加奈の家に行くのです・に!


 ピンポーン、チャイムの音が鳴る。それに応えるようにドアを開け眠そうな目をした由実が出てくる。


 「おはよ! 由実」


 玄関の前には仁王立ちした加奈。


 「あ、あれぇ加奈ちゃん。集合時間こんなにはやかったけぇ?」


 「ああ気にしないで。ただ私が早く来ただけよ」


 「え、あ。そうなんだぁ」


 由実は目をこすりながら時計を確認する。今、午前の10時。集合時間は午後の2時である。4時間前の現着。


 「は、早すぎだよぉ」


 「だから言ったでしょ、早く来たって。私思うのよ。遅刻する奴はむかつくけど早く来る分には問題ないでしょ。だから」


 (だから?!)


 なんの説明にもなっていない。だが起きたばかりということもあり由実はなにも言わずに頷いた。どうせ何言っても聞いてくれないことも知っている。


 「ってことで。中に入れてよ。集合時間まで暇だし」


 「えっ!」


 「え、じゃないわよ。ちょうど由実のマンガ見たかったし。続き気になってるのよね。あれから結局ヒロインが告白したのかどうか」


 「あ、うん。でも私起きたばかりだからちょっと待ってて」


 「起きたばっかり?」


 「うん」


 加奈は由実の顔をまじまじと見つめた。


 (寝起きってことは本当に化粧してないのよね。どんだけ肌綺麗なの)


 「なにかついてる? あ!もしかしてよだれ跡あるの? は、恥ずかしいから見ないでぇ」


 「いやなんでもないわよ。ただ本当に由実が男か分からなくなっただけよ」


 「え? 私ちゃんと男だよぉ」


 そんな可愛い声で言われても説得力のかけらもない。 


 「……まあいいわ。早く準備してきなさい。私待っててあげるから」


 早く来たくせに偉そうな加奈。由実は待たせないようにと急いで部屋の片づけに向かった。



 ――――それから4時間後。再びチャイムが鳴った――――


 「ゴンちゃんやっほー!」


 勢いよくドアが開き加奈が出てくる。


 「なんであんたが出てくるのよ」とゴンちゃん。


 「なんでって言われても、ただ早く着いたから中で待っ――っ!!!」


 加奈がゴンちゃんを見て言葉を詰まらせる。


 「な、な、な、な、、、、」固まる加奈。


 「どうしたの? 加奈ちゃん」と横から由実も出てくる。


 そして、


 「「だれ!!!」」と二人は声を合わせて叫んだ。


 「誰って、権十郎よ。声で分からないかしら」


 確かに声はゴンちゃん。しかし見た目が別人そのものだった。薄い色のセーターにおしゃれに乗っかるリングのネックレス、ぴったしの黒のデニム。そして結んだ長髪が勇ましく、服の上からでもわかる鍛えた筋肉がうっすら輝いている。


 モデル顔負けのイケメンがそこにいたのである。


 「ほ、本当にゴンちゃんなの!?」

 「す、すごいかっこいいよぉ」


 「だから言ったでしょ。私結構モテてたって」


 「まさか本当だとは。ねぇ、ちょっとイケメンぽく喋ってみてよ」


 「……うるせぇな。少しは黙れよ」


 「きゃあーー!! やんちゃなヤンキーをチョイスするとは。やるわね」


 「…おもしれー女」


 「あ! 少女漫画でそれ見たことあるわよ!」


 「王道の王道よ」


 「あーなんかもう全部かっこよく聞こえるわ。この際だから少女漫画のセリフ全部言わせようかしら」


 (加奈ちゃんが限界オタクみたいになってる……)


 「そんなことはいいから、早く出発するわよ。加奈のお母さん待ってくれてるんでしょう」


 「そうだったわね。でもなんかもったいないわよ。ねぇ今度またこの格好で遊びましょ。今回だけなんて宝の持ち腐れよ」


 「いやよ。何のために去勢したと思ってるのよ」


 「そこをなんとかお願い! 私のために朗読して!」


 「……1回千円」


 「か、金取るの!? ……背に腹は代えられないわね。今度お願いするわ」


 「冗談よ。友達の頼みだもの、今度また機会があったらやってあげるわ」


 「やったあ! ゴンちゃん大好き!」


 加奈がゴンちゃんに抱き着く。その光景はもはやカップルにしか見えない。


 「喋り方はどうするの?」


 「そうね。さすがにこのままはまずいでしょうから適当に変えるわよ。大丈夫よ、中学の時だって喋り方押さえてたんだから心配しないで」


 「今この姿で言われるとなんだか説得力があるわね」


 「それじゃあ行きましょ」


 


―――――少女移動中―————


 

 「そういえば、由実の作ったカレーおいしかったわ」


 「わ、私が作ったやつじゃないよ。あれお母さんが作ってくれたの。昨日の晩御飯」


 「なるほど寝かしカレーね。だからコクがあってとてもおいしかったの。ねぇ、こんどゴンちゃんも一緒に食べましょう」


 「うん、お母さんに帰ったら聞いてみるね」


 「ありがとう!」


 「ちょっと待った!!」会話を聞いてゴンちゃんが突っ込んだ。


 「カレー食べたの? 由実の家で?」


 「そういってるじゃない」


 「あんた一体何時に由実の家に着いたのよ」


 「10時よ」


 「10時!? あんた馬鹿じゃないの。4時間も早くついてどうすんのよ」


 「気にしないで。ちょうど由実が持ってるマンガ読みたかったし」


 「あんたが気にしなくても由実が迷惑でしょ」


 「そうなの?」


 きょとんとした顔で加奈は由実を見る。


 「あ、うん。私は別に大丈夫だけど、でもやっぱり早すぎるかな」


 「ほら。大丈夫だって」


 「あんた都合のいい部分しか聞かないのね」


 深いため息をつくゴンちゃん。


 「いい? 向こうのお母さんだってあんたのご飯なんか用意してるわけないから昼の時間に居られたらいい迷惑になるのよ。少しは考えなさい」


 「……確かに、一理あるわね」


 「一理どころか全理ぜんりよ、全理」


 「で、でも加奈ちゃんがおいしく食べててお母さんも喜んでたよ」


 「ほんと? ならよかったわ。今度会った時何かお礼しなきゃダメね。そうだ、カレーのレシピも教えてもらいたいわ」


 「レシピ特にこだわってるところないと思うけど。たぶん普通のカレーの作り方と変わらないんじゃないかな」


 「大丈夫安心して。私料理からっきし出来ないから。カレーの作り方なんて知ってるわけないわ」


 「なんであんた偉そうなのよ」


 「あれ? でも加奈ちゃん部活探してるとき料理は家で作ればいいって言ってなかった?」


 「別に出来るとは一言もいってないでしょ。料理部だか調理部だか分からないけどやりたい人は家でやればいいじゃないって言っただけよ」


 「だからなんで偉そうなのよ。出来もしないのに」


 「なによ。そういうなら二人とも料理できるわけ?」


 そういわれて二人は顔を見合わせた。そしてゆっくり頷いた。


 「わ、私はお母さんのお手伝いしてるから少しは出来るかな」


 「私も出来るわよ。栄養を管理することは美貌への一歩に近づくのよ」


 「へ、へー、そう。出来るの」


 「動揺してんじゃないの」


 「してない!」


 「こ、今度三人で調理部見学してみる?」と由実。


 少しの沈黙の後、加奈はこっくりと頷いた。


 「お願いするわ」


 「だからなんで偉そうなのよあんた」


 そんな話をしながら三人は加奈の家に着いた。




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