第44話 変身魔道具
場所は南の大陸オーザリアの西に位置する国マダン王国の森の中。
俺達はマダンの森の魔女マルフーラの依頼により湖に出没する魔物を討伐に来たのだが、アリシアが魔物の姿を見た瞬間にその場から逃げ出してしまった。
「アリシア待ってくれ!」
俺はアリシアを追いかけてなんとか追いつき手を掴む事に成功した。
「どうしたんだ?いきなり」
「ごっごめんなさい。あの魔物を見た瞬間に体に嫌な感覚が走ってそれで…」
これはもしかして日本でもあったように特定の害虫、例えばゴキブリとかを見ると錯乱する奴じゃないかと思う。
「大丈夫だ。あの魔物は俺が退治するからアリシアは俺のバックアップをしてくれ」
「すいません。私の為なのに不甲斐なくて」
「気にする事ないさ、さあ、取りあえず一度街に帰ってギルドで魔物の弱点をさぐろう」
「はい、わかりました」
俺達はそれから街に帰り冒険者ギルドへとやって来た。
冒険者ギルドには魔物の資料が置いてあり、金を払う事によって情報を閲覧する事が出来る。
『ジャイアントフロッグ
大人になると全長は10メートル近くになる水辺に住む魔物。体の色は緑色をしていて湖に浮かんでいると浮島に見える事から浮島カエルとの相性で呼ばれる事がある。
弱点は火と雷。
過去に討伐された場所は水の中ではなく陸上がほとんど。』
俺達は冒険者ギルドを後にした後再度湖へ向かった。
アリシアには戦いに参加せずに湖の手前でキャンプを張ってもらう事にした。
「もうし訳ありません。私はタツヤ様と戦いに参加出来ませんが、戦いの後のサポートをさせて頂きます」
アリシアはキャンプ地で俺に頭を下げてそんな事を言って来た。
「アリシアが俺が帰ってくれる場所を確保してくれるなら俺は全力で戦えるよ」
俺は今回の旅の最後の試練と言う名の戦いへと向かった。
俺の考えた作戦はジャイアントフロッグを岸へと誘導する事から始めた。
それは
昔友達に誘われて池にブラックバスの魚を釣りに行った事があった。
その時にホントの餌ではなくルアーと言う
今回のルアーには針を付ける必要なないので作成は難しくはない。なんせこの世界には魔法と言う便利な物があるからだ。
ジャイアントフロッグが主に食べているのはおおきなウナギのような魚だ。
俺は街で黒い布と木の枝を使用して長さ2メートルの疑似ウナギを作成した。
動かし方は疑似ウナギに強力な風魔法を纏わせて岸から岸へ、湖の上を飛び跳ねるように飛ばすだけと、釣りとは言えないがこの方法でジャイアントフロッグを岸におびき寄せる事にした。
岸に上がったら炎と電撃魔法を剣に纏わせて戦うだけだ。
『ゴォバァー』
その音と共にジャイアントフロッグが湖から岸へと這い出してきた。
-成功だ-
俺の投げた疑似ウナギに釣られてジャイアントフロッグが岸へと上がったのだ。
俺は剣を抜き放ちジャイアントフロッグと対峙する。
”デカい”あまりにもその巨体上にジャイアントフロッグの顔が見えない程だ。
俺は一瞬恐怖で心が折れそうになったが、迷わずに剣に魔法を付与する。
「雷よ!」
俺の言葉と共に剣に雷魔法が付与される。
「おりゃぁーー!」
俺は掛け声と共にジャイアントフロッグに切り掛かる。
俺が切り掛かった瞬間にジャイアントフロッグが右の手で応戦して来たので俺はそれを立ち切る事に成功した。
「ギャッ!」
ジャイアントフロッグは腕から緑色の液体をまき散らしながら叫ぶ。
俺はそのまま連続攻撃に移り体を支えている左手を切断する。
そして体の支えを失ったジャイアントフロッグが倒れて来たので、指輪の力を使い上空へと飛び上がる。
「炎よ!」
俺は剣に炎を纏わせジャイアントフロッグの眉間に剣を突き立てる。
そして剣にさらなる魔力を込める。
「焼き尽くせ!」
俺の言葉が発せられると同時にジャイアントフロッグの穴から炎が吹きあがる。
俺は直ぐに炎の巻き添えを食らわないよにジャイアントフロッグから退避する。
ジャイアントフロッグは穴と言う穴から炎を吹きあがらせながら息絶えるのだった。
俺は荒い息を整えながら目の前の焼かれたジャイアントフロッグを見上げていた。
本当に俺がコイツを倒したのか半信半疑だったが、完全に動かない状態を見ると勝利した事がわかった。
俺はジャイアントフロッグの額から魔石を取り出した。
残念ながらこの大きな体を解体する訳にはいかなかったので、体はそのまま放置する事にした。
そして俺は最初に切り落とした腕に注目した。
確かカエルの肉は鶏肉みたいで旨いと日本の居酒屋で聞いた事があったので、俺は腕をある程度の大きさに切り裂いてキャンプ地であるアリシアの元へ帰ったのだった。
「お帰りなさい。戦いはどうでした?」
キャンプ地に行くとアリシアは笑顔で俺を出迎えてくれた。
「ああ、なんとか今日1匹退治することに成功したよ」
「凄いですね。あんな大きい魔物を」
「ああ、それで、これがあいつの肉だ」
俺はアイテムボックスから切り裂いたジャイアントフロッグの肉を取り出す。
アリシアはその肉を見てヒクヒクと顔を引きつらせていた。
「偏見はやめて食べてみたら旨いと思うよ」
俺はアリシアが何か言おうとしていたが、文句を言われる前に調理に移った。
料理方法は至って簡単な方法で鶏肉と言えば唐揚げだが、この場に大量に油を用意する事は無理なので照り焼き風に、フライパンで味付けして焼く事にした。
「どうだ?アリシア」
