腕相撲最強決定戦!

 ここは男子禁制の天如学園。そこには女装男子だけのクラスが存在する。




 「……」


 昼食時間、加奈はご飯を食べながら由実をじっと見ていた。


 「……えっと、なにか変かなぁ、加奈ちゃん」


 (そんなに見られたら、恥ずかしくてご飯食べられないよぉ)


 「いや、別にね」


 そういいながら加奈は由実の二の腕を軽くつまんだ。ふにっ、としてとても柔らかい。


 「ひゃっ、んーと。何か変なとこある?」


 「ああ、ごめんごめん。ただね、一応あなた男なんだと思ったら、そうね、全然見えなくて」


 「そ、そう? えーと、そういわれると少しうれしいかな。可愛くなるためにいつも頑張ってるの」


 「あー、そうじゃなくてね」


 ゴンッ! 加奈は両手の拳をぶつけて見せた。


 「力よ、力。由実、全然筋肉とかなさそうじゃん。どのくらいかなって気になったの」


 「そ、そうなんだ」


 「だってゴンちゃんを見てよ」


 くいっ、っと指を向けた先にはゴツイ筋肉をまとった権十郎、ゴンちゃんが「なによ文句ある?」とご飯を食べながら睨む。


 「文句はないよぉ」


 「ほら、あんたも男でしょう? ちょっと腕貸してよ」


 加奈は机の上にある弁当を寄せてその上に腕を置いた。


 「ほら、腕相撲。やるわよ」


 「えー、いいよぉ」


 「いいから、ほら!」


 加奈と由実が手を握った瞬間、バンッと音とともに由実は腕を叩きつけられた。


 「痛ーい!」


 「やっぱり、全然だめね」


 「加奈、あんた先生を押し倒すぐらい強いんだから手加減はしないと」


 「したわよ! それは十分過ぎるほどにね! でも由実ったらてんで弱いんだもの」


 「よ、弱くてもいいもん」と由実は手を押さえながら嘆いた。


 「でもね、ここは女子校なんだから、男であるあんたが強くなかったら誰が私と張り合いのある勝負をしてくれるっていうのよ」


 「なんで勝負する前提で物事が進んでるのよ」


 「いいじゃない別に」


 「よくないわよ」


 と、その様子を見ていたクラスの皆があることを思い浮かべた。


 (これは女子と触れ合えるチャンスなのでは!!)


 すると教室の所々から、


 「ねえ、私達も腕相撲しません?」

 「腕相撲、一回だけやらない?」

 「おもしろそうじゃない?」


 と、その後ろに控えた欲を隠しつついたるところで腕相撲が始まった。


 「……なんか流行っちゃったね」と由実。


 それを見て加奈はにやりとひとつの考えを思いつく。


 「ふーん、いいわね。じゃあ今日の昼休み! 腕相撲最強決定戦をやるわよ!」


 教室にその声が響く。その提案は男からしたらあまりに都合の良すぎる事であり、誰も反対することは無く、


 「いいわね! やりましょう!」

 「やろう!!」


 その声で溢れた。




――――(会場、設置中)————



 こうして始まった『天如学園第一回腕相撲大会 in一ノ四』。


 「ルールは簡単。一回戦ごとに適当な人と腕相撲をしなさい! そのたびに負けた人は教室の壁際に行くこと。わかったわね!」


 カーーーーン! ないはずのゴングの音が鳴り響く(幻聴)。


 そしてみな、周りの人とそれぞれ腕相撲が始まる。


 

――ある場所


 「よし、すいません、私とやりませんか」と遥。


 「ごめんなさい、私もう一回終わったの」


 「あ、そうなんですか」


 ――また別の場所。


 「私とやりましょう!」とくるみ。


 「あ、わるいね、私一回戦済ませてるよ。ってかまだやってないの?」


 一回戦が開始して一分が経ったところで加奈が大声で皆を呼んだ。


 「はい! みんな終わった? 終わってない人手挙げなさい」


 そうして手を挙げたのは、遥とくるみの二人だけだった。


 「ちんたらしてないで、早くふたりで終わらせなさい」


 ((なんでお前とやらないといけないんだよ!!!))


 仕方なく、二人は皆の注目の中腕を組む。


 (いいかたくみ、これはせっかくのチャンスなんだ。悪いが勝たせてもらうぜ)


 (へっ、泣き言はあとでいいな。勝って女子の手をにぎにぎするのは俺だ!!)


