第43話 マダンの魔女

 場所は南の大陸オーザリアのオーザリア王国


 俺とアリシアは船旅を終えてオーザリア王国の港町を観光していた。

 旅の残りはこの大陸の西に位置するマダン王国の魔女に会いに行く所まで来ていた。

 先はそれほど短くはないが少しの休息と店屋を回っていた。


 「この街は他の大陸と比べて技術が進んでいるんだね」

 俺は道の端に建てられてた街頭を見ながら口を開いた。


 「確かにそうですね。3つの大陸全部で一番進んでいそうな感じですね」

 アリシアも周りを見ながらそんな言葉を返した。


 そして俺達が道を歩いていると前の方に人だかりができていて、何やら紙の様な物を売っている光景が飛び込んできた。

 俺達もその渦に吸い込まれるように足を運んだ。


 台の上に男性が昇り紙を片手に叫んでいた。


 「ビックニュースだよ!グラン大陸のシンバーン国がライラ国を吸収したよ!詳しく知りたい人はこちらを買ってくれ!」

 俺とアリシアはお互いに直ぐに目を合わせて俺はアリシアをその場に待たせて、人ごみをかき分けるようにこの世界の初めての情報誌(A3程度の紙1枚)を購入した。

 金額は銀貨2枚と銅貨5枚(2500ジール)。


 俺はアリシアの元まで戻ると人ごみの中では情報誌が広げれない為、その場を離れて道の端に寄って情報誌に目を通した。


 内容はライラ国の経済状況が悪い為シンバーン国へ編入するというもので、元のライラ国はシンバーン国のライラ領に改められ初代領主にはライラ国の現国王がその役目を与えられた。そのほかには人事に関する事やシンバーン国とライラ国の元国境の撤去等の工事案内や建設ラッシュによる人手の募集などの情報が所せましと書いてあった。

 俺はこの情報誌を読んで直ぐにアリシアの両親が無事である事に安堵した。

 それはアリシアも同様だったらしく、アリシアの顔も落ち着いていた。


 「とりあえずアリシアの両親は大丈夫そうだな」

 「そうですね…」

 アリシアの言葉の歯切れが悪いが、自分の国が無くなったとなればそうなるのも仕方ないだろう。

 そして俺は再度この質問をアリシアにする事にした。


 「アリシア前にも聞いたがマダンの魔女の件はどうする?辞めてライラに帰るか?」

 アリシアは困る様子もなく即答してきた。


 「いいえタツヤ様。マダンの魔女に会いに行きます。そして認識阻害の魔道具を手に入れたいと思います。ライラ国が無くなりシンバーン国の一部になったとはいえ、私はライラ国から逃げて来た身です。なんらかの制約があるかもしれないので、身を隠す道具があった方が私は安心してライラに帰れます」


 俺は語るアリシアの目を見てもう二度とこの質問は必要ないと思った。

 そして俺達は足早にオーザリア王国から西のマダン王国への馬車を手配して乗り込むのだった。

 

 オーザリア王国からの馬車に乗って俺は感動していた。

 この国の馬車にはサスペンションに似たような仕組みがあったからだ。

 道の段差にもそれほど荷台が揺れる事がなくスムーズに走っていたからだ。

 大陸によってこれほど差が出るのかと不思議に思った。


 *


 馬車に揺られて10日。

 俺とアリシアは目的地であるマダン王国へと到着した。


 マダン王国は周りを深い森で囲まれた気候のとても暑い場所だ。

 馬車でこの王国内に入り森を眺めていた時に気づいたが、地球のジャングルのようなうっそうと生い茂った木々が見えた。

 俺は森を見ながらこうゆう地域に居る魔物は強そうだなとなんとなくだが思った。


 俺とアリシアは早速マダンの魔女について情報を集める事にした。

 質問は『マダンの魔女は知っているか』と『魔道具を売る行商の女性を知っているか』の二つだ。

 

