第42話 噂話

 俺とアリシアはカインとミーニャと別れた後、ポイドンの街を歩いている時に大事な事を思い出した。

 俺は自分が作成した魔法の鞄をアリシアに渡そうと思っていたが完全に旅支度で頭から抜けていた。


 「アリシア、突然だけどこの鞄を受け取ってくれないか?」

 俺は歩きながらアイテムボックスから赤い布で作られた魔法の鞄を取り出す。


 「タツヤ様突然どうされたのですか?」

 アリシアは俺の唐突の行動で少しビックリしていた。


 「そのなんだ。俺がいつまでもアリシアの着替えとかを持っているのはどうかなと思って、俺が自作した魔法の鞄だけど受け取ってもらえないかな」

 俺は考えていた言葉を掛ける。

 アリシアは俺の言葉を聞いて口に手を当ててクスクスと笑いだした。


 「ごめんなさい。思わずタツヤ様らしいなって思ったら笑いが込み上げてきました」

 俺はそんなアリシアの言葉に少し恥ずかしくなった。


 「ですが、喜んで頂いて使わせてもらいますね」

 アリシアはそう言うと俺から魔法の鞄を受け取って紐を首から掛け魔法の鞄を体に固定した。


 「よし、町の中央で物のやり取りは良くないからそこの路地で渡そう」

 「はい、わかりました」

 俺とアリシアは街の中央通りから1本入った路地にて物を渡していった。


 「着替えにアリシアの剣にクッションに・・」

 俺はアイテムボックスからアリシアの物を出すとどんどんアリシアに渡していった。

 アリシアは俺から物を受け取るとどんどん魔法の鞄に物を入れて行った。


 「私っていつの間にこんなに物が増えたんですか?」

 「そりゃあ、俺ともう数か月に渡って旅をしているんだから増えて当然じゃないか?」

 「でも私、タツヤ様と出会った時には手ぶらでしたよ」

 「そうだっけか?俺覚えてないや」

 俺は本心は覚えていたがアリシアのあのヒドイ状態の事を思い出させないように配慮した。


 「よし、これで全部だ。アリシア鞄の中に全部あるか確認してくれ」

 「はい」

 アリシアは返事をすると自分の腰の魔法の鞄を覗き込んだ。


 「えーーー!タツヤ様!この鞄凄すぎませんか?」

 アリシアが何やら騒いでいるが意味が不明だ。


 「え?何が?」

 「だってこの鞄凄い量の物が入るんじゃないですか?」

 「ああ、確か大樽16個程度しかはいらないぞ」

 アリシアは俺の言葉を聞いて愕然としていた。

 そしてアリシアはしばし考えた後に声を発した。


 「タツヤ様はこの鞄を作ったと言っていましたが、どの位の時間を掛けて作ったのですか?」

 「ん~と30分位かな。空間を繋ぐのに苦労したからね」

 「たった30分でこれほどの物が作れてしまうのですか?」

 俺はアリシアから誉められたので頬を指でかきながら頷いた。


 「やはり私はとんでもない人に命を救われたのですね」

 俺はアリシアの言っている意味がわからずに首を傾げていると、アリシアはおもむろに頭を下げて来た。


 「命を助けて貰った上にこのような貴重な品を下さって、再度お礼を言わせてください」

 「アリシア突然どうしたんだ?とりあえず頭を上げてくれよ」

 俺の言葉でようやくアリシアは頭を上げた。


 「いいか、前にも言ったけど命を助けたのも鞄をあげたのも俺の勝手にやった事だ。アリシアはそこまで恩を感じる事ないよ」

 アリシアは俺の目をジッと見た後に口を開いた。


 「わかりました。この鞄は一生大事に使わせてもらいますね」

 アリシアは最後には笑顔になった。


 そんなこんなで俺達はポイドンの街外れとやって来た。

 目的は高速馬車に乗るためだ。

 ただ、今回の高速馬車は夜は走らない快適な馬車の旅とする予定だ。

 当然、金額が跳ね上がるが数か月の間、カインとミーニャと合同で狩りを行った事でかなり懐は温かい。


 俺達は目的の馬車が停留する所へと足を進める。

 そして馬車を管理している人に尋ねてみた。


 「この高速馬車は途中6か所のキャンプ地『キャラバン』を経由して港町のオシリスへと行きます。料金はお一人様2万ジールです。お乗りの際は身分証明が必要となります」

 俺は説明を聞いて想像通りの金額だなと思ったが、隣にいるアリシアはそうは思っていない様子だったが、他にはあまり良い選択肢がないので諦めてもらおう。


 「アリシア、この馬車に乗るけどいいかな?」

 俺はアリシアに問いかける。


 「はい、構いませんが、その…少し高すぎませんか?」

 アリシアが心配そうに聞いてきた。


 「大丈夫だよ。なんの問題もないよ」