俺は完成したジャイアントフロッグ(巨大かえる)の照り焼きを
アリシアはまだ勇気が出ないのか照り焼きを見ていたがいきなり声を出して口に含んだ。
「アリシア食べます」
アリシアの表情は最初硬かったが直ぐに驚くような表情に変わった。
「これ、おいしいです。タツヤ様」
「それは良かった。まだたくさんあるから一杯食べてくれ」
そう、この日から俺達の食の地獄が始まったのだ。
ジャイアントフロッグはもの凄い数の群れで生息している為、毎日のようにジャイアントフロッグの肉が手に入るのだ。
討伐は最初困難だと思ったが慣れてしまえば簡単で、まさしく流れ作業的に毎日5~6体程のジャイアントフロッグを俺は倒し続けた。
ジャイアントフロッグの照り焼きに直ぐに飽きが来たので、途中でアリシアには油や外の食材購入をしに街へと買い物に行ってもらったが、やはり日本人の俺としては食べ物を捨てるなんて”もったいない”精神で、ジャイアントフロッグの肉をいろんな方法で食べまくったのだった。
そしてジャイアントフロッグを狩り初めて20日が経過した時にやっと湖から浮島がなくなり、ジャイアントフロッグ討伐が終了を迎えた。
「アリシアやっと終わったぞ」
「やっと、やっと、ジャイアントフロッグのお肉から解放されるのですね」
アリシアは魔道具の事などすっかり忘れて肉からの解放に喜んだのだ。
ただし、俺のアイテムボックスには大量のジャイアントフロッグの肉が入っている事は秘密だ。
「さあ、アリシア魔女を呼ぶぞ」
「ええ、お願いします」
俺はアリシアの同意を得ると魔女から貰った笛を吹いた。
『ピィーーーーー』
細い笛の音が湖にこだました。
それから30分程たった頃、森の奥から魔女のマルフーラがやって来た。しかし以前見た魔女の風貌とは違い、若々しい女性が目の前に現れた。
「確認ですがマルフーラさんですよね」
俺は念の為確認をする。
「そうだよ」
魔女は答えた後に「あっ」と気づいて話を続けた。
「この前は魔道具で顔を変えていたからね。これが本来の私の姿だよ」
マルフーラの魔女は身長と服装こそ前と同じだが、紫色の長い髪を揺らしたとても耳が長い美しい女性だ。
「お綺麗なんですね」
「ふふふ、悪い気はしないけど口説いても落ちないわよ」
俺は魔女の言葉に苦笑いで答えた。
魔女は湖を見てから口を開く。
「約束は果たした見たいだね」
「ええ、苦労しましたけどなんとか倒しましたよ」
「うむ、それじゃあ私も約束通りにこの変身の魔道具を渡そう」
魔女は銀の卵型の飾りのついたペンダントを渡して来た。
「そのペンダントの所に魔石を入れて、魔力を流す事によって変身魔道具が発動する仕組み」
俺はペンダントをアリシアに渡して首から付けて貰った。
アリシアは俺を一度見てからペンダントに魔力を流す。
その瞬間にアリシアの首から上の部分がアリシアが30歳程歳を取ったおばさんへと変わった。
髪色も金色から黒色へと変化していた。
「すっ凄いな」
俺は思わず口ずさんだ。
アリシアも自分を見たそうにしていたので、おれは剣を半分引き抜いて鏡の代わりとアリシアに見せた。
「すっ凄いですタツヤ様。これでライラに帰れます」
アリシアは目から涙を
俺達が感動に浸っているときに『コホン』と魔女が咳払いをしたので俺達は魔女に振り向いた。
「一応説明しておくが、魔石は何を入れても構わないが魔石によって変身の持ち時間が変わる。今入れてあるのはお前達が倒したジャイアントフロッグの魔石のカケラを入れてある。一度発動すればおおよそ4時間で効果が切れる。あと、発動したら魔石の効力が切れるまで魔道具は止まらないので気をつけるんだよ」
「ありがとうございました」
アリシアが深々と魔女に頭を下げる。
「礼はいらんよ。こちらも契約を果たしたまで。そして魔女を俺の顔をジッと見つめた」
俺はもう一つの契約を思い出した。
そして、神様の件をアリシアに話していいものか悩んだ末にアリシアにも聞かせる事にした。
「マルフーラさんよかったら俺達のキャンプ地で話をしませんか?」
俺はマルフーラの同意を得てキャンプ地にやってきた。
そして俺は今までの事をアリシアとマルフーラの魔女に話した。
アリシアは大変驚いてはいたが、魔女は納得したような顔をしていた。
「これが今までの俺の冒険譚ですよ」
魔女は俺の話を聞き終えるとにこやかな表情になっていた。
「そうだったか。タツヤと言ったな」
俺は頷く。
「私はお前のような人間がこの世界に来てくれて快く思うぞ。それでもしこれから何か困りごとがあったなら、力になれるかわからんが私を訪ねてくれ。私も微力ながらタツヤの力になりたいと思う。突然こんな話をされてビックリするだろうが、私もこの理不尽な世界をなんとかしたいと心の中では考えていた。しかし、私の力ではどうする事も出来ない事が分かった。そしてそこにタツヤが現れたと言う訳だ」
「そうだったんですか」
「タツヤに渡した笛はそのまま預けておく。もし私に会いたければこのマダンレークのほとりで吹いてくれ」
「そうさせてもらいます」
俺はマダンの魔女マルフーラと硬い握手をした。
*
「さあ、アリシア目的は達した。君をライラまで送って行こう」
俺は魔女マルフーラと別れた後にアリシアに告げるのだった。
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