第11話 ほんとのわたしたち
「――ばか」
そう言ったのは、莉愛先輩だった。
わたしの腕を離していた先輩は、わたしを、そっと抱きしめた。
「優衣さんの、ばか」
「……莉愛、先輩?」
「どうして、私が優衣さんのことを嫌いになるの」
「それ、は……」
「勝手に決めつけないでほしい。私の想いを否定しないでほしい。そんなこと、ありえない」
「……え?」
莉愛先輩が、わたしから身を離す。
「だって、私の方がずっと優衣さんのことを好きなんだもの」
先輩は、スカートから取り出したハンカチでわたしの涙を拭いながら微笑んだ。
保健室で出会った、あの頃みたいに。
「………………ふぇ?」
「ふふ、言っちゃった。優衣さんは、迷惑かな。私が、優衣さんを好きなことは、嫌? 私のことを、嫌いになる?」
そう言われて。
わたしは、呆けたまま首を横に振った。
そんなわけなかった。
こんなに好きな人がわたしを好きでいてくれるのに、困るはずなかった。嫌いになるはずなかった。
あ……とわたしは気付いた。
「私も、同じ。もしも気持ちを伝えたら……優衣さんは、私から離れていってしまうのかなって、考えていたの。そうやって自分のことばかりで、大切な人をこんなに追い詰めてしまうまで気付かないなんて……先輩失格だと思う。ごめんなさい。本当にばかなのは、私なのに」
「莉愛先輩……」
「でも……ありがとう。優衣さんが勇気を出してくれたから……私もこうして気持ちを伝えられた。本当の私たちになれた。嬉しい。とっても嬉しいの。きっと……私たちはずっと同じだったのね」
「先輩……も……同じ……」
莉愛先輩は、涙をうかべながらうなずいた。
……うそでしょ?
ほんとに?
莉愛先輩も、わたしのことが、好き……?
「……でも、でも、わたし」
「なぁに?」
莉愛先輩が、わたしの手を握る。
「ほんとに、好きなんです……」
「私も」
「好きって、すごい、好き、なんです……」
「私もよ」
「た、ただの好きじゃなくて、その、ぎゅーってしたり、ちゅーだって、したいくらいの、やつですよ……」
「うん」
「……莉愛先輩も?」
「うん」
「ほんと、に?」
「ええ」
「ほんと、ですか?」
莉愛先輩の綺麗な顔が近づいてくる。
はじめて、だった。
手を繋いだまま。
上手く目を閉じることもできなくて、少し、しょっぱい涙の味がした。
「……ごめんなさい。はじめてだから、上手く、できなくて……」
莉愛先輩が、見たことないくらい頬を赤く染めてつぶやく。
それから先輩は、自分の胸元にそっと手を当てた。
「……あのね。私はね、臆病で、弱いの」
「……え?」
「自分の気持ちを、ちゃんと伝えられないくらいに。だから、いつでも理想の私でいられる『ワンクロ』が好きになった。優衣さんはよく私をすごいと褒めてくれるけれど、そんなことはないの。私は、
わたしはとても驚いた。先輩が、そんな風に思っていたなんて知らなかったから。
「みんな、ゲームの中では理想の自分でいられる。そこは特別な世界だから。けれど、優衣さんは現実でもゲームでも変わらない。純粋なあなたのままで……素直な心で、いつも、『莉愛』を、『アイル』を見てくれた」
「せんぱい……」
「それが、とても嬉しかった。私を私として真っ直ぐに見てくれるあなたが、とても愛おしくなって。私はね、あなたと出会えて人生が変わった。こんなに毎日が楽しいのは初めてで、あなたと一緒にいると、いつも笑っていられた。どこにいても本当の私でいられた。やっぱり同じね。明日は優衣さんとどんなお話が出来るだろうって、一緒にどこへ旅に出られるだろうって。毎晩そんなことばかり考えて、夢にまで見た。いつも、この胸はあなたのことでいっぱいになっていたの」
