第46話 試験そして旅立ち

 場所は東の大陸グラン王国内のキール街


 俺は商人のシルバ達とシンバーン国より馬車群と共にキールの街へとやってきた。

 門外でシルバ達とは別れて俺は今キールの街の門の前にたたずむ。 

 今日は奴隷だったリリアを解放しリリアが冒険者となってから1年後だ。

 リリアとの約束通りに試験を行いなんらかの答えを俺は出す。

 いや、当初から答えは出ていたのかもしれないが、やはり口に出した事は守らないとな。

 俺はそんな思いで冒険者ギルド『ライド・ドール』へとやって来た。


 ギルド内は1年前とそれ程は変わっていなかった。

 俺はさっそうと受付のリンカさんの前にやってきた。


 「タツヤです。お久しぶりですリンカさん元気でしたか?」

 リンカさんは俺の顔を見てほがらかに微笑んだ。


 「久しぶりね。元気よタツヤ君も元気そうだね」

 「ええ、それで…」

 「ああ、リリアちゃんね。呼んであげるから食堂で待ってて」

 「わかりました」

 俺は受付からギルドに併設された食堂のテーブルのある椅子へと腰かけた。

 俺は冒険者の喧騒の中ぼぉーとギルド内を見つめていた。

 

 すると奥の方から銀髪の獣人の女が歩いてきた。

 俺の第一印象は”こんな美人と旅が出来たら楽しいだろうな”と眺めていると、獣人の女はどんどん俺の方へ歩いて来て俺の前で止まった。

 俺は頭の上から順にみて行った。防具は胸、腕、足と付けているが全てが傷だらけで死線をくぐってきた感が半端ない。

 そして俺はある所で目を止めた。

 それは腰につけてある赤い鞄だ。それは俺が送った鞄だと思う。屋台で売っていた鞄だからたくさんこの世には出回っているだろうが、そんな物を偶然に身に着けて俺の前に現れるわけがない。

 俺は一呼吸してから言葉を放った。


 「リリアなのか?」

 俺は椅子に腰かけたまま、立った女を見上げながら口を開いた。

 女は口元をニコリとした。


 「はい、タツヤ様。お久しぶりです。リリアですよ」

 リリアはそう言うといきなり俺に抱き着いて来た。


 「会いたかったです」

 リリアは抱き着きながら俺の耳元で囁いた。俺は抱き着かれた瞬間に今のリリアではなく、奴隷から解放した時の幼いリリアの顔が頭の中をよぎった。


 「大きく…いや、大人になったなリリア」

 俺はそれだけ言ってリリアを体から離して立たせた。


 「いろいろ話す事はあるだろうが、まず先に済ます事がある」

 俺の言葉でリリアの目つきが真剣な物へと変わる。


 「それじゃあ椅子に座ってくれ」

 俺はリリアに座るよに促しアイテムボックスから1枚の紙を出す。

 これはアリシアに作ってもらった簡単な算術と文字の読み書きのテストだ。算術は足し算、引き算、掛け算の3つ。文字の読み書きは名前の記入と日本語で言う、あいうえおの文字をすべて書く事だ。


 「それじゃあ、リリア早速だけど算術と文字のテストをする」

 リリアはペンを持つと俺の出したテストをあっという間に書き終えてしまった。

 俺は書き終えたテストを見てニヤリとした。


 「よし、算術と文字は合格だ」

 俺の合格の声にリリアは少し不満げな顔をしていたが、まだテストが終わっていないので緊張していると俺は考えた。

 だが実際は後でリリアに聞いたが、余りに簡単すぎて自分が商業ギルドに死ぬほど通っていたのが馬鹿らしくなったと言われた。俺はこれに関しては反論せずに”そうか”と言うだけで逃げた。


 俺とリリアは依頼掲示板の前に立っていた。

 次の試験は本題である討伐だ。俺は目的の依頼を見つけてそれを剥がして受付へと持って行った。


 「ハンティングベア。ギルド推奨ランク6の依頼を受け付けました」

 俺は受付嬢から依頼書を受け取りそれをリリアに渡した。


 「ハンティングベアの討伐だ。リリアの1年間の成果を俺に見せてくれ」

 「わかりましたタツヤ様。全力でやります」


 俺達は二人で森へと出かけた。リリアの身体強化での走りは1年前と比べて格段に速くなっていた。

 俺は走りながら後ろからリリアを眺めていた。

 改めて見ると本当に子供から大人になったなと言うことがわかった。

 豊に膨らんだ胸、引き締まった腰周り、尻から延びる綺麗な足、そして幼さが抜けた美しい銀髪と美貌。

 なんだかこの歳で親になったような気分になったが、今は冒険の最中余計な事は後にしようと。


 俺達は依頼書に掛かれたハンティングベアに遭遇した場所にやってきた。

 前衛は当然リリアで俺はあくまでも後ろから観察に徹する。

 最終的には俺がとどめを指す予定だが今は余計な事は言わない。

 そして目的の魔物ハンティングベアが姿を現した。


 「さあ、リリア、力を見せて見ろ!」

 「はい、タツヤ様。行きます!」

 リリアは叫ぶとダッシュしいきなりハンティングベアとの間合いを詰める。

 ハンティングベアは突っ込んで来たリリアをけん制しようと右手を大地と平行に振る。

 リリアはハンティングベアの間合いの少し手前魔法を発動する。


 「アースウォール!」

 リリアの前に1.5メートル程の土壁が形成される。

 リリアは土壁を死角に使いながら右から回り込む。

 そしてハンティングベアの隙をついて腰からナイフを抜き放ち、剣に魔法を付与させてハンティングベアの左太ももの辺りを切りつける。


 「ギャッ!」

 ハンティングベアの短い雄たけびが上がる。

 リリアは切りつけた後に直ぐに間合いから脱出し、新たな魔法を構築する。

 ハンティングベアは態勢を整え直して両腕をリリアに叩きつけるように暴れる。

 リリアはなんとかその攻撃を回避し、魔法を発動させた。


 「ウッドウイップ!」 

 俺は初めて聞く魔法でどんな効果があるか期待した。

 ハンティングベアの周りにあった木々に巻き付いているつたが、まるで意志を持つようにハンティングベアの両腕両足を拘束していく。

 俺は面白い魔法だなと思い、俺もこんどやろうと思った。


 リリアは再度ナイフに魔力を流す。

 ナイフには薄っすらと砂が巻いているように見えた。

 そしてリリアがハンティングベアの右腕を一閃。


 「ギャァーーー!」

 ハンティングベアの雄たけびと共にハンティングベアの右腕が肘辺りから切断され、腕が地面に転がり大量の血をまき散らした。俺はその光景を見て心の中で十分合格だと判断し声を掛けた。


 「リリア下がれ。そこまでだ」

 リリアは俺の声で直ぐに俺の方へ後退する。

 俺はリリアが後退したのを確認して剣を抜き放つ。


 -真空刃-


 俺は刀を振り抜き風の刃をハンティングベアの首へと放つ。

 ハンティングベアは俺の斬撃を受けてその場に停止する。そして首を地面に転がしながら体も地面へと崩れ落ちた。

 

