アカネちゃん

@aikawa_kennosuke

アカネちゃん

ここのパフェ、いつか食べてみたいと思ってたんだよね。


んんー、おいしい。


チョコレートって私あんまり好きじゃないんだけど、アイスだと食べられるんだよね。


で、この生クリームの上にかかったイチゴソースも最高。


クリーミーだけど程よい酸味もあって、いくらでも食べられそう。


ああ、なんだか一気に癒される。


ほら、早めに食べなよ。溶けちゃうよ。




でさ、今日聞いてほしい話っていうのはね。


私と同じテニス部に美沙っているでしょ?


うん、そう。多村美沙


美沙とさ、4組の山崎君付き合ってるじゃん。


もう半年くらい前から付き合ってるんだけど。


あれ?もしかして、山崎君のこと、気になってた?


なーんて。冗談冗談。けどそんなに必死に否定されると逆に勘ぐっちゃうなあ。




ごめん、ごめんって。じゃあ話を戻すね。


その山崎君なんだけど、ここ一週間ずっと学校も休んでてさ。


美沙が何度連絡しても繋がらないらしいのよ。


で、美沙までふさぎ込んじゃって、部活も最近来てないんだよね。


クラスも違うから学校では部活以外でなかなか合わないし。


普段元気な子だから、すごく心配になって。


3日くらい前かな。私、放課後に美沙の家に行ってみたの。




インターホンを鳴らして少しして扉が開いて、美沙が出てきたんだけど。


なんていうんだろう、やつれてるっていうか、とにかくげっそりしてて目の下のくまも酷いの。


で、目の焦点もあっていなくて、すごく挙動不審な感じで家の周りを見てたの。私には目もくれず。




「美沙!心配してたんだよ。大丈夫なの?」


って私が声をかけても目も合わせてくれなくて。


あ、これは私が想像している以上にまずい状態なのかも、って思った。


「あの、入っても大丈夫?」


ってまた私が声をかけて、やっと美沙、我にかえったみたいで、家の中に入れてくれたの。




美沙の部屋にあがったんだけど、入ってからすぐおかしいことに気づいたの。


まだ夕方前で外は明るいのに、美沙の部屋には電気がついていて、カーテンも閉めきってた。


窓にいたってはカーテンだけじゃなくて、雨戸も閉めていたの。雨なんか降っていないのに。


「一体どうしたのよ。こんなに閉めちゃって。」


なんて言いながら私が雨戸を開けようとすると、


「ちょっと、開けないでよ!!」


って美沙が叫ぶの。




相当精神的にきてるんだなって思った。


こんな状態の美沙に山崎君の話なんてできなかったから、私はとりとめのないことを話したの。


学校とか部活であったこととかをね。完全に閉め切られた美沙の部屋の中で。


話していると、美沙は少し落ち着いたみたいで、普段の調子で話したり笑ったりしてくれるようになったの。


で、私「部活に戻ってきてよ。美沙がいないとつまんないもん」って言ってみた。


そしたら美沙、少し考えてから「それは無理かな」って言ったの。


テニス辞めたくなったのって聞いたら、そうじゃないって言うから、やっぱり山崎君のことがショックで部活に身が入らないんだなって思った。




「とにかくなんでも相談して。できることなら何でもするから。」


って私が言うと、彼女、私の方をじっと見つめて


「ありがとう。じゃあ何があったか教えてあげる。その代わり」


って言って立ち上がると、部屋のカーテンを閉め直したの。


「その代わり、これからする話を聞いて、何が起こっても自己責任だからね。」


って神妙な顔で言うと、美沙はこんな話をしたの。










「“アカネちゃん”って知ってる?


