第21話 マリオン視点Ⅱ
マリオンにとって、弟が見つかったことは僥倖だった。
単純に亡くなったと思っていた弟が見つかった喜びも強かったが、同時に、これでやっと背負いすぎていた肩の荷を降ろすことができると彼女は思った。
クリスティーナの事も、跡取りとしての事も。
◇
オスカーは、逃げられない役割を押し付けられた彼女にとって『男としてこうならなくてはならない』、『そうあったとしたら完璧』という目標のような存在だった。
けれど、どんなに努力しても、マリオンは彼のように『完璧な男』にはなれなかった。
それどころか、完璧になればなろうとする程、己が中途半端な偽物なのだと思い知らされるようだった。
にも関わらず、いつの間にか傍にいるうちに、彼の強さや逞しさ、太陽のような優しさに女として憧れるようになってしまっていた。
決して、生涯口にすることは出来なくとも、彼のことを誰よりも愛しい存在だと思うようになっていた。
そして、クリスティーナは、マリオンにとって女性としてこうありたいという理想の自分だった。
柔らかな長い金の髪に、大きく潤んだような榛色の瞳。
何を着ても可愛らしく見えるような、小柄だが女性らしいしなやかさを持った身体に、傷一つないような滑らかな肌。
彼女と過ごす時間は夢のように楽しいものだった。
彼女と一緒に茶会をしたり、ドレスや装飾品を選んだりしている時間だけは、普段の自分を忘れてただの女に戻ったような気持ちでいられた。
もし、自分がこんなに愛らしかったとしたら、オスカーにも素直に気持ちを伝えられるのに・・・。
一番初めに彼女に近づいたのは、決してそんな風にはなれないから、せめて理想の存在を近くで眺めていたいという感情に近かったのかもしれない。
けれど、欲が出てしまった。
女としての理想の自分を体現している彼女と、愛する人の間に子があれば、その子を育ててみたいという。
自分も一応機能上は女なのだから、他人を巻き添えになどせずに自身でどうにかするべきではないかという誹りは免れないだろうが、何せマリオンは女としての自分に何一つ自信が持てなかった。
寧ろ、劣等感しかなかったと言っても良い。
騎士として勤めあげてきた彼女の身体には、消えない傷や痣が数えきれないほどあった。
男性と比べれば多少華奢には見えるが、背丈も高く、剣を振るために鍛え上げた身体は、筋肉ばかりで柔らかさなど皆無、お世辞にもとても女性らしいとは言えそうになかった。
幼いころから男として育てられて、令嬢らしい挨拶の仕方もろくに出来ない。
今更めかしこんでドレスを着こんだところで酷く滑稽に見えるだけだろう。
男にも女にもなり切れない半端者の自分。
こんな醜い女を誰が抱きたいと思うだろうか。
とても、オスカーに今更真実を伝えて、自分の相手になって欲しいなどとは口に出来そうになかった。
それに、そもそも彼にこんな美しさの欠片もないような身体を曝す事そのものがマリオンにとっては憚られることだった。
気持ちが悪いと吐き捨てられ、彼の不快な顔を見るはめになるかもしれないという事も何よりも恐ろしかった。
マリオンは、自分がオスカーに相応しくない存在だと自覚し、既に傷ついているのに、彼に何かを求めてしまうことによって、これ以上傷つきたくは無かった。
だからこそ、あのろくでもない計画に思い至ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます