第45話 シンバーン国ライラ領

 俺達はマダンの魔女から変身魔道具を手に入れた事によって目的を達した。


 「タツヤ様、ライラまではどのように帰るのですか?」

 アリシアがマダンの森からマダン王国の街へと行く道で聞いてきた。


 「ライラまでは、マダンからオーザリア王国へ馬車で行き、そこから高速移動魔道装置ラファエルでグラン王国、キールの街へと飛んでそこから馬車でシンバーン国に入ろうと思っている」


 「キールにはシンバーン国の兵士がいないですか心配です」

 「ああ、それなら変身魔道具を使用して実験をすればいいじゃないかな。兵士が居たとしてもそれほど多くないから、もし捉え得ようとしても俺が対処するよ」

 「わかりました」


 それから俺達は行きに来た道を通りマダン王国より馬車でオーザリア王国へとやって来た」


 「これが高速移動魔道装置ラファエルか」


 俺は転送装置を眺めながら呟く。

 高速移動魔道装置ラファエルは10メートル程の魔法陣が描かれていて、その周りに柱が立っているだけの代物だ。


 「しかしグラン王国まで一人白金貨60枚は高いな」

 白金貨1枚10万ジールだから片道600万ジールかよ。

 俺は心の中でいやらしい計算をしていた。


 「でも、お金で移動時間と危険を回避できるのは素晴らしいですね」

 アリシアがそんな事を話す。


 「まあ確かに。お金で時間を買えるのはいいことだな」

 そして俺とアリシアは身分証明のチェックを受け、簡単な身体検査を受けて搭乗手続きを終了した。


 「なんかドキドキするな」

 俺とアリシアは魔法陣の中に立っている。

 

 「ええ、私も初めてですので緊張します」

 俺達が話していると係の人が話し出した。


 「それでは10秒後に発動しますので、目を閉じてお待ちください」

 俺はいきなりかよと思いつつ目を閉じてしばし待つ。


 そしてまぶたの外が一瞬光ったと思ったら、体がふわりと浮くような錯覚におちいった。

 それはエレベーターで最上階から下へ降りた瞬間の感覚に近い物があった。


 「どうぞ、目を開けてください」

 聞いた事のない男性の声で俺達は目を開けた。

 そう、そこは俺が目にした事のない街の風景が映っていた。


 「ここはもうグラン王国なのか」

 「そのようですね」

 アリシアが俺の問いに答えてくれた。


 俺達は一度ラファエルから出て、次にキールの街に行くためのラファエルの搭乗手続きに入った。

 

 「本当はグラン王国をゆっくり見学して行きたいけど、次に機会があったらにしようなアリシア」

 「ええ、そうゆう機会がありましたらお願いしますね」

 それはなんとなく次がないような寂しい会話だった。


 「アリシア変身魔道具を使うのを忘れるなよ」

 「ええ、魔法陣に入った時に使用します」


 そして俺達はわずか1時間もかからずに、南の大陸オーザリアから東の大陸グラン王国のキールの街へとやってきた。


 俺達はシンバーン国の兵士の存在を気にしたがそんなような人物はいなかったので安堵した。


 「懐かしいなこの街」

 俺は街並みを見ながら呟く。

 本当なら冒険者ギルドに寄ってリリアの顔を見たいがここは我慢だ。

 後20日後にリリアと別れてから1年が経過するからだ。

 

 「さあ、アリシア。シンバーン国行きの馬車を探して行こう」

 「はい、タツヤ様」


 そして俺達は8日程掛けてシンバーン国の入り口へと辿り着いた。

 アリシアは馬車を出る際に変身魔道具を起動させ、シンバーン国の入国手続きを行い問題なく入る事に成功した。


 「うまく行ったな」

 俺とアリシアはシンバーン国の街並みを歩きながらそんな言葉を掛けた。

 

