いなんでしょ。それなら何とかなるわ」


 「どうするのよ? もっとうまく化粧するとか?」


 「いいえ、逆よ。ノーメイクでいけばいいだけよ」


 「……もしかしてゴンちゃん、男の子の恰好するってこと?」と横から由実が入ってくる。


 「そうなの?」


 「ええそうよ。むしろ私中学校まではそれが元だったもの、ちゃんと服も一式揃ってるわ」


 加奈と由実がゴンちゃんの見た目を見る。うっすらと見える髭にどう隠しても隠し切れないゴツイ筋肉。


 「……確かにその方がよさそうだけど。大丈夫?」


 ちょっぴり心配だった。


 「大丈夫って言ってるでしょ。こう見えても私結構モテモテなぐらいイケメンだったんだから」


 「そうそれなら。あ、でも女子校なのに男友達がいるってのは変じゃないかしら」


 「そこらへんは部活の友達とか誤魔化しなさいよ」


 「……部活やってないわよ」


 「とりあえず適当に言っておけばいいのよ。なんなら中学の友達でもなんでもね」


 「確かに、それはこっちで何とか言っておくわ」


 「えっと……私はこのままで本当にいいのかなぁ」


 「ええ、由実はそのままでいいわよ。あ、強いて言うなら、いつもぐらいのメイクで大丈夫よ。厚化粧過ぎたら嘘くさくなるしね」


 「……私今化粧してないよぉ」


 「「ええっ!!!」」


 思わず二人は叫んでしまう。


 「うそでしょ」と由実の顔を触る加奈。


 「……」と言葉すらならないゴンちゃん。


 「とっとにかく、ならなおさら由実はそのままでいいわ」


 「……なんかごめんね」


 「謝らないで! 謝ったらなんか、なんかダメ! 完全敗北した気持ちになるから!」とゴンちゃんが必死に抵抗する。


 「じゃあ、とりあえず由実の家に集合でいいかしら。一度ゴンちゃんの恰好も確認しておきたいし」


 「だから大丈夫って言ってるじゃないのよ」


 「念のためよ念のため。それに私んち直に集合でも場所分からないでしょ」


 こうして三人は各々その日を準備することになった。




―――――(一方その頃少女)—————


 

 「私の親はね、心は女とか心は男とかそういうの嫌うタイプなのよね。だから特に女装とか男装とか特に嫌っていて――――」


 教室で耳にしたその言葉にクラスの男子は胸を抉られた。


 今の時代、心に対する持ちようは大きく前進したというものの、どうしても一定多数それに対する不満を持ったり、認められない人がいることは仕方がない事実である。


 (もし仮に俺が男だと打ち明けて、友達になった人はどうなる? 嫌われるのか?)


 そんな心配が脳裏に横切ったのである。


 ※だが皆男である。


 (せっかくハーレムを築き上げても無駄になるかもしれないのか)


 ※皆男(略)


 実際、この特別クラス、一年四組で友達を自分の家に呼んだ人はごくわずかであった。なぜならばれるからである。


 家にもろ少女フィギュアを飾る者。

 あきらかに男子が好きそうなマンガばかりを持つもの。

 そもそも男用の着替えがあたりに散らばっている者。

 ベットの下に○○が隠されているもの。


 とりあえず一番は自分の家族に正体をばらされるのが一番厄介である。


 ゆえに呼べない。ゆえに家では遊べない。


 (くっ! 俺はいつになったら家でいちゃいちゃ遊べるんだ)


 多分無理じゃないだろうか。

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