第8話 新幹線に11時間閉じ込められた話⑧

 後から知ったのだが、2時間以上到着が遅れた場合は特急券が払い戻しになる。

 そのため、払い戻しの話になったのだが、その2時間以上という縛りのためか、アナウンスはこんなことを言った。


「ただいま東北新幹線では2時間ほどの遅れが発生しており……」


 いやいや、2時間じゃないでしょう。

 10時20分に乗ったのに、もう20時近くですよ。


 心の中でそう思っていたら同じことを思ったのか、SNSに東北新幹線が過少申告してごまかしていると怒ってる人もいた。


 ネットでは何かが起きた時に「少しくらいの遅れで文句言うな」とか「それくらいのことで」とか不満を言う側を非難する言葉が出るが、そういうのは会社側の発表で言われた時間や状況だけを鵜呑みにして起こっているのかもしれないと気づいた。


 また、喉の渇きや見通しがつかない不安感、お腹が空いて子供が泣いているとかそういうのは伝わらない。

 大きな災害の時はもっとそういうのが伝わってないのだろうなと、とっぷりと暗くなっていく外を見ながら思っていた。

 

 もはや各駅停車になってしまった新幹線。


 のろのろと二戸などにも停まりながら、新青森に着いた頃には21時を過ぎていたと思う。


 もうすぐ新青森に着くとなると、仙台や盛岡のお客さん同様、みんな立ち上がって外に出る準備を始めた。


 アナウンスがすぐには着かないから座っていてと促し、乗客たちは安全のために席に戻ったり、近場の空いてる席に座った。


 到着を待つ中、ベビーカーに座った疲れ切った顔をした小さな子と目が合った。


「大変だったね。疲れちゃったよね」


 思わず声をかけるとベビーカーを押していたお父さんが微苦笑を浮かべた。


「本当ならもう今頃、ご飯食べて寝てるのにね」


 そうか、小さい子なら21時だともう寝てるか。


 向こうではおばあちゃんが待っていて、本当は一緒に楽しく夕飯を食べて、寝ていた頃だったのかもしれない。

 大人は地震を理解できるが、小さい子はよくわからず、不安だったことだろう。

 

 新幹線を降りた後も、すぐに駅の外に出られるわけではなく、特急券払い戻しのためにみどりの窓口に並ぶことになった。


 手続きは1年以内なら出来る、クレカで買ったら買ったカードが必要だが買った駅で出来るなどのアナウンスがあったが、みんな不慣れな払い戻しの話なので混乱していた。

 後から本当はこの手続きが必要だったとなると怖いのもあって、みんな、みどりの窓口に並んでいた。

 

 改札の外に出た時は既に外は真っ暗だった。

 コロナの影響で店は早く閉まっているため、駅の中も外もやっているお店がない。

 どこかコンビニがありますようにと願いながら、タクシー乗り場に降りると、凍えるほどに冷たい雨が降っていた。


 東京駅を出たのが10時20分。

 新青森に着いたのが21時台。


 本来なら13時半には着いていたのが、11時間近いとんだ長旅になった。


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