 「ええ、まるで私を探していないような感じでしたね」

 「ああ、俺もそう思った。もしかしたら、ライラ領の所で検問があるかもしれないな」

 「ライラ領ですか?」

 「ああ、シンバーン国は広いからな」

 「それでは少し時間を潰す必要がありますね。先ほど魔道具を使用したばかりですので」

 「ああ、そうか4時間で魔道具の力が消えるのだったね」

 それから俺達はシンバーン国の街並みを見て歩いた。

 ライラ領を吸収した影響なのか前からこうなのかはわからないが、道は人で溢れかえっていてその間を木材や石材を乗せた馬車が往来している様子が見れた。


 そして俺達は緊張の中ライラ領の入り口へと経っていた。

 俺達の予想通りに検問があったが、兵士の数はそれ程は多くなかったが、兵庁舎の壁にアリシアの似顔絵が張ってあるのを俺は見つけた。

 俺はそれをあえてアリシアに伝えないようにした。

 伝えれば変な緊張をするからだとおもったからだ。


 「シアさあ行こう」

 俺は商業ギルドで登録したアリシアの名を呼んで検問へと入り無事通過したのだった。

 検問から馬車で2時間程走ると白い城が目に飛び込んできた。


 「あれがかつてのライラ城ですよ」

 アリシアが横から教えてくれた。


 「綺麗なお城だね」

 「そうですね。ただ、住み心地はイマイチでしたけど」

 アリシアが少し苦笑いをしながら冗談ぽく答える。


 「それで先ほど聞いたのですが、城の近くに新しいライラ領主の館があるそうですよ」

 俺はライラ領主がアリシアの両親と言う事は分かっていてもどうやってそれを伝えるかを考えていた。


 「あれ?もしかしてタツヤ様は私がどうやって領主に会うか考えていたのですか?」

 「ああ、よくわかったね」

 「それはもう1年近く一緒に旅をしていますから、なんとなくわかったのです」

 ふふふ、アリシアが笑う。


 「安心して下さい。会う手段はしっかり用意してありますから」

 そう言うとアリシアは右手を胸の辺りに押し当てた。


 *


 「ここは領主様の屋敷故にすぐさま立ち去れ」

 俺達は領主の屋敷の前に立っていた。そして全身に鎧を着こんだ兵士が2名門前に立っていた。


 俺がアリシアを見るとアリシアは胸元を探って、1つのペンダントを取り出した。


 「あの、このペンダントを領主様に見せてください。お願いします」

 アリシアはペンダントを兵士に渡すと兵士の顔色が直ぐに変わった。


 「少々お待ちください」

 兵士はなぜかアリシアに一礼して他の部下に門番を任せて屋敷の方へ走って行った。

 5分も経たない間に兵士は戻って来た。


 「領主様がお会いになるそうだ。ついてきなさい」

 俺達は兵士に誘導されるように屋敷へと案内された。

 俺は歩きながらアリシアに小声で聞いた。


 「あのペンダントは何?」

 「あれはライラ国の王家の印と呼ばれる物ですよ。この世に3つしか存在しないものです。それで、あの門に居た兵士は以前国王に使えていた兵士なので見覚えがあったのですよ」

 俺はなる程ねと納得した。


 ライラ領主の屋敷は出来たばかりなのか凄く綺麗な感じだったが、10人位の家族が住める程度ぐらいしか大きさはなかった。

 屋敷に入るとそのまま領主が待つ応接室へと案内された。


 応接室には40台くらいの城髭の男性とアリシアによく似た綺麗な女性がいた。

 そして兵士が男性の目くばせにより扉の外へと出て行く事によって、この部屋には4人だけとなった。

 最初に声を出したのは男性だった。


 「あっアリシアなのか?」

 男性は震えるように声を出す。

 そしてアリシアは首から変身魔道具を取りはずして素顔を見せた。


 「はい、おとう様、お母さま、ただいま帰りました」

 アリシアは目に涙を一杯に溢れさせて声に出した。

 そして3人は再開を惜しむように抱き合った。


 落ち着いた所で俺もソファーへと座ってしばしの話合いが持たれた。

 アリシアは国を出てからの事を話し俺に助けるまでを語った。


 「アリシアを助けてくれてありがとうタツヤ殿」

 アリシアの父親から礼を言われた。


 「いえ、襲われている人を助けるのは当然です」

 俺が答えるとアリシアがクスクスと笑った。


 「タツヤ様はこうゆう人なんですよおとう様」

 俺はアリシアの言葉に反論できずに頬をかいて照れを隠すしかなかった。


 そしてこの日は俺は領主の館に宿泊する事になった。

 夜、ささやかではあるが領主が俺達の為に晩餐ばんさんを開いてくれた。

 いつも変な魔物の肉しか食べていない俺達にとっては心からのご馳走だった。


 夜俺は一人で部屋を当てが割れたのでベッドに寝転んで考えにふけっていた。

 

