奴は幼馴染なのです!

 ここは男子禁制の天如学園。そこには女装男子だけの特別クラスが存在する。




 始めは自分の勘違いだと思い、その度重なる疑念を見ては見ぬふりをし続けた。いや、本当はうすうす気づいてはいたのだが信じたくなかったのだ。


 誰もいない教室で、鈴木遥と田中くるみの二人は向かい合っていた。


 言いたくない、だが言わざるを得ない。


 田中くるみ、お前は―――――

 鈴木遥、てめぇは―――――


 「ハルト、おまえじゃねぇかあああああああ!!!」

 「たくみ、おまえかよぉおおおおおおおおお!!!」


 二人の悲痛な叫び声が教室に響く。


 「どうしてたくみがここにいるんだ」


 「それはこっちのセリフよ。なんであなたがここにいるのよ」


 「そのじゃべり方は今は止めてくれ。お前だと思うと気持ちが悪い」


 「うるさぁい! だったら言わせてもらうけどな、てめぇの名前なんで遥なんだよ! 一文字いじっただけじゃねぇか! 分かりやすいんだよ!」


 「はあ? だったらお前の方が大概だろうが! 何がくるみだよ。お前それ中二の時に告白した奴の名前じゃねぇかよ! 気持ち悪いんだよ!」


 「な、は、え? よくわからんけど? は? え? お前それどこで、は?」


 「お前がくるみに告白したことは皆知ってたんだぞ!」


 「嘘だ! 待って、知りたくなった! てめぇ、は? ふざけんな! それは無しだろ! 卑怯だ!」


 「せっかく学校被らないようにわざわざ遠いとこ選んだのに、お前がいたら話にならないだろうが!」


 「っ! それはこっちの言い分だ! 何が卒業式の日泣きながら『もう会えなくなるかもしれない、バイバイ』だ! 最悪の再開の仕方じゃねぇかよ!」


 「うるせぇ! 振られた奴が何か言うんじゃねぇよ!」


 「は! だからその話題は卑怯だって!」


 「皆裏で笑ってました!!」


 「止めろぉおおお! は、ハルト、お前だってなあ。階段で女子のパンツ見ようとしてたの、あれ皆にバレバレだったんだぞ!」


 「な、は? そんなこと俺してないけど?!」


 「嘘つけ! あれに女子悩まされてるから俺の口から何か言ってくれないかって女子に言われたんだぞ!」


 「う、嘘つけ!」


 「嘘でもなんでもいいけど、女子の間ではパンツ覗き魔として認知されてたんだよ! 席隣になった女子が嫌がってたのお前知らないだろ!」


 「黙れぇぇえええええええ! だ、だったらお前だって―――――」


 誰もいない教室で二人、何も起きないわけもなく。


 いや、喧嘩の方ね。




――――(男の娘、罵倒中)————



 「はあ、はあ、もうやめよう」


 「う、うん。そうだな。互いが傷つくだけだこれ。やめだやめ」


 息を切らし、机一個分を間に二人は向かい合っていた。昔なら仲直りの時は肩を抱いたであろうが、今の姿ではさすがにそれはしなかった。


 「ってか、本当にあんな別れ方したのにな」


 「ああ、こんな偶然あるもんだな」


 二人は中学校の時を思い返した。



――――(男の娘、回想中)————



 ハルトとたくみは小さい頃からの親友で二人でよく川にも行ったし、親同士の交流も多少あったもんで、時々家でお泊りすることもあった。


 部活のサッカーでも息の合った二人、だとか、小学生の間では『風神雷神コンビ』なんて恐れられていた。……いま考えるとダサいな。まあでもそんな感じで二人はいつも一緒にいたもんだ。


 ハルトいればそこにはたくみアリ。逆もしかり。


 そんな仲の良かった二人は卒業式の日にお互い泣きあって抱き合った。


 「俺よぉ、結構遠い学校に行くことになったからよぉ、もう会えないかもしれん」


 「本当か? 実は俺もなんだよ。俺も遠い学校に行くことになって」


 「しばらく会えなくなるな」


 「ああ、二人遠いとこに行くんなら、本当に会うことなくなりそうだな」


 「連絡はとれるよな?」


 「ああ、でも高校卒業するまでは会えないかもしれん」


 「そっか、実は俺もだ。俺も卒業するまでは一回も会えそうにない」


 「……じゃあ、またな。18歳に超えたらまた会おうぜ」


 「ああ! そんときにはおっきくなってまたここに戻ってくるからよ!」


 その涙の別れに周りの生徒もつられて泣いた。二人はいつも一緒だった、その見慣れた光景のなくなることが寂しかった。


 ………。


 だが!!! 実際はこうである!