 俺が答えるとアリシアが頷いたので俺は金を支払って馬車へと乗り込んだ。


 *


 この高速馬車は快適だった。

 今までの馬車の旅がどうだったか忘れるほどに楽な7日間だった。

 途中に寄ったキャンプ地『キャラバン』での食事は、まるで街中にある食堂のような感じで俺とアリシアは舌をうならせて食事をした。

 そして俺達は港町のオシリスへとたどり着いた。


 港町オシリスは西の大陸ラーザニアの南に位置する港町だ。

 北側の港町クラークと同様に船を使った交易が盛んな街で、海の匂いがする綺麗な街だ。

 俺達は恒例?となっている海辺の街での食事へと出かけた。

 当然食べるのは魚だ。

 新鮮な魚は海辺の街でしか食べれないからだ。

 

 俺達の入った食堂は食堂兼飲み屋みたいな場所だ。

 歩いている人に上手い魚の店はと聞いたらこの場所を教えてくれた。

 もしかしたら、飲んだつまみの魚だと少しばかり勘違いされたかもしれないが、それでも魚は美味しかった。

 そして俺達が食事をした後のんびりと雑談していると隣から何やら変な会話が聞こえて来た。

 見た感じ二人共冒険者のような格好をしている30代くらいの男性二人だ。


 「おい、聞いたんだけどよ東の大陸グランのシンバーン国がライラ国を吸収するらしいぜ」

 「それほんとうかよ?」

 「ああ、なんでも建設ラッシュとかで仕事が大量にあるって噂だ」


 俺はアリシアと目線を合わした後、立ち上がって男達のテーブルの前へと行った。


 「すまないがその話を詳しく教えてくれないか?」

 俺は彼らのテーブルの上に金貨を1枚そっと置いた。


 男達は俺達の顔を見た後に机の金貨を見てから答えた。


 「いいけど、俺もまた聞きだから詳しくはわからないぜ」

 俺とアリシアはそれに頷いて男達から噂話を聞いた。

 そして俺達は話を聞いた後に自分達の席へと戻った。


 アリシアの顔は動揺していて今にでもライラ国へ走って行きそうな感じだった。


 「アリシアとりあえず落ち着け」

 俺はアリシアが飲みかけていた果実酒を進める。

 アリシアは半分程残っていた果実酒を一気に喉の奥に流し込んだ。


 「アリシアは目的を辞めて帰りたいのか?」

 俺は率直に聞く。


 「そっそれは…」

 アリシアは自分がどうしたらいいのか迷っている感じだった。


 「俺が思うに今帰った所で何も変わらないんじゃないかと思うぞ。それにだ彼らも言っていたが別に戦争があったとかじゃないんだろ?アリシアはシンバーン国とライラ国が戦争をすると思うのか?」

 アリシアは黙って首を横に振る。


 「なら、アリシアの両親の国王は無事だと思うぞ。どちらにせよ、ライラ国に行く一番の近道は南の大陸オーザリア王国に渡って、高速移動魔道装置ラファエルで行くのが一番速いんだからな」

 俺の言葉でアリシアは少し落ち着きを取り戻したのか俺の目を見始めた。


 「やっと現状が分かって来たみたいだな」

 俺が苦笑いをしながら言うと少しアリシアはふくれた。


 「どぉーせ私は考えたらずの女ですよ」

 「おっいつものアリシアに戻ったな」

 「いつものって…」

 俺はアリシアが反論しようとしたので立ち上がって店の出口へと歩いた。


 「ちょっと待って下さいタツヤ様」

 アリシアは慌てて俺を追いかけて来た。


 *


 「ここから船に乗って南の大陸オーザリアに行くのですね」

 アリシアは港町の船着き場で船を見上げながら呟く。


 「ああ、この旅の最後の船旅だ。さっき案内所で聞いた所によるとオーザリアまでの船旅は10日らしいよ」

 「結構近いのですね」

 「ああ、なんでもオーザリア大国所有の船らしくて、大型の魔道炉を積んでいるらしく速いらしいよ」

 「それじゃ距離はこちらの方が遠いと言う事なのですか?」

 「いや、東の大陸グランからこの大陸とここからオーザリアは一緒位らしい」

 俺は先ほど自らいろいろ聞きまわっていた情報をアリシアに伝える。

 ただ、これ以上聞かれても返す言葉はないが。


 「よし!」

 アリシアが自ら気合を入れて俺を見た。


 「最後の航海に出ましょう」

 「そうだな」

 俺は笑顔でアリシアに答える。

 まあ、俺達はただ客室に乗り込んで惰眠をむさぼるだけだがなと思いながら。


 *


 それから10日後俺とアリシアは南の大陸オーザリアのオーザリア王国の港町へと降り立った。

 港町はオーザリア王国の巨大な城下町の一部と言う事で特に別名はないとの事だ。

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