第5話 新幹線に11時間閉じ込められた話⑤
不審がる客席に前の新幹線が駅にいるため待っているというアナウンスが流れる。
最初は納得していた乗客たちも、その回数があまりに多いため、イライラしてきた。
東京から乗ってきた人はもちろん、再開したと思って大宮から新たに乗って来た人も、そのあまりの停止の多さにイライラしていた。
「なんでこんなに止まってばっかりなの」
「ここまで動かないなら、先に言ってくれれば、新幹線じゃない手段を使ったのに……」
駅でそういう案内があったのかなかったのかわからないが、再開する=いつも通りに着くと思って大宮から乗った人もいたのであろう。
私の後ろの席は大宮から乗った老夫婦だったのだが、奥さんが非常にイライラしていた。
もう一つ、先に言ってくれればだったのは、大宮を出たら、その後はほとんど買い物が出来ないということである。
新幹線は駅ではなく、途中で止まってしまうから当然そこでは買い物が出来ないし、途中駅で停車しても安全のためという理由で自販機にも行かせてくれない。
「喉が……乾いた」
そんな声もぽつんと聞こえた。
紋切り型の謝罪文言だけを機械的に言うのではなく途中で何度も止まることがあるかもしれないから買い物をしておいてなどを先にアナウンスしてくれていれば買っておいたのにという人も多かっただろう。
とりわけかわいそうだったのは小さな子供たちである。
楽しみにしていた外出で、先も見えない状況になり、着いたらあれをしようこれをしようと胸を膨らませていたかもしれない事態がどんどん悪くなっていく。
「お母さん……お腹空いた……」
自分がトレイに行くために歩いていた時には、そんな声も聞こえた。
安全のために駅でもおろさないとのことだったが、子供が脱水症状とかになったら、それこそ命の安全が脅かされるのではと心配になった。
新幹線は幸いなことにWi-Fiがあったので、それで動画を見ることは大人にとっても子供にとっても暇つぶしになっていた。
自分は電子書籍でも読もうかと思ったのだけど、そんな気になれず、ネットのニュースやTwitterを見ていた。
ネットのニュースには「東北新幹線一時ストップ、利用客困惑」などの字が躍り、うん、困惑してるよという気分になった。
他にも「16時に東北新幹線運転再開」という記事があり、こういう記事を自分が見た時は通常運航に戻ったものと勝手に思っていたが、そんなことはないんだなと、自分が体験しないとわからないものだと実感した。
Twitterを見ると同じく新幹線に閉じ込められている人たちがいた。
北陸新幹線まで止まったのかと驚くと共に、駅のほうもだいぶ混乱していたのだと知った。
自分たちは既に乗っていて閉じ込められたのだけど、新幹線が動かないということは、その後の時間に乗るはずだった人たちは駅で足止めされたということだ。
座る所もなくて、難儀した人たちもいるらしく、それもそれで大変だなと思った。
そして、東北新幹線に閉じ込められた中にはコンサートに行くために乗っている人もいることがわかった。
ちゃんとコンサートに間に合うのか非常に心配していて、見ているこちらも心配になった。
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