 明日にはここを出てキールの街に行こう。そしてリリアの試験をしなくてはならない。

 それから…と考えていると部屋にノックの音が鳴り響いたので返事をした。


 「アリシアこんな時間にどうしたんだ?」

 アリシアは冒険服からいつもと違う寝巻を来て俺の部屋に現れた。


 「タツヤ様と少しお話がしたくて気ました」

 俺はアリシアをベッドサイドの椅子に腰かけさせた。


 「タツヤ様は明日もう出ていかれるつもりですか?」

 俺は黙って頷いた後に口を開く。


 「ああ、アリシアをライラに送り届けるまでが俺の目的だったからな」

 アリシアは俺の言葉を受けてしばし沈黙してから口を開く。


 「その後どうされるつもりですか?」

 「前にも話したと思うけどキールの街で冒険者をやっている獣人の女の子がいるんだ。その子を迎えに行く予定だよ」

 「それからどうするのですか?」

 「正直に先はあまり考えてはいないけど、たぶん又冒険に出るよ」


 又しばしの沈黙が流れる。


 「そうですか、あのもしタツヤ様に連絡をしたい場合はどうしたらいいですか?」

 「ん~そうだな。キールの街に『ライド・ドール』と言う冒険者ギルドがあるんだ。そこに受付をしているリンカと言う人がいるからそこへ手紙を送ってほしい。世話になっているので定期的に連絡はするつもりだよ」

 「わかりました。そしたら私定期的に手紙出しますね」

 アリシアはハニカンダ笑顔で答えた。

 俺はそろそろ夜も更けて来たのでアリシアを部屋に送ろうと立ち上がった。

 

 「部屋まで送るよ」

 「いえ、すぐ近くですので一人で帰れます」

 アリシアが少し下を向いて顔を上げる。

 その目には涙がいっぱい浮かんでいた。


 「タツヤ様本当にありがとうございました。私のわがままでタツヤ様の大事な時間を使ってしまいました」

 「いいんだアリシア。アリシアとの旅はとても楽しかったよ」

 「タツヤ様」

 アリシアは少し上向きでそっと目を閉じる。

 

 えっ!?こっこれはキッキスをせがむ女性のポーズではないか!

 ここに来てのトラップなんて思わず、俺はかわいい奴だなと心の中で思いそれならと、アリシアのおでこにそっとキスをした。


 アリシアは思っていた所と違う所にキスをされてキョトンとした目をしていたが、腹が立って来たのか目じりが上がって来た。


 「タツヤ様のいくじなし!」


 アリシアは小悪魔のように舌を出して部屋を後にした。

 俺はヤレヤレと思い思考を破棄して眠りに着いたのだった。


 翌日俺は領主と婦人そしてアリシアに見送られて領主の館を後にした。

 アリシアは客人として少しの間領主館に住み、その後にライラ領内の家に引っ越す計画と話を聞いた。

 俺はアリシアに幸せに生きてくれよと思い旅立った。


 俺はライラ領からシンバーン国の街へと戻って来た。

 ここからは久しぶりの一人旅だなと思い街並みをブラついていた。

 そこで行き成り声を掛けられた。


 「あれ、タツヤ殿じゃないですか?」

 俺に声を掛けて来たのは1年程前にキールの街から、港町シードルフへ行く馬車に乗せて貰った商人のシルバだった。


 「久しぶりですシルバさん」

 「こんな所でタツヤ殿と会うなんて幸運かな」

 俺はシルバの幸運の意味がわからなかったが話を流した。


 「それでタツヤ殿はこれからどうされる予定ですか?」

 「俺は今日か明日にでもキールの街に戻る予定ですよ」

 「おお、それは丁度いいタイミング。私どもも明日キールの街に旅立つのですが良ければ一緒にどうですか?」

 俺はこんなタイミングもあるんだと苦笑いをしながら了承した。

 その夜は商人のシルバとその息子のカイトと宿を共にして、明け方近くまで酒を酌み交わしたのだった。


 そして翌日俺はシルバ達の商人の馬車群と共にキールの街に旅立った。

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