 二つ目の魔道具を売る行商の女性と言うのは、ミーニャからの情報だ。

 カインは喋れないと言っていたがミーニャがこっそりアリシアに教えていた情報だ。

 ただ、いつどこに現れるかわからないので俺とアリシアは冒険者ギルドや酒場などで聞き込みを行った。

 すると直ぐに情報が集まった。


 月に一度変な魔道具を売る行商人の女性が現れるとの事。ただし、魔道具はほとんどが使い物にならないような品物で、大勢の人が騙されて今ではほとんど客が寄り付かないと言うなんとも言えない情報だった。

 

 俺達は運がいいのかその行商人は数日後に来る事になっていたので、宿を取って待つことにした。


 「こんなとんとん拍子で魔女の情報が集まるなんて幸先がいいな」

 俺は素直にアリシアに語る。


 「ええ、でも使い物にならない魔道具ってなんですかね?」

 「さあな。俺も実物を見た事がないからなんとも言えないが、もしかしたら普通の人では扱えないような魔道具とかじゃないのかな」

 「魔術師向けと言う事ですか?」

 「ああ、魔道具を使用するにはかなりの魔力を必要とする。さらに回数制限があるとかじゃないかな」

 「それでしたら、みなさんが言っている事は間違いじゃないかもしれませんね」

 「ああ。でもそんな魔道具は俺達に必要ないから、魔女が素直に俺達が欲しがる物を売ってくれるといいけどね」

 俺はなんとなくだがすんなりとはいかないような気がした。

 まさかそれが現実の物となろうとは。

 

 *


 数日後俺達は魔道具を売る行商人が現れる場所に来ていた。


 「確かこの辺りに現れるといっていたのですが」

 アリシアがキョロキョロと周りを見渡していると1台の人力車のような小さな屋台を発見した。


 「タツヤ様!あそこに屋台がありますよ」

 俺はアリシアが指指す方を見ると小さな人力車がありその前に一人の女性が立っているのが分かった。

 そして噂通りにその前に客の姿は見えなかった。


 俺とアリシアは屋台の前に歩いて行き女性の前に立った。

 女性は黒い大きな帽子に黒いローブを着た、いかにもファンタジー小説に出て来る魔女のスタイルだ。

 そしてその顔は見た目40~50代くらいの女性に見えた。


 「あのすいません。あなたがマダンの森の魔女と呼ばれている方ですか?」

 アリシアは女性に向かってそんな言葉を掛けた。


 女性はジロリとアリシアの顔を見て、それから俺の顔を見た。


 「街の連中が私をどのように呼んでいるかはしらないね。だけど、マダンの森に住んでいると言うのは嘘じゃないよ」

 女性はアリシアそして俺を交互に見ながら話す。

 そしてアリシアが何か次の言葉を話そうとした時に女性は先に俺に問いかけて来た。


 「私は今まであんたのように魔力に満ち溢れた人間を見るのは3人目だよ」

 俺は何を意味しているかイマイチピンと来なかったが3人目と言う言葉に興味を示した。


 「俺で3人目ですか?他はどのような人が居たのですか?」

 「一人目は今から…50いや60年いやもっとか…まあいい、歳はそこのお嬢ちゃんと同じ位の幼い女だったよ。なんでも薬を作ってけが人を直したいと言って、薬草を精製する魔道具を購入していったよ。

 それで二人目はドワーフ族の男だったね。なにやらビクビクとしている弱弱しい男だったけど、魔物を倒さなくちゃいけないから手助けする魔道具を売って欲しいと要望を受けてちょっとした指輪を売ってやったよ。

