エピローグ


 アランが魔界に帰って数ヶ月。

 あれから、俺の環境はだいぶ変わった。


 まず、一つ目は、誕生日プレゼント。


 あのあと俺は、誕生日に一番欲しかったものを、勇気を出して家族に伝えてみた。


 ずっと言えなかった、欲しいもの。

 それは──裁縫セットだった。


 学校にもあるし、始めは反対されるかとおもったけど、思い切って、可愛いものが好きなこととか、裁縫が好きなこととか、全部うちあけたら、お父さんもお母さんは「いいよ」って言ってくれた。


 実をいうと、お父さんたちは気づいていたらしい。でも、俺が隠していたから、気付かないふりをしていたんだって。


 それにはビックリしたけど、その後は、家族みんなが、俺の事を受け入れてくれた。


 それどころか──


「お兄ちゃん! これにリボンつけてよ!」


 そんな感じで、よく妹やお母さんに、修理やアレンジまで頼まれるようになった。


 最近は、お母さんからミシンまでかりて、人形の服だけじゃなく、お母さんのポーチとか、夕菜のヘアゴムとか、お父さんのマスクまで作ってる。


 なんかもう、我が家の便利屋みたい。


 だけど、前みたいに隠れて裁縫をしていた時とは比べものにならないくらい、楽しい毎日を過ごせてる。


 二つ目は、ララ。


 ララは、あれから少しだけ成長して、小学1年生くらいになった。


 人形たちは、知識が増えるに連れて成長するらしく、ララは、毎日のようなに『あれなに?』『これなに?』って聞いてくる。


 見た目は、未だに女の子みたいで、女の子の服も男の子の服も着ている。ただ、最近は、自分のことを『ララ』ではなく『ボク』というようになって、伸びたピンク色の髪は、後ろで三つ編みにして束ねるようになった。


「ハヤト、次は字をかけるようになりたーい!」


 そして、最近は、学校の勉強にも興味を持ち始めて、今は、ひらがなを教えてあげてるんだけど、なんだか、もう一人、妹弟きょうだいができた気分だ。


 そして、最後に──花村さん。


 花村さんは、あれから前髪を上げて学校に来るようになったんだけど、実は美少女だったことが発覚して、一気にクラスの人気者になっていた。


 図書室には、未だによく行くみたいだけど、クラスの女子だけじゃなく、男子ともよく話している姿も見るし、今は、一人でいる姿を、ほとんど見なくなった。



「威世くん、おはよう!」

「おはよう、花村さん」


 そして、春が来て、新学期。


 俺たちは、6年生になって、また同じクラスになった。


 前髪を上げた花村さんは、すごく可愛くて、もう幽霊と言われていた時の面影は、全くない。


 本人は、ひたいのアザをまだ気にしているみたいだけど、もし、笑う奴がいたら、俺が守ってあげようと思ってる。


 なにより、この花村さんが、毎日つけてるヘアピンが、俺があげたヘアピンだってことは、きっと、みんな知らないんだろうな?


「ねぇ、威世くん、四丁目のお化け屋敷のこと聞いた?」


 廊下を二人で歩きながら、花村さんが、話しかけてきた。


 ──四丁目のお化け屋敷。


 それは、アランと初めて出会った場所で、色々と思い出の詰まった場所。


 だけど……


「お化け屋敷が、どうかしたの?」


「うん……あそこね、入居者が決まったみたいで、最近リフォームされたんだって」


「え?」


 その話に、ちょっとがっかりした。


 だって、もうあの場所に、アラン達が戻って来ることはないとわかったから。


「そう、なんだ……」

「うん」


 きっと、花村さんも同じ気持ちなんだと思った。


 あれから、俺たちの環境は、とてもいい方に変わったけど、それでもどこか物足りなさを感じるのは、きっと、この人間界に、アラン達がいないから。


「あのね、私この前、カールさんに似た人みちゃった!」


「あー、実は、俺もシャルロッテさんに似た人見た」


 お互いに、気のせいなのにね?

 なんて笑いながら。


 だって、あの二人が、もう人間になることはないから。


 アランが、少しでも長く生きられるように、暫くは眠らせておくといっていた。



(アラン……今頃、どうしてるかな?)


 教室に入って、窓際の席から、ふと外をながめた。


 あの呪いを解くのは、簡単なことではないらしく、前に、解こうと研究を始めた悪魔は、結局、200年たっても解けなかったらしい。それだけ、命をかけた魔法は複雑で、解くとなるっと難しい。


 それでも、アランは諦めないと言っていた。


 シャルロッテさん達の記憶を維持させたまま、ハーツだけをする。


 大事な記憶だから、なかったことには、したくないって──



「颯斗~、クラブ活動のプリント出したか!」


 外を眺めていると、数人の男子たちが、俺に声をかけてきた。


 クラブ活動のプリントってのは、何クラブに入りたいか、その希望を書くプリントのこと。


 6年生になって、また新しくクラブに入り直すんだけど


「また、今年もサッカークラブに入るよな!」


 そう聞かれて、俺は引き出しから、そのプリントを取り出した。


 アランと出会って、俺の世界は少しずつ変わり始めた。


 世界を変えるのは、たった一人の勇気から始まる。


 だから、そのに俺がなってみようと思う。


 もしかしたら、俺の他にも、勇気が出せなくて、ガマンしている子がいるかもしれないから


「いや、俺、今年は、サッカークラブには入らないよ!」


 そう言って、クラブ活動のプリントをみんなに見せた。


 第一希望に『手芸クラブ』と書いたプリントを!