 「俺よぉ、結構遠い学校(女子校)に行くことになったからよぉ、もう会えないかもしれん」


 「本当か? 実は俺もなんだよ。俺も遠い学校(女子校)に行くことになって」


 「しばらく会えなくなるな(女装してるし)」


 「ああ、二人遠いとこに行くんなら、本当に会うことなくなりそうだな(さすがに女装姿見られるわけにはいかないしな)」


 「連絡はとれるよな?(電話しか出来ないな)」


 「ああ、でも高校卒業するまでは会えないかもしれん(卒業まで女の恰好だから、それまで会えねぇな)」


 「そっか、実は俺もだ。俺も卒業するまでは一回も会えそうにない(その間俺はハーレム作るけどな! なんかごめんな)」


 「……じゃあ、またな。18歳に超えたらまた会おうぜ(その時には俺は両手に花を持ってお前を驚かしてやるぜ)」


 「ああ! そんときにはおっきくなってまたここに戻ってくるからよ!(彼女連れてな!)」


 それから秒で会うことになるのである。


――――――


 始めは違和感と、そうでないで欲しいという願望。でも確かに長年一緒だったあいつの癖が垣間見る。


 好奇心を押さえられず、ちょっとだけ試してみる。


 「あー、私さ、たくみっていう言葉の響き好きなんだよねー」


 するとくるみが反応する。


 (やっぱりかよ!!)



 どうしても拭えない疑問が生じる。確かめないわけにはいかなかった。


 「私ね、ぉおおおお、秋が好きなんだよね」


 すると遥が反応する。


 (嘘だと言ってくれ!!!)


 

 そうでないという希望は絶望に変わるのである。



――――(男の娘、ため息中)————



 「それで、どうする?」とハルト、もとい遥。


 「どうするって?」とたくみ、もといくるみ。


 思い出から戻った二人は気が抜けたように肩の力を落としていた。


 「だからあれだよ。俺たちが男だって皆に言うかどうかって」


 「い、いやそれはないだろ! タイミング遅すぎだって。初日の自己紹介の時に二人名乗り出てたじゃん、あの時言わなかった時点で負けだって!」


 「……。確かに、俺もう女として皆に接触しちゃったしな」


 「そうだよ! 俺女子の共感得ようと、『やっぱり生理の時期になると体調がすぐれなくなるわ』なんて言っちゃったよ! 今更打ち明けたら、え、生理って何だったの? ってなっちゃうよ!」


 「それはお前が悪い! ……けど俺も人の事言えねぇな。俺も、『あーあ、男だったら髪とか乾かすの楽だろうなぁ、いいなあ、男子って』みたいなこと言っちゃったしな。今更男だってばれたら、え? 二重人格の方ですか? ってなっちゃうよ」


 「それはお前が悪い!」


 「人の事言えんだろうが!」


 「いいか、だったらなおさら俺たちは男だってばれるわけにはいかないんだ」


 「ああ、これは二人だけの秘密だ。わかったな」


 二人は握手してお互いの信頼を確かめ合う。


 「互いにいい学園生活を送るぞ」


 「当たり前だ。何のために女子校に来たと思ってる」


 「「女子といちゃいちゃするために」」


 こうしてここに『ハーレム結束チーム』が誕生したのである。


 だが残念なことに他も男子であることをこの二人はまだ知らない。





―――――(男の娘、談笑中)


 「なあ、それでさ。お前気になるやつとかいんの?」


 「気になるやつ? えっと、そうだなあ」


 遥、もといハルトはにやけながら空を眺める。


 「そうだ、あいつ! 加奈とかどうだ! お前の席隣の奴」


 「いや! あいつだけはない!」


 必死に首を振り抵抗するハルト。


 「なんでよ? たまに喋ってるの見かけるけど」


 「だってあいつしゃべり方からなにもかも上から目線で横暴なんだぜ。それに例の噂聞いただろ。あのイカツイ体育教師をのしたって。それだけじゃなくて色んなとこで暴力振るってるらしいぜあいつ」


 「まあ、聞いてみただけだ。俺もあいつだけはない」


 「あんなの女子じゃねぇよ。なんならあいつも中身男なんじゃねぇか?」


 「はは、確かに! 俺たちと同じやつかもしれないな」


 ここに唯一、最悪の選択を間違えた二人がそこにいた……。







―――――(少女、着席中)—————



 くしゅん!


 「あ、大丈夫? 加奈ちゃん風気味なの?」


 「ああいや、大丈夫。ただなんかいい気がしなくてね。噂でもされてるのかしら」


 「ふん、あなたの噂なんて学校中に広がってるわよ。どんだけ問題起こしたと思ってるのよ」


 「なによ! もしかしたらいい噂かもしれないじゃない! 『加奈さんって強くて素敵です』みたいにさ」


 「ゴリラみたいに?」


 「ぶっ殺す!」


 「お、落ち着いて、殺しちゃダメだよぉ」


 そこには唯一の女子が怒りに震えていた。

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