 「ファイ!」、いつもまにか二人の審判になった加奈がスタートを切る。


 「うりょおおおおおおおおおお!!!!」

 「ふんがぁあああああああああ!!!!」


 二人の腕が激しく揺れ、顔が力み圧に溢れる。その様子はまさに鬼神!


 (やば、あの二人なんかこえーよ)


 とクラスに思われたのは言うまでもない。だが二人にとってこの勝負は女子の手を握るチャンス! 決して負けるわけにはいかなかった。


 「ぐぐぐぐぐっ!」

 「なかなかやるじゃねぇかぁあ、ふんっ!」


 (負けてたまるかああああああああああああ!!!!)

 (てめぇが負けろぉおおおおおおおおおおお!!!!)


 そして、激戦を制し立ち上がったのは鈴木遥だった。手を挙げて勝利を心にしみる遥、もといハルト。


 (ふっ、残念だったなたくみ。俺はお前の一歩先で待ってるぜ)


 その場を離れようとした遥を加奈が止める。


 「どこ行くのよ。次は二回戦目でしょ、はやくやるわよ」


 「いやっ、ちょっと待って!」


 (俺がやりたいのはお前じゃないんだああ!!!)


 「皆もほら、次始めていいわよ」


 ————と。遥の心の叫びは虚しく、腕を組みあってものの数秒で負けたのである。敗北に涙する遥の前で加奈はため息をついた。


 「やっぱりだめね。あんなに接戦してたから少しはやると思ったんだけどてんでダメ。弱過ぎね」


 そういって加奈はクラスメイト達の中に消えていった。


 (やっぱりお前は嫌いだああああああ)


 その姿に同情したくるみが肩を叩いて慰めた。




―――――(少女、奮闘中)—————



 「さて生き残ったのは、やっぱりあんたね」


 「ふ、上等ね、加奈」


 クラスメイトのほとんどが壁際で立つ中、その中央にいるのは加奈と権十郎の二人だけ。


 壁際で「二人ともがんばれぇ」と由実が掛け声をあげている。


 「私ね、今までの人は女子だから弱くて仕方ないと割り切っていたのよ」


 それを聞いた敗北者たちががっくりと肩を落とす。男としてのプライドを全否定されたようだ。


 「でもあなたは楽しませてくれるのよね」


 「面白いこというじゃないの、でも加奈。それはやってみてのお楽しみよ」


 カーーーーーン。無いはずのゴングが鳴る。


 「ふん!」

 「はああ!!」


 二人の腕に稲妻が走ったように見える(幻視)。加奈がにやりと笑いながら額に汗を流す。


 「さすがね、ゴンちゃん。これよ、これ! 私がもとめていたものはっ!」


 加奈が体重を腕に思いっきりかけると、均衡していた腕が傾く。


 「おお! あの権十郎に勝つのか!」

 「いけぇえええ加奈ちゃああん!」

 「もう少しだ! 押せ押せ!」


 クラスの観客が盛り上がっていく。やはり男は勝負物は楽しいようで当初の目的を忘れていた。それでいいのか。


 「ぐぐぐっ! あとちょい! どうよっ!」


 と加奈が顔を見上げるとそこには涼しい顔をして前髪をかきあげているゴンちゃんの姿があった。


 「う……うそ」


 目を丸くする加奈を見て権十郎はふっ、と微笑んだ。


 「ごめんね加奈。本当はそこまで力を出すつもりはなかったの。でも手を抜いたままでは勝てそうにないわね」


 「手加減してたっていうの!」


 「今そう言ったじゃない。そうね、半分の力も出せば勝てるかしら」


 「嘘っ、ぐぐぐぐぐぐぐ」


 「っ! ほら!」


 そして一気に傾きは権十郎から加奈の方へ向き、そしてそのまま、


 勝負あり!!!! 勝者、権十郎!!!!!!


 加奈は机についた手を息をつきながら眺めていた。


 「負けたわ、完敗よ」


 「いいえ、加奈もなかなかよ。でもね、私が目指すのは鋼を超える肉体に美しい心なの。負けるはずがないわ」


 「心は女でも体は男なのね。ふっ、そりゃあ勝てないわ」


 WINNR権十郎。その姿に拍手と歓声が舞い上がった。


 (((((いや、俺も男だけどね!)))))


 と思うと少し悲しくなる女装男子達であった。




 ちなみに、今日の腕相撲による皆の感想がこうであった。


 (女子でも意外と手ごついんだなぁ)


 だって皆男だもんね。以上!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る