 「おつかれリリア。ハンティングベアの討伐部位を回収してくれ」

 リリアは俺の剣に茫然としていたが直ぐに行動に移した。

 ハンティングベアの討伐部位を回収したリリアが戻って来たので、俺はリリアに合否を伝えようとした時にリリアが口を開いた。


 「あのタツヤ様。試験の結果は出来れば私の部屋で聞いていいですか?」


 俺はなんでだ?と思ったが、1年間過ごした思い出の部屋の方が落ち着くのかと思い了承した。

 そして街に戻って来た時にリリアの誘いにより水浴び場へとやって来た。


 この場所は俺も以前使用した事にある場所で、銅貨数枚でシャワーのように水を出してくれる店だ。

 リリアの話では最近店のレベルが上がってお湯も出してくれるようになったと言う事らしい。

 俺はこのあと特に冒険に出る予定もないので、リリアと共にシャワーを浴びる事にした。

 個別の箱に入りレバーを引くと上から少量ずつお湯が出て来た。

 俺はせっかくなので防具をアイテムボックスに入れ、冒険服を洗い新しい冒険服に着替えた。

 そしてタオルで頭を拭きながらリリアを待っていると、リリアは俺が見た事ないような服を来て現れた。

  

 それは一般的にワンピースと呼ばれている物で、腕は肘までで下は太もも辺りまでしかない少し露出の多い真っ白な服だった。俺は一言「似合ってるね」とほめておいた。本心ではドキドキしていたがこれは内緒だ。


