第20話 マリオン視点Ⅰ
マリオンの出生時の名前はマリーで、『マリオン』は一つ上の兄の名だった。
その兄は、彼女が生まれた翌年に流行り病で無くなってしまった。
クラーク家には、さらにもう一人男児がいたが、彼もその少し前に早世したばかりだった。
当時、近衛騎士で王太子付きであった父は、その仕事に誇りを持っていた。
しかし、自らが男児をたて続けに亡くした事によって、反対派の貴族から『そんな不吉な家の者が王太子付きなど相応しくない』と噂を立てられその任を解かれることを何より恐れた。
そして、苦肉の策として、マリーを『マリオン』に仕立てたのだった。
便宜上、『マリーは寝たきり』ということにされ、その存在には箝口令が敷かれた。
彼女は物心ついた時から、対外的には男として『マリオン』として生きることを強制された。
人形遊びをしたくても、剣を握らされた。
綺麗なドレスを着てみたくても、動きやすい飾り気の無い服を着せられた。
美しい長い髪に憧れても、少しでも伸びれば短く切りそろえられた。
男よりも男らしくならなければいけないという重圧があった。
彼女は何でも我慢する間に、いつの間にか、自分が何者で何を望むのかも分からなくなっていた。
自分の意思など無く、他人が望む自分になりきる事だけが、彼女の存在意義になりつつあった。
仕事には熱心だが、留守がちで家庭のことを顧みない父に失望した末、心を病んだ母は、彼女を本当の息子のように扱った。
それはある種狂った愛だったが、彼女は息子になりきって、それを受け入れた。
母が望む『物語の騎士』にもなりきった。
可哀そうな母が束の間でも喜びに浸れるのであれば、自分は道化だろうが何だろうが、それで構わないという考えからだった。
父は時が来れば、彼女を『マリー』に戻すつもりで軽く考えていたが、実際はそう上手くはいかなかった。
年の離れた弟であるオリビエが誕生して、その重圧から解き放たれると思ったのも束の間、彼は幼くして水難事故で消息不明となってしまい、彼女は『マリオン』の辞め時を失ったのだった。
もし、彼女が極端に小柄であったり、武芸の才が皆無だったとしたならば、自分から辞めずとも、それは自ずと成り立たなくなっていたかもしれない。
だが、下手に素質があったことが災いして、彼女は誰にも気取られることなく男を続けることが出来てしまった。
それが、彼女を不幸たらしめた一番の要因だった。
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