 指輪の内容については私は秘密主義だから言わないよ。

 そしてあんたが3人目だ。

 あんたの左手からもの凄い魔力を感じるよ。まるでこの世界に有り余る魔力を感じるんだけど、あんたは何者なんだい?人間族の男よ」


 俺はチラリと左手の人差し指につけてある指輪を見た。

 これは神様から貰った指輪か。

 魔力を目で捉える事が出来る人がいるのかと俺はそっちの方に関心していた。

 そして俺はこれはチャンスと思い駆け引きをする事にした。


 「そうだね、俺達の要求を呑んでくれたら俺の正体をあなたに教えるってのはどうかな?」

 俺の言葉を聞いて女性はフフフと笑い出した。


 「面白い坊やだね。まあ、事の内容次第でその話を聞いてもいいよ」

 俺は内心でガッツポーズをしてからアリシアに目線を送った。

 アリシアは俺の目線に気づいて要望を女性に告げた。


 「昔このマダン王国の王子が付けて街を回ったとされる、認識阻害の魔道具が欲しいです」

 アリシアの言葉に魔女は大きく目を開けて、深呼吸した後口を開く。


 「まあ、よくそんな大昔の話をほじくり返したもんだね。結果から言えばあれと同じ物はないよ。あれは私の母が作った魔道具でねこの世に同じものは二つと存在しないのさ」

 アリシアはその言葉に落胆したが女性は続いて口を開く。


 「ただ、あれと似たような魔道具ならあるよ」

 「ほっ本当ですか!」

 アリシアが身を乗り出すように女性へと詰め寄る。


 「ああ、少し使い勝手と言う面は悪いが変身魔道具はあるよ」

 「変身魔道具ですか?」

 「ああ、首に掛けるネックレス型の魔道具でね、首から上の部分を違う人に見せる事が出来るものさ。ただ欠点としては使用する魔石の減りが激しくて長時間使えないのがダメなところなんだけどね」

 俺は女性の話を聞きながらとても面白い魔道具だなと思った。


 「それでいいです。よろしければ譲ってください」

 アリシアが食いつく。


 「あの魔道具と男の正体では割が合わないね。私の願いを追加で聞いてくれるなら譲らない事もないよ」

 アリシアが心配そうに俺の顔を見て来たので俺が変わりに声を出した。


 「あんたの願いとはなんだ?」

 「私は魔道の研究も行うが薬品の研究も行っている。マダンの森に大きな湖があってね、その周りに私が必要とされる薬草が生えているのだけど、この時期になるとあの緑色の忌々いまいましい魔物が大量に発生するんだ。私はその魔物を倒せるんだけど、私はその魔物を見ると腕に蕁麻疹が出てしまってね思う様に戦えないんだ。私の代わりにそいつらを全部狩ってくれたら変身魔道具は譲るよ」


 「わかった。その魔物は退治するよ」

 俺は即答で答えた。

 すると女性は口角をニヤリと上げ声を上げた。


 「それじゃあ契約は成立だね。私の名前はマルフーラ。あんた達の想像する通り魔女と呼ばれている女さ。あんた達の名前を聞いてもいいかい?」

 「俺はタツヤだ」

 「私はアリシアです」

 「よろしい。それでは魔物を倒したら湖のほとりでこの笛を吹きな。直ぐにその場所に行くでな」

 俺はマルフーラと名乗る魔女から手のひらに乗るような小さな笛を貰った。


 *


 「アリシアなんとかなりそうだな」

 俺達は魔女と別れて目的地である湖へと足を運んでいた。

 

 「ええ、でもどんな魔物なんですかね」

 「さあな。魔女が蕁麻疹が出る魔物ってどんな奴なんだろうね」

 俺達はそんな会話をしながら身体強化を使って大地を蹴って進んだ。


 「ここが魔女が言っていた湖だな」

 湖の大きさは大きいと言えば大きいが対岸が見えない程ではない。

 しかし、この湖全土に魔物がいるとなると俺達二人では討伐出来ない程の数になるがどうしようかと考えていた。

 その時目の前の浮島のような物が動いたような気がした。


 「アリシア、今目の前の島動かなかったか?」

 「えっごめんなさい。見ていませんでした」

 俺は指を指しながらあの島と指を指した瞬間にそれは姿を現した。


 浮島と思っていたのは魔物の背中だったらしく、水中から目のような物が二つ飛び出した。

 そしてその魔物はゆったりと俺達の前を通り過ぎて横の方の岸に姿を現した。


 全長は10メートルはあるだろうか。

 まさしく日本で見た事のあるような緑のカエルだ。

 巨大カエルと言ってもいいだろう。

 俺はこいつをどうやって倒すのだろうと考えていると横で悲鳴が上がった。


 「ムリ!ムリ!ムリ!ごめんなさーーーい!」

 アリシアが意味不明な言葉を叫びながら湖から撤退して行ったので、俺は後を追うしかなかった。 

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