加奈と由実と権十郎です!
ここは男子禁制の女子校、天如学園。そのなか女装男子だけという特別クラスが存在した。一人を除いては。
入学式から2週間ほどが経ったこのクラスで誉高加奈は不満そうに机を叩いた。
「やっぱり納得いかない!」
一瞬クラスメイト達の目線が集まるが(なんだいつものやつか)と各々割り切ったように元の作業に戻った。
「あらどうしたのよ、加奈」
加奈に声をかけたのは
「どうして私がこんな嬢様高校に通わないといけないのよってことよ。私はスポーツの名門校に行きたかったのよ! こんなあはは、うふふ、みたいな女子校じゃなくてね」
「あら、部活ならあるじゃないの」
「弱小高校じゃない!」
「だからいいんじゃない、その分あなたが皆を強くして甲子園でもなんでも連れていったらどう? スポコン漫画みたいにね」
「っ! ……その考えはなかったわ。面白そう」
(ちょろいわね)
権十郎はクラスでも異質な存在である。顔も変えずに元の雄々しい男顔にメイクを施したのみであり、たまにうっすらとあごひげが見えることもある。変声機も使用せず、本人曰く、「親からもらった顔を変えるだなんて言語道断だわ。この声も気に入っているもの」らしい。それを聞いた他の女装男子は心を痛めたとか痛めなかったとか。
「? 加奈ちゃん部活入るの?」
二人の会話の横から割って入ったのは山中
「ああ由実か、まあ、そんなとこよ」
「スポコンよ、スポコン」
「?? えっと、どこの部活にはいるの? 加奈ちゃん強そうだから、どこの部活でも活躍できそうだなあ」
「実際、入学する前に体育教師蹴っ飛ばしたそうじゃないのよ。あのゴリラ吹っ飛ばすぐらいなんだから弱いわけないわよ。……っていうかあの噂本当なの?」
「ち、違うに決まってるじゃない! ただあのゴリラが私の事お嬢様扱いするから、ちょっとイラってなっただけよ。悪いのはゴリラ!」
「絶対殴ったでしょ。どっちが悪いかなんて聞いてないわよ」
「っ! ゴリラが弱いだけなんじゃない!」
「あんたよく入学させてもらえたわね」
(わ、私が言った強いってそういう意味じゃなかったんだけどなぁ)
3人の中心にいるのは誉高加奈。家の敷居が高く、その教育方針から親に無理やり天如学園に入れられることとなった。入学する前に先生を殴ったことが原因で、先生からはその馬鹿力から男だと扱われてしまう。不憫w。
「それで結局部活は何に入るの?」
「あら、そんな話だったわ。そうねどこにしようか」
「空手、柔道、ボクシングとかはどうよ?」
「なんで全部格闘系なのよ! 絶対さっきの話引きずってんでしょうが! それに個人競技でしょ。強豪も弱小も特に関係ないじゃないの。スポコンはどうしたのよ、スポコンは!」
「あら、誰かのプレーに合わせる必要がないから気楽でいいんじゃない。多人数のところなんか、レギュラー争いとか、裏での陰口とかも酷いらしいわよ。(知らんけど)」
「……確かにそれもそうね。個人競技、ありね」
(ちょろいわね)
今このクラスで自分が男であると明かしたのは権十郎と由実の二人だけであった。権十郎はそのゴツイ見た目から明らか周りから認知はされていたが、初日の自己紹介にて「自分は去勢しました」と発言したガチ勢である。「強く、そして心が美しいのが私のモットーなのよ」だと。
由実も自己紹介の時に自らが男であるとうち明かした。自分自身ずっと女の子として過ごしてきて、女子校が念願の夢だったらしく、自己紹介の時のその嬉しそうな笑顔に落ちたやつも少なからず。(俺、男の娘でもありかも知れない)とクラスメイトの何人か目覚めた人がいたとかいないとか。
時代が時代で別に数人女装した人がいるぐらい何もおかしくはないのである。
他の男子共は罪悪感を感じつつも自分が男だとは言わなかった。なにせ心は男なもんで、打ち明けたら他の女子との関係を築けないと思ったからである。だが残念ながらその他に女子はいない。
「でも、やっぱり格闘系はいいかな」
「どうしてよ」
加奈はわざとらしく頭を押さえた。
「だって、私痛いのいやなんだもぉん」
「先生殴ったやつが何言ってんのよ」
「う、うるさい! 言ってみただけ、冗談よ。いいじゃない、私だって可愛らしい女の子なのよ」
「お嬢様扱いが嫌だったんじゃないの」
「ゴリラ扱いはもっと嫌よ!」
初日から先生を殴った噂(事実)が広がる中、加奈に声をかけるものはいなかった。この二人を除いては。あまりに滑稽なのだが、他のクラスメイトは唯一の女子を女子だと見抜けなかったことになる。
「ねぇ、一度見学させてもらうのってありかな?」
加奈を慰めるようにひょっこりと由実。
「見学? ああ、それもアリね。私が直接行ってレベルを確かめに行った方がいいかもしれないわ」
「そ、そういう意味じゃなかったんだけど」
「いいんじゃないの? 見学だったら色んなとこ見れてきっと楽しいわよ。ひとつぐらいは気に入る部活が見つかるんじゃないかしら」
「そう! 私がいいたかったのそれ!」
「なるほど、私好みの部活があるか探せそうね。合わなきゃ捨てればいいし」
「なんで上から目線なのよ」
「よし決まりね! 二人も一緒に行く?」
「いや、私はやめとくわね。だって元の力は男だもの、私が入るのは正々堂々とはいいがたいわ」
「私もやめとこうかな。別に力があるわけじゃないけど、私はどっちかというと文化系の部活に興味あるの」
「ふぅん、ならいいわ。スポーツは私一人で回ることにする。でも後で文化系も一緒に回りましょ」
「え、いいの!」
「ええもちろん。あ、ゴンちゃんも一緒にね」
「ええ! いいのぉ!」
由実と違い野太い声が響く。
「あなたわざとやったでしょ」
「まあね」
キーンコーンカーンコーン♪
授業が始まるチャイムが鳴り、周りの生徒たちも慌ただしく動き始める。扉が開き「ほら席につけ、授業はじめんぞー」と先生が入ってくる。
「じゃあまた後でね」
「ああ」
「うん」
軽く手を振りながら自分の席に戻っていく。
―――――
余談ではあるが、それから1週間後に誉高加奈は全ての運動系の部活において出禁となった。「ふん! みんな揃って雑魚だったのよ」と本人は言うが真相はいざ知らず……。
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