ぜんぶ、いるみなていのせい

「ぐぬぬ!」

「どうした?! K博士。いつまで歯がみする積もりだ。潔く負けを認めたらどうだ。命までは取らぬ。今までの非礼も水に流してやろう。久々に良い暇潰しを愉しませて貰った」

ボス岩が懐深さを大々的にアピールしている。

その最中に異変が起きた。赤黒い照明が明滅し真の闇が挿入される。

続いて断末魔の輪唱が始まる。

「外部侵入者です」

ブリテン岩が血相を変えた。表面は青と白の横断幕で彩られ、毒々しい原色のエラーメッセージが疾走する。

「K博士、まさか?」

「ハッキングですな」

「ありえない! 鉄壁の電子要塞だ。しかもここはディープネットの最下層、選民しか到達できん。さては貴様の手下か! すぐさま特殊部隊を差し向ける」

いきり立つ石碑どもをK博士は冷笑した。

「さあ? 貴方がたに制圧できますかな。私は統率などしておりません。ただ煽っただけです」

紀一が義歯を外す。そこには古典的な電鍵とアナログな無線機が埋め込まれていた。

「モ、モールス信号だと? 何と送信したのだ?」

「・- -・--・ ・・-・- ・-・ ・-・-- ・- ・・-- ・---・ ・-」

(いるみなていのせい)


遥か洋上の豪華客船、プリンセス号。

アマチュア無線家が傍受した信号は瞬時に世界を駆け巡り、乗客の耳に届く。

「…既に有志によるホワイトハッキングが敢行され、前代未聞の大陰謀が…」

客室やロビーの受像機は速報をがなりたてている。

K博士は笑みを浮かべた。

「よろしいですかな? 勝負はまだ終わっておりません。私のターンです」






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