待ちに待たされた最後の一捻り

依頼人と探偵が出会うところから本作は始まる。
依頼人が持参したのは、母の遺品である高価な指輪だった。その指輪に刻まれている「Iから」という文言が、本作の謎である。つまり、夫のファーストネームの頭文字は、Iではなかったのだ。そしてその送り主を捜し出すことこそ、探偵に持ち込まれた依頼だった。亡き母の秘密を暴き、それを依頼人に伝えるべく、探偵は捜査に乗り出す。
そんな滑り出しから、私は勝手に推理パートがあるものだと期待して読み進めていた。しかは意外にも本作には推理らしい推理はなかった。
探偵役が指輪の出どころや母の出身地のことを調べ上げ、送り主はあっけないほどにすぐに割れてしまった。
まあ、短篇ということもあるし......。このままなんとなくぬるりと終わってしまうのかと、一抹の不安を感じたところで最後の一捻りを持ってきてくれた作者に拍手。ここで来たか、と思わず頬が緩みます。この構成が実に素晴らしいです。

ミステリ小説の主人公たる謎には読者を惹きつける力があり、それを解き明かそうとするキャラクターの心理にも説得力があるので入り込んで読むことができました。
情景描写や丁寧な文体で、雰囲気作りも良くできてきます。お見事な短篇でした。