エピローグ
「ねえムト、今日はホントにお父さんとお母さん、二人で行っていいの?」
朝食の席で、もう何度も同じ質問をされてる。
「だから、来てもいいってば」
「あんなに授業参観とか来ないでって言ってた子が、どうしたのかしらね」
わたしの素っ気ない態度も気にせずに、お母さんはそう言ってお父さんと顔を見合わせて笑ってる。
「それで、ムト、授業参観の時間、どんな授業なんだ?」
「それは、まあ、来てからのお楽しみ」
お父さんの問いかけに思わせぶりな返事をしておく。
いつも驚かされるばかりなんだ。
たまには両親を驚かせてみたいわたしは、すまし顔で朝食を終えた。
学校までの道、ソリアやピヴォのことを想う。
あの後どうなったのか、いろんなことが気になるけれど、聖都の
ふと、折春おじさんの
でも、いつもこう思い直す。
なら、こっちから行ってやるって。
お父さんとお母さんはいい顔をしないかもしれないけど……。
「二人が創ってくれなきゃ、自分で創るしかないよね!」
わたしはぐっと
「おはよー、むーちゃん!」
のぞみんが後ろから抱き着いてくる。
「おはよ!」笑顔で挨拶を返す。
「おう、ムト、おはよっす」
「おはよ、いずみちゃん」
すっと近づいて挨拶してくる高橋に笑いながら返事を返す。
「いずみちゃんって言うなよ!」
「あのね、いい名前なんだからもっと堂々としなよ!」
わたしの口から、数か月前までは想像もできない言葉が飛び出す。
「へ? そう? そうか……そっか!」
高橋はなんだか嬉しそうに離れて行った。
「ふーん」のぞみんがニヤニヤと笑いかけてくる。
「なによぅ」
「大人になったんだね?
のぞみんは、やっと言えた! みたいなすっきりした顔でわたしの名前を呼んだ。
「まあね、これからもよろしく、
「ふふふー、そうだね、ずっと一緒だもんねー」
その言葉に、しばらく前に『
でも思う、あれが無くても、きっとわたしの願いは叶う。
夢を抱き、それを求める限り、わたし自身がそれを叶える魔道具なんだ。
―――――
「はい、今日はご家族の人が来ていますけど、みんな緊張しないようにね」
担任の荒垣先生はいつもより緊張した顔で、わたしたちを見回して言った。
「えっと、それじゃあ授業を始めます。今日は「身近なお仕事」について発表してもらいます。みんな準備はいいですね?」
はい。と、照れたような苦笑で返答するクラスメイト。
一年の一学期を共に過ごした時間でクラスの中の雰囲気も親密な感じが増えた。
「それじゃ、出席順で、
「はい」
わたしは返事をして起立する。
ちらりと教室の後方に目をやると、見慣れた両親の顔が見えた。
机の上に用意した原稿用紙を掲げ、読み始める。
「身近な仕事について。私の両親は魔道具職人です」
後ろから吹き出すような音、それに続き少しざわついた声を聞きながら続ける。
「私の両親は、いろいろな部品を作る仕事をしています。家の敷地内にある小さな工場で、夜遅くまで、ときには休日も働いています。父が作る部品は、いろいろな機械や、車や飛行機などに使われているそうです。母は工業デザイナーと言って、安全で使いやすいといった形を考える仕事をしています。時には母がデザインしたものを父が作ることもあります。さて、私は不思議な物語が好きで、特に魔法が出てくる物語は大好きです。速く走ったり空を飛んでみたいと思います。きっと多くの人もそう思っているのではないでしょうか? 私は父にそんな魔法の道具は作れないの? と聞いたことがあります。父は言いました。もうそういった道具はこの世にあるよ、と。それは車や飛行機のことだそうです。私はその答えにちょっとがっかりしましたが、父は続けてこう言いました。この世の中に魔法はないけど、科学を追求すればそれは魔法と同じになるんだよ、と。火や水や風の魔法は無くても、ライター、水道、扇風機がある、と。私はなるほどと思いました。科学が魔法と似たようなものならば、両親の作る部品や道具はきっとこの世界の
それは人にとって便利で、きっとみんなを幸せにしてくれる。どんな願いも、夢も叶えてくれる魔法の様で、だからやっぱり、私の両親は魔道具職人です」
―― 了 ――
わたしの両親は魔道具職人 K-enterprise @wanmoo
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