かせいじんあらわる


「はっは! ふぅーはっは!!」

何を思ったのかボス岩は円堂を揺るがすほど失笑した。

「何を言い出すかと思えば、脆弱性の追求でマウンティングとはな!」

オセアニアもつられて草を生やす。

「博士、今さら言うまでもないが…」

それまで傍観していた南米岩が諭す。万物はどんなに完ぺきに見えても必ず一つは致命的なバグを抱えている。そのアップグレード権限は上位者が持っている。

「ゲーデルの不完全性原理は承知の上です。そこで私が…」

「今さらストライキか? 何とも幼稚な」

オセアニア岩が困ったような声でいう。

「そうかそうか。研究資金が欲しいか。ういやつめ。何でも呑んでやるぞ。いっそ地球を丸ごとくれてやる。我々は秘密結社機械なのだからな」

ボス岩までが大はしゃぎする。まるで小動物をもてあそぶ幼稚園児だ。


子供じみたやり取りを右から左へ聞き流す間、凱・紀一は虚空に数式を描いていた。

そして、眼光を鋭くした。

「それ、侵略者の前でも言えますかな?」

哄笑がピタリと止んだ。空調ファンの響きだけが残る。

この世の終わりまで続きそうな沈黙を重々しい口調が破った。

「K博士。その方程式の解が1以上になる可能性の根拠は?」

ボス岩は紀一が綴ったドレイクの方程式に懐疑的だ。それは宇宙人の存在確率を計算するものだが導出の根拠も変数の範囲も恣意的で答えが0から百万までどうにでもなるよう幅を持たせてあった。

彼は自信満々に答えた。

「我々人類自体の存在が根拠だ。既に1、すなわち命題を満たしている。そして解の範囲が1以下に納まる保証はない。ゲーデルの原理が誤謬の訂正を要請するからだ」

そういうと、博士の頭上にウインドウが開いた。

「臨時ニュースを申し上げます。アメリカ航空宇宙局の火星探検車、キュリオシティ―がクリュセ平原で地球外生命体に襲撃された模様」

観測カメラにはっきりと軟体動物の吸盤が映っていた。

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