あくのすくつ
「フゥーハッハハハァー!」
山また、山。褶曲山脈がづづら折る、荒涼とした岩肌が波打つ大地。そのさらに奥。
濃い霧につつまれ、鳥も通わぬ断崖絶壁をかき分けた、いわゆる世界の果てに悪魔の哄笑が響き渡っていた。
猫の額ほどのホールに黒光りするモノリスが円陣を組んでいる。今にもこちらに向かって倒れてきそうな圧迫感が見る者の胃液をふり絞る。
「しかし、ちょいとばかりやりすぎではないかね?」
デジタル加工っぽいしわがれ声がひときわ大きいモノリスをいさめた。車座になった巨石にはヨーロッパだのアジアだの金属プレートが埋め込まれ、赤いLEDの明滅が抑揚とシンクロしている。
「紀一・凱博士! 出ませい!!」
ボス岩が叫んだ。
たちまち中央に疾風が渦巻いて、逆光が人影を浮かび上がらせた。シルエットの明度が閾値に達すると、小爆発が起きた。
「いーひっひ! 失敬失敬」
転がり出てきたのはボサ髪にシミだらけの白衣――もはや、そう呼べぬが――を纏った老人男性。底の抜けたフラスコを携帯している。
「極超核融合炉の実用化試験の最中でしてな。これ一滴でオーストラリア大陸を…」
「博士! 忙しいさなかに呼び出したのは他でもない」
オセアニアと書かれた岩が不機嫌をあらわにした。
「おや? お気に召しませんかな? ならば、中国大陸を…ちょうど生体レベルの実用化に目途がつきましてな。口から放射能を吐く…」
「そっちではない。貴様の働きは高く評価している。いま、世界を席巻しているウイルスの件だ」
「威力にご不満で? 別個応談可ですぞ。ただし時価と研究費前払いで」
「そういう問題ではないのだ」
「と、言いますと?」
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