部活動を探すのです!
ここは男子禁制の天如学園。そこには女装男子だけのクラスが存在する。
「と、いうわけで。私にあった部活を探しに行くわよ」
放課後、由実と権十郎を集めて加奈は腕を組みながら宣言した。
「だからなんで偉そうなのよ」
「加奈ちゃん、スポーツ系の部活動で問題起こしたって聞いたけど実際には何があったの?」
「由実! 過去は振り返らないの」
「いやあんたの過去でしょうが。っていうより罪よ罪。ちゃんと振り返って懺悔しなさい」
「うるさい! 私が悪いんじゃないわよ。色々と私が回ってあげたのに練習のテンポも悪いし、ルールも分かるってのにいちいち得意げに説明しちゃってさあ。私は赤ちゃんかってのよ」
「初心者だから当たり前じゃないかなぁ」
「はぁ!? 私が初心者?」
バンッ! と加奈は机を叩いた。そして一呼吸置くと、
「確かに一理あるわね」
と納得したかのように頷いた。
(一理あるなら机叩かないでよぉ、びっくりしたぁ)
「でも、そもそも二人は何で出禁になったのかちゃんと理由わかって言っているのよね。まるで私だけが悪者扱いじゃない」
「私は空手の先輩が組手をしている途中に乱入して投げ飛ばされたって聞いたわよ」
「わ、私はバスケだけど。『レギュラーに入れなさい』って監督に掴みかかって、つき飛ばしたって聞いたよぉ」
「ふむふむなるほど」
加奈は二人をギロリと睨み、一間開けると咳ばらいをした。
「一理あるわね」
「やっぱ弁解の余地ないじゃないの!」
「あ、あの話、本当だったんだ」
加奈はまあまあ落ち着きなさいよ、と手を押さえ「でも」と切り出した。
「私は悪くないわ!」
「いや悪いわ!」
―――――(少女懺悔中)—————
「まあ、それはそれとしてどこの部活に行きましょうか。なるべく三人で遊べそうなとこがいいわ」
「……加奈、文化系を何だと思っているのよ。一応部活よ部活」
「? 分かってるわよ。でもスポーツみたいに汗水流すこともないし、ほぼ遊びでやってるもんでしょ」
そうでしょ? という顔で加奈は二人を見た。うーんと由実は首を傾げて困ったように微笑んだ。
「でもね、例えば将棋とかオセロとか、ちゃんと相手と競っててスポーツとあまり変わらないんじゃないかなぁ」
「ああ、確かにあったわね。そんなもの」
「そ、そんなものって加奈ちゃん……。その表現は危ないよぉ」
「そうよ! 加奈、囲碁のマンガですごく面白いのあるの知らないの? あなたが思うよりよっぽど奥の深い世界なんだから。」
「へー、そうなの」
「誰かが対局してるところを通りかかる時ちらって盤面を見て、『おしい! そこじゃダメなんだ』ってアドバイスを言うの、憧れるわ。プロに対しても初心者なのにいい勝負をして皆を驚かせるのよ」
(ゴンちゃん……多分それは碁の話って言うか、マンガの話だよ)
その後も熱く語るゴンちゃんに対して加奈は話半分という感じで聞き流した。そして、
「わたし、碁のルールとか知らないからよく分からないけど。ゴンちゃんは知ってるんだ」
そういうとゴンちゃんは魚が喉に詰まったような声を出して目を逸らす。
「ごめん、私も分からない」
少し変な空気が漂う。
(じゃあなんで碁の話してたんだよ)というツッコミを加奈は飲み込んだ。
「と、とりあえず他の部活も考えてみようよ、ね」と手を叩いて由実が話題を変えた。
「他のっていえば?」と加奈。
「す、吹奏楽部とか」と由実。
「私音痴だから嫌」と首を振る加奈。
「え、えっとじゃあ園芸部とか」と困ったように由実。
「虫嫌いだから却下」と加奈。
「あ、あ、それじゃあえっと……料理部?」
「それこそ家で作ればいいじゃない。部活の意味あるのそれ?」
「ああもう!」
ゴンちゃんが二人の間に割って立ち上がった。
「もう埒が明かないわ! こうなったらあれよ」
「「あれ?」」
「あみだくじ!」
――――(少女製作中)————
そしていくつか適当に部活動を並べたあみだくじが完成した。
「じゃあやるわよ」
加奈が上から線になぞって下に降りていく。
降りて降りて……。
『漫研』
「……え、漫研ってなに?」
三人が顔を見合わせる。
「えっと、漫画研究会の略だよ。よくわかんないけど、マンガを読んで感想を言い合うんじゃないかな?」
「それだけじゃないわ。自分でマンガを作ったりもするのよ、たぶん」
「それ、家で個人でやればよくない?」
「あなたそればっかりね。それを言ったらほとんどの部活なんてオワコンよ。とりあえず決まった以上は見学はしてみましょう」
「いいんじゃないかな。さっきの碁のマンガだって読めると思うよ」
「確かに……家でマンガ禁止されてるからありっちゃあ、アリかもね」
「え! でもあなたスポコンに反応してなかったっけ?」
「スポコンの意味ぐらい読まなくたってわかるわよ!」
「わ、私が持ってる少女漫画今度貸してあげるよぉ」
「別に憐れまなくてもいいわよ!」
(そ、そんなつもりじゃないのにぃ)
「とりあえず分かったわ。善は急げよ! 早速部室に行ってみましょう!」
加奈が連れまわす形で三人は教室を出て部室に向かった。
――――(少女連合移動中)—————
「え? 廃部になったんですか?」
あっけなくとも早くその展開は終わりを迎えた。見当たらない部室の元、結局職員室でその「廃部」という無駄足の前に三人は固まっていた。
「ああそうそう、一応希望するなら新しい部活として作ることが出来ますけど、どうしますか? もちろん、同好会という形からになりますが」
と教頭先生が渡してくれた紙には部活の名前を書く欄とその下に部員の名前を書く欄が五つ並んでいた。
「最近、他の先生から新しく漫研を作る際、顧問を希望したいとの声もあったので、部員が五人揃えばいつでも作ることが出来ますよ」
「いや、いいです……」
「……そうですか」
あくまで目的は『見学』であったために、三人はなんだか冷めてしまい、部活申請用紙を教頭に返すとその場から去った。
「なんか、もうよくね?」
その一言とともに各々家に帰っていった。
後日談であるが、由実が持ってきた少女漫画に加奈はハマりよく家に遊びに行くようになった。
―――――(数日前)
「ええええ! 廃部になったんですか!」
職員室に大きな悲鳴が響く。
「青木先生、職員室ですから。ボリューム押さえてください、ええ」
「ど、どうしてなんですか校長!」
青木恵は校長を揺さぶって問いかけた。
「いぃいや、わっわわわたしに言われてもですねえ。たしか漫研は二年三年だけで成り立っていたそうで、三年は卒業、二年は受験生として止めたそうで。単純に部員不足ですよお」
「そんなのダメよ」
「いやっ、ダメって言われてもねー」
(じゃあ一体誰が私にBL本を描いてくれるというのよ。去年は顧問が別にいたから我慢したのよ、今年はもう我慢の限界よ!)
額に汗を浮かべて困り果てる校長を前に青木恵は心に決める。
「なら私が新しく作るなら大丈夫ですよね? 校長」
「…………も、もちろん、校則に則っているのであれば大丈夫ですよ」
(ああ、なんか嫌な予感がするな)
そう思いつつも青木の圧に何も言い返せなかった。
「わかりました! それでは、もし漫研を作りたい生徒が来た際は、顧問はすでにいることを伝えるようにお願いします」
「え、いやでも発足はまだ――――」
「お願いします、それでは」
勢いのまま校長を押しのけるとそのまま青木恵は職員室を出て行ってしまった。虚無に残された校長は一息つくと席に腰を下ろした。そして何事もなかったようにお茶をすすった。
「ああ、今日もいい天気ですね」
なかった事にした。
それから青木恵は漫研発足のためにいくらか活動することとなるが、新しい部活として生まれることは今後無かった。
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