「しゅ、手芸クラブ!?」

「どうしたんだよ、急に!?」


 あ、みんな驚いてる。

 まぁ、そうだよな。


 ちなみに俺は、相変わらずみんなから「かっこいい」とか「将来はサッカー選手だ」とか言われてたりするけど、もう、みんなのイメージとか気にしない。


「だって俺、可愛いもの作るのが、大好きなんだ!」


 そう言って、笑顔いっぱいで答えたら、友達みんな驚いていた。


 新しいクラスで、俺は、自分の道を切り開くための、最初の一歩を踏みだした。


 6年1組。このクラスでの生活は、いったいどんなものになるんだろう。



「はーい、みんな席に着いてー」


 すると、担任先生が入ってきて、俺たちはみんな席についた。だけど、先生の方を見た瞬間、俺は目を見開いた。


「はい。今日は、みんなにを紹介します!」


 先生の後に続いて入って来た男の子。

 その子を見て、教室中がざわつき出した。


 女子は顔を赤くしてキャーと叫び出し、男子は顔を見合せながら話してる。


 そこには、すごく整った顔立ちをした男の子がいた。


 髪の色は銀髪で、瞳の色は紫で、有名小学校の制服みたいなオシャレな服装と、キャラメル色の革製のバッグを持った、王子様みたいな男の子。


 そこには、俺の友達がいた。

 あの日、別れた俺のが──








「「行ってらっしゃいませ、アラン様!」」


 屋敷の中で、シャルロッテとカールが、僕に頭を下げた。


 人間の姿をした二人は、つい先日、目覚めさせたばかりの僕の大切な人形達。


 あれから僕は、研究に研究を重ねて、たった5ヶ月で、命の連携をとく魔法を完成させた。


 今、シャルロッテとカールのハーツは──青い。


 そして、僕の寿命も、もう減ることはない。


 ムリだと思ってたけど、ムリじゃなかった。諦めずに頑張ったら、僕の世界は、今、こんなにも輝いてる。


「ですが、また魔王様に狙われることになるとは思いませんでしたね?」


 すると、シャルロッテがそう言って、僕は苦笑いをうかべた。


 そうそう、変わったんだけど、ある意味、元に戻ったとも言える。


 実は僕、また、お父様と喧嘩して、家出してきちゃたんだ!


 あれから魔界に戻って、お父様と話しをして、その後は、それなりに上手くやってたんだけど、お父様、僕がもう少し大きくなったら、一緒に【三大世界】を征服するつもりでいるんだって。


 あ、三大世界って言うのは、僕が暮らしていた【魔界】と、天使たちが暮らす【天界】と、ハヤトたちが暮らす【人間界】のこと。


 つまり、お父様は、を目論んでるみたいで、我ながら、魔王らしい魔王で笑っちゃうよね?


 でも、そんなことしたら、天使たちも黙ってないだろうし、ハヤトたちがいる人間界が大変なことになっちゃう!


 だから、この人間界は、僕が守ることにしたんだ。


 そんなわけで、しばらく人間界こっちに暮らすことになったから、思い切って、この屋敷を買い取って、リフォームもしてもらったんだけど


「お化け屋敷に引っ越してきた、銀髪の転校生って、悪目立ちしすぎるかな?」


「ふふ、確かに妖しさは満点ですね!」


「アラン様、くれぐれも、魔界の王子だということはバレないようにしてくださいね」


 僕がそういえば、シャルロッテとカールがくすくすと笑いだした。


 また、追われることになっちゃったけど、今のこの生活が、すごく楽しい。


 

「じゃぁ、行ってきます!」


 シャルロッテに手を振って、カールと一緒に屋敷を出た。一人でも大丈夫なんだけど、カールは保護者として。


 魔界の王子とはいえ、今の僕は、小学6年生だしね!


 学校についたら、先生にご挨拶をして、カールと別れて、教室に行った。


 僕のクラスは6年1組。

 ハヤトとアヤメは何組だろう?


 そんなことを思いながら、教室の前に立つ。


「はーい、みんな、席に着いてー」


 先生が入って、僕もその後に続く。


 教室の中は急にざわつきだして、少し緊張したけど、入った瞬間、懐かしい顔を見つけて、胸が熱くなった。


 いた、ハヤトとアヤメだ。

 いきなり現れた僕を見て、すごく驚いてる。


 まぁ、簡単には解けないって言ってたのに、たったの5ヶ月で帰ってきちゃったしね。


 まぁ、それだけ僕が、優秀だったってことなんだけど……また家出してきたなんていったら、怒るかな?


 でも、いっか。


 また、こうして、大切な友達に会えたんだから──



「初めまして! 転校生のアラン・ヴィクトールです!」


 僕が笑顔で挨拶すると、同時にハヤトが立ち上がった。顔を真っ赤にして


「ア、アラン! お前……っ」


「ただいま、ハヤト!」



 きっとここから、また僕達の新しい日常が始まっていく。


 可愛ものが好きで、裁縫が得意な僕たちの、楽しくて賑やかで、ちょっとハラハラしちゃうような日常が──




 あ、そうだった。


 最後に一つだけ、みんなに約束してほしいんだけど。


 今、目の前にいる転校生が、実は、魔王の息子で、魔界の王子様だってことは




 ──僕たちだけの『秘密』にしてね♡










 『魔界の王子様は、可愛い物がお好き』


  ─fin─

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔界の王子様は、可愛いものがお好き 雪桜 @yukizakuraxxx

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