第24話 エピローグ


 春の暖かな日、クリスティーナはマクレーンの屋敷に招かれた。


、ごきげんよう」


「やぁ、クリスティーナ。今日は来てくれてありがとう」


「流石はお義姉様、ドレスもお似合いです」


「ありがとう。だがしかし、どうも足元の風通しが良すぎて慣れないな・・・。クリスティーナこそ、今日もとても愛らしい・・・」


「まぁ、彼からだって滅多にそんな事を言われないのに、そんなに褒められると恥ずかしいです。どうかお止めになってください」


「なんだって、聞き捨てならないな。オリビエはこんなに可愛らしいクリスティーナを褒めることもしないのかい?私から、よく言っておくから・・・」


 そこにオスカーがやってきた。


「俺という存在がありながら、クリスティーナばかり褒めないでくれ。年甲斐もなく彼女に妬いてしまうじゃないか・・・」


 彼は拗ねたように言いながら、マリオンの首元に大きく節くれだったその手をやった。


 彼女の首元にはあの日、オスカーが贈った青い緑柱石の豪奢な首飾りが掛けられていた。


「オスカー様には、私に感謝してもらわなくてはなりませんね?」


 クリスティーナが意味深長にオスカーに微笑む。


「確かに、君には大変感謝している!」



 ◇



 日が暮れた頃、オリビエがクリスティーナを迎えにやってきた。


「姉さん、そろそろ僕のクリスティーナを返してもらいますよ」


「随分と気が短いな。せっかちは嫌われるぞ、オリビエ」


 息巻く弟に余裕の表情で返すマリオン。


「それでは、今日はそろそろ失礼いたしますね。お義姉様」


 別れの挨拶をするクリスティーナ。


「ああ、いつでもまた遊びにおいで。クリスティーナなら大歓迎だから」


 いつになく穏やかで柔らかな表情でほほ笑むマリオンに、彼女が女だと解っていてもクリスティーナは耳のあたりが熱くなるのを感じた。


「今度はオリビエも一緒に、晩餐にも招待しよう」


 マリオンの肩を抱いて、オスカーが言った。


 マリオンとオスカーは二人が乗ったクラーク家の馬車が見えなくなるまで、そこで見送っていた。




 辺りは静かになり、暗闇の中に風が新緑の葉を揺らす微かな音だけが聞こえた。


「・・・マリオン、本当に俺なんかが相手で良かったのか・・・お前なら幾らでも他に選べたんじゃないか?」


 オスカーが不安げに訊いた。


 マリオンは首を振ってから、真っ直ぐに彼の瞳を見つめた。


「お前が私でなくてはならないと言ってくれたように、私もお前でなくては駄目なんだ・・・オスカー」


 思わずオスカーは彼女を抱き寄せた。


「ありがとう、マリオン・・・愛してる」



 fin.

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

誰にも言えないあなたへ 天海月 @amamitsuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