第6話 毎日が夢気分
* * * * * *
アイル「へぇ~。憧れの生徒会長さんと仲良くなれたのかぁ。よかったねぇゆいまるちゃん!」
アイル「それで生徒会長さんはどんな人なの? カッコイイ人? 好きなのかな~?」
ゆいまる「からかわないでくださいよ~先輩!」
ゆいまる「あちがったごめんなさいアイルさん!」
思わず先輩と呼んでしまってすぐに謝るわたし。
自宅の二階。時刻は夜の十時前。
毎日の中で一番楽しみな時間。アイルさんと会える時間!
お風呂上がりのわたしは、自分の部屋のデスクでノートパソコン(お母さんのサブ)に夢中になっていた。お父さんがほんとに買ってくれた新しいやつが届くのが楽しみ!
もちろんプレイしているのは『ワンクロ』。温かな雰囲気のファンタジー世界は本当に居心地が良い。
そんな『ワンクロ』の始まりの街から少し外れた初心者向けのクエストダンジョン入り口で、わたしはアイルさん――つまり藤ノ宮先輩とチャットで会話をしていた。もうお互いの
アイル「あはは。ごめんねゆいまるちゃん。可愛くてからかっちゃった」
ゆいまる「うう。アイルさんはゲームだとちょっと性格が違うような……」
ゲーム内のアイルさんは、カッコイイ鎧を着た女性騎士の姿をしている。喋り方もリアルの藤ノ宮先輩とはちょっと違って、男の子みたいにお茶目な感じだ。あ、ちなみに『アイル』という名前は、『莉愛=LIA』を逆読みしたものだと教えてもらった。なるほどぉ。『ゆいまる』とは違ってオシャレだ……。
アイル「そうかなぁ」
アイル「ゆいまるちゃんは、こっちのうちは好きじゃない?」
ゆいまる「そんなことないです!」
ゆいまる「ごめんなさいそういう意味じゃなくって」
アイル「あはは。いいよいいよ」
アイル「ゆいまるちゃんは、どっちでもあまり変わらないね」
ゆいまる「ロールプレイが出来なくて……」
ゆいまる「なんていうか、どうしてもキャラが自分になっちゃうんです!」
アイル「あはは素直でいいことだよ。少し羨ましいくらい」
ゆいまる「え?」
アイル「それより、体調はもう大丈夫?」
アイル「昨日はうちが無理矢理連れ回しちゃったからね~。ホントごめんね」
ゆいまる「わわわっ、アイルさんのせいじゃないですよ! 気にしないでください!」
アイル「ありがとゆいまるちゃん。じゃあ、そろそろ冒険にいこっか」
ゆいまる「はい!」
アイル「けど今日は早めに切り上げようね。ちゃんと休んでもらわないと、またうちが看病することになるから」
ゆいまる「うう、もうそこまでやりませんよ~!」
アイル「あはは」
アイルさんは花と笑顔のエモーションチャットをよく使う。
ほんと、不思議だなぁ。
ゲーム内で偶然出逢った人が、まさか同じ学校の先輩だとは夢にも思ってなかったもん。
あんなに学校が憂鬱で、毎日が寂しかったのに。
『ワンクロ』を始めただけで。
アイルさんに出会えただけで。
先輩と知り合えたことで、すべてがまるっと変わった。
アイル「ちゃんとアイテムは持った? 新しいのも装備しなきゃ意味ないからね~」
ゆいまる「あ忘れてましたすぐ準備しまうs!」
夢みたいな現実が、わたしを夢心地にさせてくれたのだ。
* * * * * *
それからの毎日は本当に楽しくて、あっという間に過ぎていった。
「柊さん。学校にはもう慣れましたか?」
「あ、はいっ! クラスでも友達が出来て、楽しいです!」
「それは良かったです。ここは中高一貫教育の学舎だから、外から高等部へ来る外部生はどうしても友達作りで苦労してしまうことが多いと聞くの。けれどやっぱり、柊さんなら大丈夫でしたね」
「えへへ。ご心配おかけしました」
お昼休み。わたしはお花がいっぱいの中庭のベンチで、藤ノ宮先輩とおしゃべりをしながらお弁当を食べていた。先輩はお花にも詳しくって、この庭に咲いているものなんかを丁寧に教えてくれた。キキョウやカトレアが好きなんだって。わたしはコスモスやカスミソウが好きかなぁ? あと夏はやっぱりヒマワリ!
あの保健室で先輩と初めてお話して……一緒に『ワンクロ』を始めてから、もう一ヶ月。
ゲーム内では毎日のように先輩と――アイルさんと一緒に遊んでいるけれど、リアルで先輩と会える時間はお昼休みと放課後のちょっとした時間くらいだ。先輩は生徒会のお仕事が忙しいし、家でもいろんな習い事があるとかで、わたしなんかにそうそう時間は割けない。それでもお昼休みと放課後の活動前にだけは声を掛けてくれる。だから、わたしにとってはすごく大切な時間!
……んふっ。ふふふっ!
つい笑顔になっちゃう。
先輩はほんとに優しい。綺麗で頭も良くて弱点なんかひとつもない。毎日キラキラしている。
だからなんだろうか。先輩の隣にいるだけでわたしは幸せになれたし、気付くと目で追ってしまっている。先輩と会うたびにわたしはドキドキして、一緒にいるだけでレアリティコモンクラスのわたしの心まで輝いていくような気がしていた。
「……? どうしたの、柊さん? そんなにこちらを見つめて」
「ふぇっ!? い、いいいえなんでもないんですごめんなさいっ!」
「――あ。もしかして私のおかずが気になるのかしら。それなら、この卵焼きを一つあげますね」
「えっ! で、でもっ」
「どうぞ。あーん」
「え、ええっ!」
周りをキョロキョロ見回すわたし。ニコニコする先輩。
お昼休みの人気スポットである中庭は、当然他にも生徒が多い。そんな場所に生徒会長で人気者の藤ノ宮先輩が現れるだけで注目の的なのに、その先輩に『あーん』されてる! わたし! めっちゃ目立ってる! みんなこっち見てるよぉ!
「柊さん。はい、あーん」
「せ、せせせせんぴゃい……」
恥ずかしい。ものすっごく恥ずかしかったけど、先輩の好意を無下にはできんよぉ!
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