第20話 A summer day(20)
コンサート・・
ゆうこはそれを言われて、彼がいったい何をしにパリに行ったのかを改めて思い出していた。
「きっと。 これからも彼女に国内外から演奏会のオファーが来るやろ。 まだまだ自信なさげやったけど。 こうやってどんどんプロとしてピアノを世界中で弾いていくんや、」
優しい目でゆうこに語りかけた。
あの
どこまでもおとなしくて頼りなげな絵梨沙のことを思う。
絵梨沙さんも
頑張ったんだ。
そう思ったら胸がいっぱいになった。
「・・よかった、」
ゆうこは小さな声でそう言った。
「これからも彼女のことも、真尋のことも。 世界に通用するピアニストになれるように・・どんどんプロデュースしていく。 それがおれの仕事や、」
そっとゆうこの髪を撫で、彼女の唇に自分の唇を寄せた。
彼女と同じ部屋に寝泊りして。
何があったかなんて
もう考えるのはやめよう。
それは、彼だけでなく彼女のことも汚すようで。
「・・名前。 考えてくれたんですか?」
ゆうこはまたこぼれてきた涙を拭いながら言った。
「あ・・えっと。 空港で待ってるときに。 考えたんやけど。」
志藤はポケットから手帳を取り出した。
そこには
ひらがなで
『ひなた』
と記してあった。
「ひなた・・?」
「うん。 男でも女でもいいかなって。 女やから・・ひらがなで、ひなた。 あったかくって、かわいいやろ?」
志藤はニッコリと笑った。
その名前は本当に口にするだけで温かい気がして。
「・・ん、」
ゆうこはまた涙ぐんでしまった。
「がんばって。 育てていこうな。 ふたりで、」
彼の言葉も温かかった。
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「あ、お祭の写真? ひなた、すっごい大人っぽくってかわいいね。 浴衣だと。」
南は志藤が手帳から出した写真を見て目を細めた。
「ほんま。 ひとりで渋谷とか歩かせたら大変や、 もう。」
志藤も嬉しそうに笑った。
「おっきくなったなァ・・」
そして、思わずつぶやいた。
「今、ひなたが生まれた時のこと思い出してたやろ、」
南がからかうと、
「え? まー。 なんっかすごい騒ぎやったなあって。 今思うと、」
志藤はあの『騒ぎ』を思い出してしまった。
「ほんまは。 ちょっとなんかあったんちゃうの~~?」
「は?」
「エリちゃんと!」
むふふと笑う彼女に
「アホ。 あるわけないやろ! あのあともエリちゃんのことではゆうこにどんだけ疑われ、泣かれ、喚かれ・・」
と、その後もいろんな誤解を生んだりしたことをうかがわせた。
「ハハ。 それはさあ、もうあんたがエリちゃんのことをあからさまに『特別な存在』にしてたからやん!」
南は笑い飛ばした。
「特別って。 まあ。 中学生男子がアイドルに憧れるようなもんやって。 おれにとって、彼女は『永遠のアイドル』やん。」
それはウソ偽りない気持ちであった。
彼女のハダカを見たりしてしまったことも。
もう、遠い遠い記憶のように。
今思い出しても、あれは夢だったんじゃないか、と思うくらいで。
あのあと、ゆうこにはきちんと顛末を説明はしたが、そのことに関してはやはり口にできずに今でも黙ったままだ。
もちろん、真尋にも。
彼女と自分だけの秘密のような気がして、ちょっとそれが嬉しかったりも。
「ま。 ゆうこは5人の子供の母になり。 エリちゃんももーすぐ・・3人の子供のお母さんになるねんからな~~。月日の流れは速い、速い。」
南は志藤の肩に手をやった。
「女って。 すごいよな。 ほんまに。」
志藤はそう言って笑った。
--Fin
My sweet home~恋のカタチ。11 --sky blue-- 森野日菜 @Hina-green
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