新幹線に11時間閉じ込められた話

井上みなと

第1話 新幹線に11時間閉じ込められた話①

 2021年5月1日10時27分頃。

 宮城県沖でM6.6の地震があった。

 その時、私は東北新幹線の中にいた。

 

 5月1日。

 私は家族の事情でどうしても新青森に行かなければならず、朝早く起きて、お弁当を作っていた。

 なぜかその日は朝からハンバーグを作り、さらにはホットケーキも焼いて、お腹いっぱい食べて、お弁当も作ろうとした。

「向こうに着いてから食べればいいのに。どうせ昼過ぎに着くんだし」

 家族の言い分はもっともだった。

 13時過ぎには新青森に着くのだ。向こうで食べればいい。

 しかし、なぜか私は一生懸命、お弁当を作り、家にある子供の好きなお菓子やペットボトルのお茶などを妙にたくさん詰め込んだ。

 思えばこれは何か虫の知らせがあったのかもしれない。

 私の準備は幸か不幸か後で役に立つことになる。


 私は不注意な人間で、いつも何かを忘れたり、遅れたりしがちなので、飛行機や新幹線に遅れるのがとても怖い。

 飛行機など昼発の便でも怖いため、家から1時間と掛からないところに飛行場があるのに、朝から飛行場にいて朝食を摂ったりしているくらいである。

 この日も横浜を早く出て、東京には9時半前には着き、待合室でアイスロイヤルミルクティーなどを飲んで時間を潰していた。

 そして、10時20分。東京発新青森行き、はやぶさ17号に乗る。


 電車に乗ってすぐ、私は朝早く起きたこともあり、寝てしまった。

 家族に起こされたのは、大宮に着いた25分後。

「地震があったから、安全点検のためにしばらく停車するって」

 私は半分寝ぼけていた。

「しばらく停車するなら、寝かせておいてくれればいいのに……」

 目をこすりながらスマホをつけると、震度5の地震があったとのこと。

「震度5くらいの地震なら、春にもあったし、その内、動くでしょう」

 東北新幹線は運転見合わせ、再開の目途は立ってませんとはアナウンスされていたものの、この時はそれほど長くなるとは思っていなかった。


 同じように考える人が多かったのか座席でじっとしている人も多かった。

 うちの家族は落ち着きのないほうなので、すぐに席を立ち、飲み物を買いに行った。

 私は家族が自販機に行っている間に、新幹線が出てしまうのではと心配したが、そんなことはまったくなかった。

 アナウンスはしばらくお待ちくださいを繰り返し、いつ動くかを言わない。

 車内でもいつ動くのかと不安が広がる。

 私は席を立ち、子供を連れて、ホームに出ることにした。

「ずっと閉じ籠って座っていると、体に良くないから。少し歩いてくる」


 同じことを考えたのか、子供が車内でぐずったのか、他にもホームには子供を連れた人たちが歩いていた。

 先頭まで行って、はやぶさの写真でも撮ろうかなと思ったが、なんとなくそんな気分になれず、やめておいた。

 思えばホームで停まったのは幸いだった。

 車両の外に出ることが出来るし、飲み物も買える。

 私は長期化しそうな予感がして、座席に財布を取りに戻った。

「ちょっとお弁当とかいろいろ買ってくる」


 大宮駅は大きな駅だから何かあるだろうと思って階段を降りたものの、ルミネやエキュートがあるのは改札の外で、新幹線入り口の中にはニューデイズと小さなお土産・お弁当屋さんしかなかった。

 私はそこで崎陽軒のシウマイ弁当を買った。

 横浜の人間が崎陽軒の弁当を買ってどうすると思われるかもしれないが、人間、非常時は食べ慣れたもののほうが良いと見たことがあるので、一番食べ慣れたものを買った。

 崎陽軒のシウマイは横浜の人間のソウルフードなのだ。

 その後、ニューデイズに行って、飲み物のペットボトルと子供の好きなお菓子を買っていると、子供の手を引いて、ホームに急いで駆け上げっている人がいた。

「もしかして、もう発車するってアナウンスがあった!?」

 私は商品を手に持ち、もう片方の手で子供の手を引いて、慌ててホームへの階段を駆け上がった。


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