ゆいまーる ~ゲームでイチャイチャしていた人が憧れの先輩でした~

灯色ひろ

第1話 今宵も素敵に現実逃避

 友達が

  出来なさすぎて

   ソシャゲに飽きた

           byひいらぎ優衣ゆい


 はい字余り。季語はソシャゲでいけませんか。いけるわけないよねオールシーズン語だもんね。


「ああ~っ、くだらないこと考えてたらまたゲームオーバー!」


 五月。ゴールデンウィークが終わる深夜。

 お気に入りメーカーのもこもこパジャマを着たわたしはベッドの上に寝転がって、電池の切れそうなほんのり熱いスマホを放り投げる。

 一人っ子のわたしにとって、小さな頃からスマホが一番の遊び相手だった。

 高校生になった今も、暇さえあればスマホのゲームばかりやっている。ソシャゲの新作は一通りチェックするし、好きなやつは継続しているためもう容量はぱんぱんパンダ。だけどさすがに全部は追い切れないし、ほいほい課金する余裕なんてあるわけないし、もう飽きてきてしまった。

 あとは勉強用のアプリとか、動画サイトめぐりとか、ソシャゲの攻略サイトとかも見たりとかしたりするけど、SNSみたいな友達との連絡にはぜんぜん使ってない。

 だって友達いないから。


「はぁ……ただでさえ東京になじめんのに……」


 思わずため息もつきたくなるものです。

 小学生の頃まで沖縄に住んでいたわたしは、中学進学を機に北海道へ引っ越した。親の都合だ。

 そのときまでは友達もそれなりにいたし、ようやく南国から北の大地に慣れてきて、さぁ地元の普通高校に進学だ、というところで今度は東京へ引っ越し。親の都合だ。

 引っ越し自体はまだいいよ。いやよくはないけど。ぜんぜんよくないけども!

 それよりも大きな問題は――


「あんなにすごいお嬢様学校……やっぱりわたしには合わないやぁ……」


 壁に掛けられた清楚で小綺麗なクリーニング済みの制服を眺めて、またひとつため息をつく。

 そう。先月からわたしが通い始めた学校。明日からまた通うことになる学校。『聖アイリス女学院』。

 都内有数の名門女子校で、通っているのは本物のお嬢様ばかり。つまるところ一般的な小市民であるわたしにはお門違いな学校である。なんていうか、わたしとみんなとの空気感がぜんっぜん違う。話しかけることすら出来ない。明確に、わたしと住む世界が違う人たちだってわかるのだ。よく有名人はオーラがどうこうとか言うけどさ、本当に、お嬢様っていうのもすごいオーラが出てるんだよ。近づけないの。鉄壁のバリアなの。特効ついてないわたしにはどうしようもないの。

 でも、奇跡的に合格出来た学校だし、いろんな憧れもあったから入学時はすごくワクワクしていた。


 その憧れの中でも一番なのが――


「わたしも藤ノ宮ふじのみや先輩みたいになれたらなぁ……いやなれないけど……わかってるけど!」


 冷めてきたスマホを手にとって電源を入れると、勝手に待ち受けにさせていただいている先輩の写真が映る。


 ――藤ノ宮莉愛りあ先輩。


 わたしより一学年上の高等部二年生。超のつく美人で、誰に対しても優しくて、勉強だって出来る完璧な生徒会長さんだ。

 絵に描いたようなスーパーお嬢様の藤ノ宮先輩はみんなの憧れで、人気があって、いつも周りに人がいる。ほんと、先輩とわたしなんてまさに月とすっぽんなのだ。比べるのもおこがましいのだ。むしろ美味しいすっぽんに申し訳ないです! そもそもすっぽんってこっちでイミ合ってる? 

 まぁとにかく、当然だけど声なんて掛けられるはずもない。近づいたらわたし溶けるよきっと。でろでろ~ん。


「……ゲームの中でなら、きっと先輩にだって話しかけられるのになぁ」


 枕に顔を埋める。

 明日からはまた学校。友達のいない世界でひとりぼっち。それを思うと憂鬱で眠れず、スマホゲームに現実逃避したくなるというものなのだ。疎遠になっちゃった友達に連絡でもしたいけど、向こうは向こうでみんな大変だろうし、なんというか、気を遣ってしまってさらに疎遠になっていく。

 だからゲームなのだ。

 だって、ゲームの中でならみんな立場は同じ。年齢も性別も関係ない。誰とでもワイワイやれる。もちろんお嬢様とパンピーの隔たりなんてない。だからソシャゲの中になら友達もいる! うん、フレンド機能のギブアンドテイクな友達だけどね!


「藤ノ宮先輩も、偶然たまたま奇跡的にこのソシャゲやってて実はフレンド同士だったりとかしない……よねしませんね! はいはい! あ~もうぜんぜん眠れんし、なんかあったかいものでも飲もうかな」


 ホットミルクは睡眠に良い。沖縄のおばあちゃんに教えてもらったことを思い出したわたしは、パジャマ姿で居間へと向かった。

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