なんていうんだろう。


都市伝説っていうのかな。学校の怪談とか七不思議っていうのかな。そういう類の話。


その内容はね。




ある日の夜中、目を覚まして、2階の自室の窓から外を見ました。


外は真っ暗なんだけど、一つだけ街灯があって、その灯りに照らされて見知らぬ少女が体育座りで座っています。


少女と目が合うと、少女は笑って、すっと消えてしまいました。




これだけ。すごく短いでしょ。


話はこれだけなんだけど、問題はこの話を聞いた後なの。


その少女はアカネちゃんって言うんだけど、この話を聞いた人の前に、陽の沈んだ時間帯に現れるんだって。


そのとき、アカネちゃんは話しかけてくるんだけど、アカネちゃんは甘いものが大好きだから、“甘いものをちょうだい”って、言われるらしい。


もしその要求に答えられなかったり、アカネちゃんのお気に召さない味だったら、代わりに体の一部を持っていかれるの。


体のどこを持っていかれるかは諸説あって、目玉って話もあるし、男の場合、その、“玉”をとられるって話もある。玉っていうのは下についてる玉ね。




なんてことない作り話だって、私も山崎君も思ってた。


けどその話を聞いて一週間くらい経ってから、山崎君の連絡が途絶えたの。


彼、今も休んでるでしょ。


心配になったから、彼の両親にも電話して様子を聞いてみたんだけど、“怪我をしてしまったから”って返答で、詳しいことはよく分からなかった。


通学できないくらいなんだから、交通事故にでもあったんじゃないかと思ってたんだけど、ご両親から聞く限りだとそこまで重症って感じでもないみたいなんだよね。




でね。ちょうど3日前かな。


部活が終わって、いつもの帰り道を歩いていたの。


うち、閑静な住宅地にあるからさ、人気のない道路をしばらく歩くんだけど。


その日は変な感じがしたの。


なんていうんだろう。


つけられてるっていうか。


自分が歩いている足音に合わせて、後ろから重なって足音が聞こえてくるような、そんな感じがした。


気のせいだと思おうとしたんだけど、一度意識するとすごく気になって怖くなっちゃって。


早歩きにしたんだけど、後ろからの足音も同じように早歩きになってるような気がした。


家まであと少しなんだけど耐えられなくなって、思い切って振り返ってみたの。すごく怖かったけど、確かめて早く勘違いだと思いたかったから。


後ろには誰もいなかったの。


はあ、って、思わずほっとしたようなため息が漏れた。


よかったと思って、また歩き出そうとすると、後ろから




ザザッ




って何かが動く音がした。


で、今度は反射的に振り返ったの。


そしたらね。


住宅地だからいくつも電柱があって、取り付けられた電灯の明かりが道路に降りてるんだけど。


いたの。


電灯の下に。


電柱の裏に隠れるようにして。


顔を半分出して、こっちを見てた。


おかっぱ頭で、白いワンピースを着てる女の子が。


アカネちゃんだって、そう思った。


あの話を聞いたから、アカネちゃんが私の前に現れたんだって。




それから私は全速力で家の方へ走った。


あんなに必死に走ったのは初めてかも。


私の走る足音に合わせて、後ろからアカネちゃんが走ってきているように思えて、それを想像してゾッとしながら走った。


その日はなんとか家にたどり着けたの。




で、思ったの。


山崎君の前にもアカネちゃんが現れたんじゃないかって。


そして、話にあったとおり、体の一部をとられて、そして怪我しちゃったんじゃないかって。


あの話が本当だとしたら、最近起こってることの辻褄も合うし。




だから私、怖くって。


それで、帰りが夜にならないように、部活に行かないようにしてるの。


アカネちゃんが現れるのは、夜らしいから。」










そこまで話すと、美沙、泣き出しちゃって。


その日は美沙が泣き止むまでそばにいてあげて、帰ったの。


山崎君のことがショックで、じゃなくて、恐怖で精神的に参ってあんなふうに閉じこもってたんだね。


美沙、大丈夫かなあ。


ずっとあんな調子で部屋の中いたら、それこそ精神的にどうにかなっちゃうよ。




あ、もう全部食べちゃったんだ、パフェ。


ごめんね、私ばっかりしゃべって。


けど、ここのパフェおいしいでしょ?




ああ、よかった。気に入ってくれて。




じゃあ今度さ、一緒に美沙のうちにお見舞いに行こうよ。


何か甘いものでも持ってさ。絶対喜ぶよ。




え、ほんと?


一緒に行ってくれる?


じゃ、明日の放課後。


私、部活あるから、多分暗くなってから行くことになるけど。




うん。ありがとう。


美沙のこと、一緒に励ましてあげよう。




また、明日メールするね。


今日はありがとうね。アカネちゃん。

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