それから先輩は、もう片方の手でそっとわたしの胸にも手を当てた。
「私たちの想いは、私たちだけのもの。他のものと比べる必要なんてない。正しい距離感なんてない。私たちの想いを大切にすることが大切なこと。私は、そう思うの」
「莉愛先輩……」
「私は……優衣さんのことが、好き。離れたくない。もっと一緒にいたい。もっとあなたのことが知りたい。もっと私のことを知って欲しい。だから、だからね……」
ぽろぽろぽろぽろ、涙が落ちた。
「これからも、“一緒”にいてくれる?」
うなずく。
わたしは、何度もうなずいた。
同じでいいんだ。
わたしも、先輩と、同じでいいんだ。
「私たちの冒険は、きっとこれから、ね」
先輩が、涙を流しながら微笑む。
わたしはいっぱい泣いた。
泣きながら返事をした。
また、先輩がわたしを抱きしめてくれた。
世界が輝く。
バラやキキョウ。
中庭の綺麗なお花が、色とりどりに咲いていた。
* ✿ * ✿ * ✿ *
アイル「ゆいまるちゃんおそーい」
ゆいまる「ごめなしああああいルさん」
ゆいまる「ごめんなさいおくれて!」
アイル「あはは。焦らなくていいよ」
アイル「でもゆいまるちゃん、チャット打つの速くなってきたね」
ゆいまる「えへへ。さいきん練習してるんです」
ゆいまる「お父さんとお母さんからスパルタ指導で……」
アイル「良いご両親だなぁ」
ゆいまる「ただのゲーマーですよぅ」
ゆいまる「アイルさんのご両親のほうがずっと素敵だと思います……」
アイル「そんなことないよ~」
アイル「じゃあ今度紹介するね」
ゆいまる「え!」
アイル「ゆいまるちゃんに会いたいって言ってたから」
アイル「どうかな?」
ゆいまる「えええええええ」
ゆいまる「あの手土産考えます失礼のないようにちゃんとお母さんから服も借りて」
アイル「あははは。いつものゆいまるちゃんでいいからね」
アイル「でもよかったよね。お互いに旅行のこと許してもらえて」
ゆいまる「あっはい!」
ゆいまる「まだ六月なのに、楽しみすぎてもう準備してます!」
ゆいまる「トランクも買っちゃいました!」
アイル「早いなぁw」
ゆいまる「夏の沖縄は特に暑いですから、日焼け対策とかしてくださいね!」
ゆいまる「綺麗な肌を焼いちゃったらダメです!」
ゆいまる「あとあと海は結構アブナイところありますから注意です!」
ゆいまる「美味しいものいっぱい紹介しますね!」
アイル「うん、楽しみだなぁ」
アイル「ゆいまるちゃんにいろいろ教えてもらうね」
アイル「さてさて、それじゃあ今夜も軽くいっちゃおうか?」
ゆいまる「はい! 今日こそレベルアップして転職です!」
ゆいまる「それでそれで、ついに結婚クエです~!」
アイル「ふふ。そのときはちゃんとうちからプロポーズするね」
ゆいまる「え!?」
ゆいまる「えあのうれしいですけどでもそこまでちゃんとあの」
アイル「うちにもしてくれる?」
ゆいまる「え!?」
ゆいまる「はい」
アイル「ありがと♪」
アイル「じゃあ気合い入れてがんばっていこ!」
アイル「冒険スタート!」
ゆいまる「はい!」
ゆいまる「あっでもその前に」
アイル「あ、そうだったね」
ゆいまる「えへへ」
ゆいまる「じゃあ作りますね」
アイル「うん」
ギルド[ゆいまーる]が結成されました。
<了>
ゆいまーる ~ゲームでイチャイチャしていた人が憧れの先輩でした~ 灯色ひろ @hiro_hiiro
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます