第10話


 クラークの屋敷で、マリオンと一体どんな顔で接すれば良いのか判らなくなったクリスティーナは、実家であるオリベイルの屋敷に一時的に戻ってきていた。


 彼女はマリオンからの申し出に対しての答えを、まだ決める事が出来ないでいた。


 すぐに返事をするには重すぎる話だった。


 クリスティーナは、自分のこの婚姻には、金銭的な援助も絡んでいることだし、下手に余計な事を言って、両親に心配を掛けたくないという思いがあった。


 だが、返事を決められないと思っていても、本心ではそんな事は嫌だと思っていたとしても、背水の陣にも近い立場の自分には最初から選択肢など与えられてはいないのだ、と彼女はどこか覚悟を決めていた。


 所詮、クリスティーナの意思が介入する余地など無いのだ。


 マリオンから準備が整ったと知らせられれば、指示通りにオスカーのところに行って、黙って彼に従うしかないのだ、と。


 だから、彼女はこのオリベイルの実家にはただ息抜きの為だけに来ているつもりだった。



 しかし、クリスティーナは両親から思いがけない話を聞いたのだった。


 先日、マリオンがこの屋敷にやってきて両親に告げたのだと言う。


 クリスティーナと諍いになってしまったが、全て自分が悪いから、彼女がオリベイルの家に戻ったとしてもどうか責めずに受け入れてやってほしい、もし彼女が私と今すぐ離縁したいと言ったとしても支援も今まで通り行うから何も心配は無い、と。


 支援の事を逆手にとれば、クリスティーナのような小娘一人、幾らでも自分の思い通りに動かせるというのに・・・。


 あんなに酷い事を平気で頼む癖に、クリスティーナの立場が悪くならないように些細なことまで気をつかい、まるで断っても構わないという選択肢を与えるような真似をするマリオンは、どこか矛盾していると彼女は感じた。


 彼が一体どうしたいのか、クリスティーナには解らなかった。


 彼女はマリオンが本当は何を考えているのか知りたいと思った。


 マリオンの指示通りオスカーに会えば、彼の真意を理解することが出来るというのだろうか・・・。


 マリオンの遠縁で、同僚でもあり、付き合いも長いというオスカー。


 今まで状況に一方的に流されるだけだったクリスティーナは、初めて自分の意思でオスカーに会って彼からマリオンの話を訊いてみようと思ったのだった。

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