VirusChemicalMonster ヴァケモン
水原麻以
おわりのはじまり
時に西暦202X年。
世紀末をどうにかやり過ごし、激動の20世紀を卒業した人類に未曾有の危機が迫っていた!
新型肺炎である。過去のSARS、MERSと言った致死性の高い病原と比較にならない規模で拡大し、ゴリゴリと人類を瀬戸際に追いやっている。
来る日も来る日も、テレビに、動画投稿サイトに、SNSにそれこそ政府公式発表から市井レベルに至るまで惨状が溢れ返った。
とどまるどころか、感染拡大に加速をつけるウイルス変異。後手後手に回る予防対策。遅々として進まない新薬開発、どこから手をつけて良いかわからない隔離患者の治療。
最初の頃は世界経済の減速を心配していた専門家も次第に出演依頼を拒むようになっていた。
呼ばれれば、叩かれる。これがマスコミを忌避する彼らの本音だ。
生だろうが録画だろうが何か言えばその「一言」が切り貼りされ独り歩きする。高度な専門性は削ぎ落され、扇動者の都合がいい部分だけが歪曲される。
恐ろしい事に加工された情報に専門家である発言者の「名前」だけが取り付けられ、それが「あたかも真実」であるかのように拡散される。
いや、「エビデンス」だと言い切ってしまう人々が大半だった。なにしろ出処は「専門家」だ。権威が言う事は「ただしい」のである。
もちろん、信憑性を疑ったり、自分の持てる知識と照らし合わせてデマだと否定してくれる人もいた。。
だがその善意は「とにかく言質を利用して他人にマウントを取りたい」という権威欲、裏返せば承認欲求に飲み込まれてしまった。
「俺のデジタル署名入りで流れてんだよ。怪文書だよ!怪文書。しかも、俺より文章巧ぇじゃん。聞いたこともない学者先生の論文まで引用してあってよ。逆に読み込んじまったじゃねーか」
疫病学の権威F教授は自身のツイッターに草を連ねた。
そうやって自虐する余裕もつかの間、世界190か国にまんべんなく死者が発生した。いよいよ専門家は公権力の行使でもない限り、自ら積極的に情報発信することをやめてしまった。
「デマに利用されるから。気になる症状はネットの情報でなく、かかりつけ医を参考にしよう」、というのが建前。
本音は「ネットユーザーはバケモノだ。文字通り情報を変化させ、狐とタヌキの化かしあいに使う」
専門家たちはアカウントを抹消したり、鍵をかけて表舞台から姿を消した。
しかし、バケモノはもっと恐ろしい場所に潜んでいた。
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