第148話 ずっと求めていたもの

大宮の家では、時々町内会の炊き出しへ行き、新しくバイトを見つけ自炊した。


でも、必要最低限しか外に出なかった。外出は苦手だ。相変わらず引きこもりだった。


沖縄での、いろんな体験を思い出すと、胸が苦しくなった。


ふと、自分がいつも真栄田さんのことばかり考え、ため息をついていることに気づいた。


これって、典型的な恋の症状じゃない?


「ない、ない、ない」


思わず声を出して、手を大きく振った。いくらなんでも、あんな真栄田さんが恋愛対象なわけがない。


でも、一緒にいて楽なタイプだった。


真栄田さんに会いたいなー。


でも、多分、彼は今頃、海の底、深く沈んでいるはずだった。



ある日、いつものように昼間っから布団に潜り込んでいると、家の前で車のクラクションが鳴っていた。いつまで経っても、止まらない。何か有ったのかな、と思って窓から顔を出すと、なんか見覚えのある人が家の前にいた。真栄田さんだ。


私は目を見張った。でも、どう見ても真栄田さんだった。


私は急いで階下に降り、玄関を開けた。


大きな黒塗りのリムジンをバックに真栄田さんが立っていた。


私は走って彼に近づき、抱きついた。


「生きてたんだ」


「豚10匹の貸しを回収しに行くって言っただろ」


よく見ると、真栄田さんは片手に大きな花束を持っていた。それに服も白のスーツに、ピンクのシャツに赤のネクタイ、頭にはスーツに全然合わないカーボーイハット。そして、首には太い金のネックレスをしていた。指にも金の指輪をたくさんして、そのうちのいくつかは宝石が付いていた。


「中国兵の中に俺とおんなじことを考えているやつがいたみたいで、俺が海に飛び込んで泳いでいたら、目の前に金塊を積んだ空のボートが来たんだ」


彼は生き残った経緯を話してくれた。


でも、私のとって金塊などどうでも良かった。彼が生きてくれさえいれば。


私は真栄田さんの胸に顔を埋めた。


「大好き」


私の顔の前には太い金の鎖のネックレスがあった。私がそう言うと、彼は金塊のことと思ったのだろう。


「だろ、だろ、あんたもそう思うだろ。うちに来れば、もっと山ほどあるぜ」


彼は好きの意味を誤解していたが、それを言うのは気恥ずかしいから止めた。


急に胸の奥に熱いムズムズする気持ちが湧いてくる気がした。安心感とともに、今まで一度も経験したことのないような感情、なんと表現してよいか分からな無いけど、強いていでば可能性、急に未来が明るくなった気がした。


ふっと、気が付いた。私が今までずっと求めていたもの、それは可能性だと。


高校を中退して、将来が真っ暗になって、可能性のカの字も無くなって、それが私にとっては普通だと思っていた。でも、無意識のうちにずっと求めていたもの、それが可能性だった。


今まで会った人、みなそれぞれ自分の可能性を求めていた。


仙台の藤原さん、名古屋の張本さん、菅浦の夏希さん、広島の恵美さん、四国の友梨と錬太、九州のノリ、北海道の国崎さん、ウラジオストクのタチアナ。


六本木の西園寺会長ですら、若い頃に実現できなかった可能性を私の若さを通して追体験しようとしていた。


いろんな事情でもともと小さい可能性を少しでも大きくしようと、みなもがいていた。それは、社会の混乱に乗じてだったり、ごく普通の古典的な方法だったり、人それぞれだったけど、私も含めてみな、結果を求めている訳ではなく、きっかけ、チャンスを求めていた。


それが一番わかり易いのが真栄田さんだ。


最初会った時、真栄田さんは何も持っていなかったけど、可能性だけは自分の内に持っていた。


そして、真栄田さんと一緒にいると、自分も感化されて、そんな気がする。


それが真栄田さんの魅力だ。


そう、私は確信した。真栄田さんと一緒なら、新しい未来が開けることを。


私のとってお似合いの人、やっと見つかった。 


               完


P.S. 長い間ご拝読ありがとうございました

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令和の乱 @okadacedar

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