 <リリア視点>


 とうとうタツヤ様と再会した。

 昨日はドキドキしてあまり眠れなかったけど、いざタツヤに会って見ると以前と全くかわっていなくて少し安心した。

 そして直ぐに算術と文字の試験をしたのだけど、余りに簡単で少し怒れて来てしまった。

 あれだけお金を掛けて勉強したのにと思ったけど、合格すればまあいいかという気持ちに落ち着いた。

 そして討伐試験が終わった。

 私は全力を出してハンティングベアと対峙して腕の切断に成功した。でもその後直ぐにタツヤが止めに入ってハンティングベアを討伐してしまった。

 私はもしかしたらタツヤ様の想定よりレベルが低かったのかと危惧した。だから当初の計画通りに結果は私の部屋で聞く事にして、キールの街へ戻りシャワーを浴びに来た。


 『リリアここからが本当の勝負よ』


 私は堅い決心をして用意していた服を着る。

 下着はトット達と購入したスケスケの下着を着けて、服は最近購入したワンピースを着た。

 正直に下がスースーして何とも言えない気持ちだったけどこんな事ではダメと自分に言い聞かせた。

 そして私とタツヤは冒険者ギルドの私の部屋へとやって来た。

 ハンティングベアの討伐報告は明日でもいいとタツヤに言い聞かせて部屋に来た。

 部屋は狭く寝て少し物が置ける程度しかないから必然と距離が近い。

 私は勇気を振り絞って座っているタツヤを押し倒した。

 タツヤは”えっ!?”と驚いた表情をしていたけど、私はタツヤに馬なりになって上からタツヤを見つめながら聞いた。


 「試験の結果はどうでした?」


 私はタツヤに聞きながら自分が照れている事に気づいたけど、ここまで来たらダメなら行くしかないと再度決心をする。


 「リリア試験は合格だよ。見事だった」


 私はタツヤの言葉を聞いた瞬間に1年分の苦労なのか目から涙が溢れてきて止まらなかった。

 そして私はそのままタツヤの胸で泣いた。


 <タツヤ視点>


 俺はリリアの部屋で押し倒されて試験の結果を聞かれた。

 もしかしたらリリアは自分が試験に落ちていると思いこんでこんな行動に出たのかと推測したが、俺はあえてそうゆう事は口に出さないようにした。

 俺が合格だと告げるとリリアは大声で泣きだして俺に抱き着くように崩れた。

 俺は自分でリリアに試練を与えながら少しヒドイ事をしてしまったと思ったが、これも全てリリアの為にやった事だと自分を納得させるしかなかった。


 そして俺はリリアが泣き止んだ事で出発を明日の朝にして今日は久しぶりに『ライラの宿屋』に二人で止まる事にした。

 ライラの宿屋の女将さんは1年ぶりだったが、相変わらず俺に対して対した感動もなく”又来たのか”と言う感じで対応されたが、それもこの宿の特徴だと俺は納得した。

 食事は相変わらず美味しくリリアと共にお代わりをしたほどだ。

 ただ、泊っている客だろうかリリアの方をチラチラと見る男性が多かったは気になった。

 夜、俺はリリアと夜遅くまで語り合った。


 翌朝俺達は冒険者の衣服に戻り冒険者ギルドへとやって来て、討伐完了の手続きを行った。

 そしてリンカさんへ挨拶に行った。


 「リンカさんリリアが一年間お世話になりました」

 俺はリンカさんへ軽く頭を下げる。


 「タツヤさんいいのよ。私はあなたの依頼で仕事をしたんだからね」

 そう言いながらリンカさんはウインクしてきた。


 「それでこれからどうするの?」

 「今度はリリアと二人で旅に出ようと思っています。又戻って来るのでその時はお願いしますね」

 「ええ、気を付けて言ってきてね。リリアちゃんも」

 俺はリンカさんと握手をしてギルドを後にした。


 ギルドを出た所で獣人4人組のパーティーと遭遇した。

 獣人の男がいきなり声を掛けて来た。


 「リリアその男がお前の言っていた人間か?」

 「シン…そうだよ。紹介するね、こちらがタツヤ様よ」

 リリアが俺を指して俺を紹介していた。


 「タツヤ様、この4人が私とパーティーを組んでくれていた猫耳冒険者チームのシアトルオレイユよ」

 俺は紹介され特に思う事なく右手を差し出した。


 「タツヤだリリアの面倒を見てくれてありがとう」

 シンと呼ばれた男は俺と握手と見せかけて、鋭い右手の突きを俺の顔めがけて放って来た。 

 俺は瞬時に心眼を発動し首を傾げる事で突きを回避し、左手でシンの右手を掴んで逃がさないようにし、右手の手刀をシンの首元に当てた。

 しばしの硬直と緊張が走るが最初に声を上げたのはリリアだった。


 「シン!タツヤ様になんて事するの!」

 リリアは凄い剣幕で怒っていた。


 「すまない、リリアの相方の実力が知りたくて無茶をした許してくれ」

 シンは俺の目を見ながらそんな言葉を発して来た。

 俺はシンの左手を解放して右手の手刀を下げた。


 「リリアからどんな話を聞いたかしらないが、もう少しで殺す所だったぞ」

 俺は脅しも込めてそんな言葉を発する。


 「ああ、本当にすまなかった」

 シンが俺に頭を下げたので俺は許す事にした。

 シンは仲間からも『バカじゃないのか!』『相手を考えてからにしろ!』と散々言われていたのも許す要因だった。

 その後俺はシアトルオレイユと和解した。


 「リリア辛くなったらこの街に帰って来てね」

 「冒険がんばれよ」

 など元仲間からいろんな言葉を掛けて貰っていた。

 俺はもし俺が居なくなってもリリアは大丈夫そうだなと思いながら光景を眺めていた。

 そして俺達はシアトルオレイユのメンバーと別れてキールの街の出口へと向かった。


 「それでこれからタツヤ様は何処に行くんですか?」

 「そうだね、リリアは何かみたい物とか食べたい物はある?」

 俺は正直どこでも冒険が出来ると思い、最初にリリアの願いを叶える事にした。


 「それでしたら魚が食べたいですね。キールの街でも食べれるのですけど、あまり美味しくないので新鮮な魚が食べたいです」

 俺は最初港町シードルフを考えたが同じところでは俺が楽しくないと思い、ここからある程度近いもう一つの港町を提案した。


 「それならシンバーン国の南にある、港町シーサーペインに行こう」

 「はい、タツヤ様。どこまでもお供します」

 

 そして俺達の新たな冒険が始まったのだった。


 第一部 了


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 ここまで約21万文字を読んでくれてありがとう。

 これで、序章と第一部 了となります。

 第二部は今の所まだ予定を立てていません。

 読者様の反応を見て決めようと思います。

 それでは♪


 2021.9.3  

 完結にします 2021.9.10

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